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696 それぞれの ①

「いやぁ、買ったなぁ!」


大海の船団の店を出ると、アラタは満足したように背伸びをした。

時刻は午前10時を少し回った頃で、陽が高くなってきている。

12月の寒さも今日は幾分和らいだ、過ごしやすい気温だった。


「あぁ、奮発してしまったよ。でも、みんな店で待っててくれるんだし、このくらいはな」


レイチェルの背中のリュックは、お土産でパンパンに膨らんでいた。

レイジェスのみんなの分のお土産が入っているのだ。


「アラタも沢山買ってたな。ちゃんとリカルドの分も買うところは立派だぞ」


レイチェルは、ロンズデールへ出発の前に、みんながアラタに何か贈り物をしている中、リカルドは、頑張れよ、の一言ですませた事を指摘していた。


「ん、いやまぁ、なんて言うかな・・・リカルドは弟みたいな感じなんだよ。いっつも俺に兄ちゃん兄ちゃんって言ってつきまとってくるし、なんか憎めないとこあるんだよ」


「あはは、確かにそうだな。あいつはキミの家によくお邪魔してるようだしな。まぁ、カチュアのご飯

が目的でもあるんだろうが、実際キミに懐いていると感じるよ。憎めないという点については同意だ。口が悪くて生意気なんだが、それでも憎めないというのは、それがあいつの魅力なのかもしれないな」


クスリと笑って話すレイチェル。

どうやらリカルドの事を思い出しているようだ。

確かに、シルヴィアとのパンのやりとりや、男連中から構われる様子は面白いものがある。


「そうだな・・・ところで、本当に大丈夫なのかな?オーナーも船長も一度に失ってさ」


アラタは今出てきたばかりの大海の船団の店を振り返った。

今回のクルーズ船での戦いで、漁を担う船団の船長、ウラジミール・セルヒコと、オーナーのギルバート・メンドーサの二名が死亡した。

大海の船団は混乱に混乱を期している事だろう。それでも従業員は生活がある以上、営業はしなければと店を開けている。


「いや、正直全く大丈夫ではないと思うよ」


アラタの問いにはシャノンが答えた。

シャノンは白いファー付きのダウンを着て、手袋代わりにとポケットに手を入れている。

店で買ったTシャツは、袋の紐を肘にかけて落ちないようにしている。


「あの新しい店長さんは大丈夫ですって言ってたけど、そんなわけないからね。アタシ達しかお客さんいなかったのだって、たまたまじゃないと思うよ。国を売ろうとした件はもう広まってるからさ、これから大会の船団の客離れは加速していくだろうね。オーナーの代わりは奥さんなり子供達がやるかもしれないけど、ウラジミールの抜けた穴は大きいだろうし、イメージも最悪だからね。このままじゃ数年以内に潰れると思うよ」


シャノンの冷静な分析を聞いて、誰も反対意見を出す事ができない。

アラタもそうなるだろうと容易に想像ができて、曖昧に返事をする事しかできなかった。


「だからさ、あっちが良ければだけど、アタシが合併の話しでもしてみようかなって思ってるんだ」


合併という言葉に、全員が驚いた表情でシャノンを見ると、シャノンは大海の船団の店を振り返って言葉を続けた。


「まぁ、会長がどう判断するかだけどね。それに合併と言ってもうちが助ける形になるから、アラルコン商会の傘下に入る事になる。それを向こうがどう思うかだよね。でもこのまま潰すには惜しいよ。今日だって海の糸の加工技術には驚いたしね。クルーズ船も立派な出来だった。それに大海の船団の従業員の事を考えれば、アラルコン商会の下でも、今と同じ生活が出来ればいいと思うんだよね」


シャノンも商人である。

ただの親切心で助けを出すわけではない。この機会に大海の船団を取り込み、アラルコン商会をさらに大きくする目論見はある。


「ふーん、でもさぁ、今と同じ生活ができるようにって考えてるあたりは、シャノンの優しいところだよね?」


ふいにリンジーが話しに参加して、シャノンの顔を覗きこんできた。


「うっ・・・いやいや、アタシは別に優しい事なんかないよ?別に深い意味のない言葉だしさ」


「あらあら、うふふ。そういう事にしておいてあげるわ」


「あーもう!リンジーと話すとなんか調子狂う!」


シャノンが頭を掻いて苦笑いをすると、リンジーもアラタもレイチェルも、分かってると言うようにシャノンを見てクスクスと笑った。





「ファビアナ、その少しいいか?」


「あ、は、はい!・・・なんですか?」


アラタ達が盛り上がっている横で、ビリージョーはファビアナに話しかけるのだが、緊張しているのかその声は少し硬い。

そして声をかけられたファビアナも、他の人と話す時のリラックス感がなく、緊張している様子が伝わってくる。


「あ、えっとな、その俺達は今日帰るけど、その、ロンズデールで世話になったお礼と言うか・・・その、良かったら近いうちに、俺の店に食事に来ないか?」


「え・・・!?」


ファビアナが驚いたように声を上げたので、ビリージョーは悪い方に思考が向いてしまい、慌てて言い訳がましく言葉を並べた。


「あ、いやいや!そりゃびっくりするよな、俺みたいなオジさんに言われてもアレだよな。いや、俺はこれでも料理人だから、ほらそれでな・・・」


「い、行きます!」


「う、うんうん!大丈夫だ!変な意味で誘ったんじゃないんだ!断ってくれても別に・・・え?い、今なんて?」


「行きます!ビリージョーさんのお店に食べに行きます!わ、私、ビリージョーさんの手料理食べてみたかったんです。だから、ご迷惑じゃなければぜひお願いします」


両手を握り締めて、勇気を振り絞るように言葉を出すファビアナを見て、ビリージョーは安心したように息を付き、そして喜びを隠しきれない声を出した。


「お、おぉ!そうか!じゃ、じゃあ帰ったら手紙を出すよ」


「はい!楽しみに待ってますね!」



そんな意気投合する二人を、ガラハドは一歩離れて温かい眼差しで見守っていた。



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