【733 あなたの心を ⑥】
ケインの名前を間違えてケントと書いてましたので、名前だけ訂正しました。
俺がケインの誘いを断ってから二週間が過ぎた。
「仲直りをしたのでしょうか?」
日用品を買いに外に出た俺とレイラは、ダニエルとケイン達4人が一緒にいるところを目にした。
久しぶりに見たダニエルは、以前より少し痩せて見えた。
ずっと家にいたからかもしれないが、俺とは事情が違う。
俺に叩きのめされた事で心を病み、周囲の心無い声がそこに追い打ちをかけたのだ。
俺は魔法の研究のため家に籠っているが、必要があれば外に出るし、働く事もある。
しかしダニエルは外に出たくても、周囲の目が気になり出られないのだ。
同じ引きこもりでも、俺とダニエルは全く異なっている。
「・・・妙だな」
「え、なにがですか?」
外に出れないはずのダニエルが外にいて、しかも関係の切れたケイン達と一緒にいる。
そしてダニエルのあの表情だ。
笑ってはいるが、あれは顔の筋肉を動かして作っただけの偽の笑顔だ。
血色も悪く、どこか病的にも見える。
「・・・急になにがあったのかと思ってな。今まで無視をしていたのに変だろ?それとダニエルだが、あれは危ないな。レイラ、俺がいない時は誰が来ても玄関を開けないでくれ」
「・・・はい」
ダニエルはレイラに気がある。
こうして外に出てきて、またあの四人とつるむとなると、用心しておいた方がいい。
いっその事、今の内に消してしまおうか?
そんな考えが頭に浮かんだ時、シャツの裾を引かれて振り向くと、レイラが優しく微笑んでいた。
「バリオスさん、怖い顔してますよ?心配しなくても大丈夫ですよ・・・」
「・・・・・」
最近のレイラは笑顔を見せてくれる事が増えた。
それは小さな蕾のような、ささやかで控えめなものだったが、悲しみの無い笑顔だった。
「バリオスさん」
ふいにレイラが俺の手を取り、両手で包み込んだ。
「・・・レイラ?」
「私は本当に大丈夫ですよ・・・だって、バリオスさんが守ってくださるのでしょう?」
だから笑ってください
なぁレイラ・・・俺達の関係はなんて表現すればいいのかな?
恋人ではないし、友達というのも少し違うと思う
心に同じ傷を負った二人が、肩を寄せ合って暮らしている
この関係に呼び方なんて無いのかもしれない
けれど、俺はキミと出会えたから
キミと過ごしたこの一年足らずがあったから
人の心を取り戻して、これから先の終わりの見えない時間を歩く事ができたんだ
その日の夜
俺は初めてレイラと同じ部屋で寝た。
布団を二つ並べて、お互いの昔話しをした。
俺がカエストゥスの生まれだという事は、最初から検討がついていたらしい。
やはり、あの身なりでは分かってしまうだろう。
けれど俺が孤児院で子供達の面倒を見ていた事や、リサイクルショップで働いていた事には、大きく驚いていた。
「言いにくいのですが、バリオスさんは接客が向いてないように感じますので・・・」
そう言ってレイラは、俺に顔を向けてクスリと笑った。
「不愛想だって言いたいんだろ?」
「ふふ、そう怒らないでください」
チラリと目を向けると、レイラが楽しそうに目を細める。
こんなやりとりができるなんて、どうやら俺に対して、ずいぶん気を許してくれたようだ。
レイラも自分の事を沢山話してくれた。
この村で生まれ育ち、そして幼馴染だった男性と結婚をした事。
子宝にも恵まれて、貧しくても幸せな家庭を築けた事。
けれど二年前に事故で、夫と子の二人を亡くしてしまった事。
「私は・・・とても、とても幸せでした・・・・・」
枕に頭を乗せて、天井を見つめたまま、レイラは声を震わせて大粒の涙を零した。
俺は何も言えなかった。
メアリーとティナを失った俺には、レイラの気持ちが痛い程よく分かるからだ。
言葉では何の助けにもならない時がある。
レイラの押し殺したすすり泣きが耳に届く。
泣き顔を見せないようにしているのだろう、俺に背中を向けて静かに肩を震わせている。
今、言葉は役に立たない。
慰めの言葉なんて、レイラも求めていないだろう。
俺は体を起こすと、レイラの頭にそっと手を乗せて髪を撫でた。
一瞬驚いたように体が反応したが、手を払われる事もなく、されるがままに俺に髪を撫でられていた。
「・・・俺の妻は、こうして髪を撫でられると安心すると言っていたんだ」
「・・・バリオスさんの奥さんは、どんな方だったのですか?」
「嫉妬深くて、独占欲が強くて、甘えん坊で寂しがり屋で・・・料理が上手で・・・とても、とても・・・・・優し、かった・・・・・」
そこまで話して、俺も自分の声が震えている事に気付いた。
これ以上は話せない・・・溢れそうな涙をこらえていると、レイラが俺の手に自分の手を重ねて、体を起こした。
「・・・レイラ」
「バリオスさん・・・・・」
抱きしめられて気付いた
自分の心がどれだけ温もりを欲していたか
「私も・・・抱きしめてください」
両の眼から涙を零すレイラの背に手を回し、俺もレイラを抱きしめた
窓から差し込む月明かりが、俺とレイラを優しく照らした
まるで慰めてくれるように




