697 それぞれの ②
「ディリアン、お前は何を買ったんだ?」
ディリアンの持っている紙袋に目を向けて、バルデスが声をかけた。
「・・・別に、大した物じゃねぇよ」
「ふむ、海の宝石をお前が買うとは思わなかったな。お前にも贈る相手がいるんだな?」
「な、おい!なんで知ってんだよ!?」
バルデスに袋の中身を当てられたディリアンは、ビクっと体を強張らせてバルデスに詰め寄った。
「あれだけレジ横のショーケースを眺めていれば、誰でも気付くだろう?」
「な、てめぇ!・・・チッ、だったらなんだよ?何買おうが別に俺の勝手だろ?」
舌打ちをして顔を反らすディリアンに、バルデスが不思議そうに首を傾げた。
「なぜ隠す?堂々としていればいいだろう?」
「あ~、たくっ!てめぇは本当に・・・なんでもねぇよ」
面倒そうに頭を掻くバルデスに、サリーが間に入って話し始めた。
「ディリアン様、私はバルデス様へプレゼントを買いましたよ」
「え・・・?」
「あぁ、私はサリーに買った。クインズベリーに帰ったら交換するんだ」
「はぁ~?お前らいつも一緒じゃん?しかも同じ店で買うのにそんな事する必要あんの?」
ディリアンにはまったく理解ができなかった。同じ店で買うのなら、最初から自分の好きな物を買えばいい。そう告げるディリアンに、サリーが小さく笑って首を横に振った。
「ディリアン様、自分の欲しい物を自分で買う。一番早くて確実ですね。でも、大切な人からの贈り物なら、それだけで宝物になるのですよ。ディリアン様の贈り物も、きっとその方の宝物になるでしょうね。照れる気持ちは分かりますが、隠す必要はありません。堂々としていいのですよ」
サリーがニコリと微笑む。その手には綺麗に包装されたプレゼントがあった。
バルデスのためにと買ったプレゼントである。
「・・・そんなもん、なのか?」
「はい。そんなもん、なのですよ。そうですよね?バルデス様」
サリーの言葉、そしてその表情に説得力を感じたディリアンは、照れ隠しからぶっきらぼうになっていた態度を軟化させた。サリーに同意を求められたバルデスも、その通りだと頷いた。
「サリーの言う通りだ。私もこうしてサリーへのプレゼントを買ったのだ。さすがに中身は見せていないが、クインズベリーへ帰ったらプレゼント交換をするんだ。お前の気持ちが届けば、相手もお返しをくれるのではないか?素直な気持ちを伝える事だな」
そう言ってディリアンの頭を軽く撫でると、ディリアンはムッとしたようにバルデスの手を振り払った。
「頭撫でんじゃねぇよ!たくっ、いつもガキ扱いしやがって。まぁ・・・でも、お前らの言う事は分かった・・・けどよ、気持ちを伝えたくてもジェシカは三年も寝たきりなんだよ・・・・・ネイリーのクソ野郎に復讐はできた。けど、ジェシカが起きてくれねぇと、どうしようもねぇんだ・・・こんなプレゼント、俺の自己満足でしかねぇんだ・・・・・」
ディリアンをいつも気にかけて、心を持った接し方をしてくれた三つ年上の侍女ジェシカは、ラルス・ネイリーの薬の実験体にされて今も寝たきりだった。
ディリアンはジェシカのために海の宝石を購入したが、寝たきりのジェシカには気持ちを伝えたくても伝えられないのだ。深く考えないようにしていたが、サリーとバルデスの仲睦まじさ、信頼関係を見て、抑えていた気持ちを思い起こされた。
「・・・ディリアン様、絶対に治せるとは言い切れませんが、帰ったら私のキュアを試してみましょうか?」
思いがけないサリーの申し出に、ディリアンは顔を上げた。
「あ?キュアなんてとっくに試してんだよ。けどな、王宮仕えの白魔法使いでも無理だったんだ。それをお前にできんのかよ?」
ふざけた事を言うなとサリーを睨みつけるが、怒りを向けられてもサリーは笑顔を崩さなかった。
「私はこれでも四勇士バルデス様の侍女です。バルデス様にふさわしい白魔法使いになるため、バルデス様直々に魔力操作を鍛えていただきました。三年も眠り続ける程の薬物なんて初めて聞きましたし、よほど重い症状なのだとお察ししますが、できる事はやらせていただきたいと思います」
「フッ、さすがサリーだ。ディリアンよ、心配する事はないぞ。サリーはこの私が鍛えたからな。クインズベリーで一番の白魔法使いだ。そのジェシカという女も必ずや治してくれるだろう」
「バルデス様、私を評価していただけるのは嬉しいのですが、クインズベリーで一番の白魔法使いは、四勇士のエステバン・クアルト様かと・・・」
「む?クアルトか・・・まぁ、確かに魔力量、操作、申し分ないが、私にとってはサリーが一番だぞ?私にとっての一番が、クインズベリーの一番にはならんのか?」
「バルデス様、そんな恐れ多いです・・・」
「・・・おい、お前らいい加減にしろ。イチャついてんじゃねぇぞ」
いつの間にか二人の世界に入ったバルデスとサリーに、ディリアンがこめかみをヒクつかせて睨み付けた。
「分かったか?つまりそういう事だ。サリーに任せておけばいい」
バルデスはディリアンの肩に手を乗せると、心配するなと笑って見せた。
一つ咳払いをしてバルデスから一歩身を引くサリーとは対照的に、バルデスはディリアンに睨まれようがまったく意に介さない。
「はぁ~、本当にてめぇはチョイチョイ苛つくけど・・・てめぇの強さは十分分かったし、てめぇにはおかしな説得力もあるしな。分かったよ・・・」
良い笑顔でディリアンの肩を叩くバルデスの手を払うと、ディリアンは溜息を一つついてサリーに向き直った。
「・・・あ~・・・帰ったら、ジェシカの事よろしく頼む」
そう言って頭を下げるディリアンに、サリーは意外そうに目を開いた。
根は素直なんだろうし、捻くれ者とまでは思っていなかったが、公爵家という身分も考えれば、まさか自分に頭を下げるとは考えもしなかった。
それだけジェシカという女性が大切なんだろう。
「はい・・・お任せください、ディリアン様」
ディリアンから人を想う気持ちが感じ取れて、サリーは胸が温かくなった。
「お、あっちも話しがすんだようだな」
アラタ達も別れの挨拶がすんだ様子を見て、バルデスが親指を向けた。
「あ、バルデス様、ちょうど馬車も来ましたよ」
大道路からこちらに向かって来る馬車を見つけ、サリーも声を上げた。
「ふぅ・・・やっと帰れるな」
ディリアンは大きく息を付いて、独り言のように呟く。
バルデスとサリーは顔を見合わせると、ディリアンを挟むように並んだ。
「よし、じゃあ行くか」
「はい、行きましょう」
「あ?・・・お前ら、なんで俺を挟んでんだよ?」
意味が分からないと眉を寄せるディリアンだが、バルデスとサリーは楽しそうに笑って自分に顔を向けてくる。ディリアンは毒気を抜かれたように軽く息を付くと、少しだけ笑った。
アラタ、レイチェル、ビリージョー、バルデス、サリー、ディリアンの6人は馬車に乗ると、ロンズデールに残る4人と再会を約束して別れを告げた。




