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693 食事会 ②

「ビリージョー、今回は本当に助かったぜ」


「いや、俺は大して役に立てなかった。敵の主力を倒したのは、アイツらだしな」


ガラハドから酒の入ったグラスを受け取ると、ビリージョーは少し離れたテーブルで話しているアラタとレイチェルに目を向けた。


「あぁー、それを言ったら俺だってそうだぜ。でもな、俺達も戦闘以外で少し役に立ったんじゃないか?倒れた仲間を運ぶ肉体労働だったけどよ」


自嘲気味のビリージョーとは対照的に、あっけらかんと笑うガラハド。

敵を倒す事だけが仕事ではない。そう話すガラハドを見て、ビリージョーは、そうだな、と笑って頷いた。

帝国の主力を、自分より10以上も離れた若者達に、任せきりになってしまった事で、負い目を感じていた。だが、ガラハドのように割り切った考え方をした方が、気持ちは楽になるし、彼らにとっても自分がいつまでも気にしているよりはいいだろう。

そう考えビリージョーはグラスに口をつけた。


「ところで、ビリージョー。お前、ファビアナの事どう思ってる?」


「ブハッ!ごほっ、げほっ、な、なにを急に!?」


酒を喉に流した瞬間の予想外の一言に、ビリージョーがむせると、ガラハドはそれを茶化す事もなく、真剣な面持ちでビリージョーの目を見た。


「ビリージョー、真面目な話しだ。リンジーがファビアナを連れて来てから、ずっと三人でチームを組んでやってきた。俺にとってファビアナは、仲間であると同時に娘みたいなもんだ。今回の件で、ファビアナは自分の殻を破ってあの通り明るくなった。国王もこれからは娘として見ると言っているし、今のファビアナなら、上級貴族との縁談も出て来るだろう」


ガラハドは離れたテーブル席で、シャノンとリンジーと三人で話しているファビアナに顔を向けた。


「まぁ、そうだろうな。いつも帽子を深く被っていたから気付きにくいが、ファビアナは容姿も整っている。社交界にでも行けば、縁談はいくらでもあるだろうな」


「俺は、お前さえその気なら、国王にお前をすすめようと思うんだが、お前の気持ちはどうだ?」


酒を飲みほしたグラスを置いて、ガラハドは正面からビリージョーを見据えた。

はぐらかす事は許さない。ガラハドの目は真剣そのもので、二人の間に緊張感が生まれる。


黙っているビリージョーに、ガラハドはもう一度同じ問いを口にした。


「・・・ビリージョー、こういう事は時間が経てば経つほど不利になるぞ。もう一度聞く、お前はファビアナの事をどう思っている?」


今のファビアナならば、引く手あまただろう。

だが、変わる前のファビアナならばどうだ?見向きもされなかっただろう。

無理もない。まともに会話できるかも怪しいのに、縁談などくるはずがない。


だが、それでもビリージョーは嫌な顔一つせず、ファビアナを一人の人間として、女性として敬意を持って積極的に接していた。そしてファビアナもビリージョーに対して少なからず好意を寄せている事が分かり、ガラハドもリンジーも二人を結ばせたいと考えるようになっていた。


今ならばどこからも縁談も出ていない。

それどころか、ファビアナが国王の娘だという事実を、知らない者も多い。

だが、国王が公表してしまえば、状況は一気にひっくり返ってしまう。

そうなってしまえば、縁談を持って来る貴族達に、他国の一料理人が割って入るのは困難極まりないだろう。


ビリージョーはガラハドの視線を受け止めると、自分の気持ちをゆっくりと言葉にした。


「そう、だな・・・俺は、ファビアナと一緒にいたいな。俺みたいなおじさんでも、ファビアナがいいって言ってくれるならだけど」


まだビリージョーの中では、芽生え始めたばかりの感情だろう。

だが、ファビアナが他の誰かと一緒になる。そう考えると、胸がモヤモヤして嫌な気持ちになった。

そう思うくらいには・・・嫉妬してしまうくらいには、ファビアナに気持ちがある事を自覚してしまった。


「・・・・・よし!分かった!あとは俺にまかせておけ!今日は記憶が飛ぶまで飲もうぜビリージョー!」


「お、おい!ガラハド!・・・たくっ、しょうがねぇな」


肩を組まれて酒をどんどん勧められる。

強引なガラハドに少し戸惑ったが、嬉しそうなガラハドの顔を見て、ビリージョーは結局付き合う事にした。


その日、年長者二人は、酔いつぶれるまで飲み明かした。






「バルガス様、この白身魚のムニエルも美味しいですよ」


「ほぅ、どれ・・・うん、さすがロンズールだな。魚にかけては大陸一だ」


サリーに手渡された白身魚を一口食べる。

こんがり焼けたバターの香りが鼻孔を抜けて、しっかりと閉じ込められた素材の旨味を堪能し、バルガスはその味に太鼓判を押した。


「しかし・・・やはりサリーの作るムニエルには及ばないな」


「バルデス様・・・私の料理を高く評価していただき、光栄です」


さも当然と口にするバルデス。

その表情には照れなどあるはずもなく、朝の挨拶を交わす時となんら変わらない。

サリーもまた聞き慣れているのか、頬を赤らめる事もなく、淡々と感謝の言葉を口にする。

しかし誰にも気づかれない程度だが、口の端をほんの少しだけほころばせているのは、何度言われても嬉しいものは嬉しいという事だ。


「サリーよ、私達の最初の旅行はトラブルだらけだったが、終わってみると楽しい事も沢山あったな」


「はい。温泉も気持ち良かったですし、海鮮料理も堪能できましたね。鮫も食する分には良かったです」


サリーが鮫という単語を口にすると、バルデスは白身魚の乗った皿をテーブルに置いて、小さく息をついた。


「・・・サリーよ、自分達が口に入れるものの、生きている時の姿を見るのはあまり好ましくないものだな。確かに鮫料理は美味かった。だが鮫という存在はあまりにも醜悪だった。人間を食い物にしたかもしれん鮫を自分達が食べると考えると吐き気がする」


「では、サリーも今後は鮫を食べない事にします」


バルデスが鮫に対する嫌悪感を滲ませると、サリーはあっさりと鮫を今後食べないと宣言する。


「サリーよ、そこまで私に合わせる事は・・・」

「いえ、鮫は私達を食べようとした怪物です。私は鮫を食べません」


サリーの頑なな意見に、バルデスも思わず笑いをもらした。


「ハッハッハ、サリーよ、帰ったらシチューを作ってくれ。寒い日にはサリーのシチューが一番だ」


「はい、もちろんです!沢山作りますね」


バルデスとサリーは誰も入り込めない二人の世界で、食事会は終わるまで語り合った。





「・・・ディリアン、一人でいないでこっちに来たらどうだ?」


壁にもたれかかり、一人でドリンクを飲んでいるディリアンに、アラタが声をかけた。


「ふん、俺は別にここでいい・・・お前らは勝手にさわいでろよ」


「ふぅ・・・全くお前は相変わらずだな。なぁ、今回はありがとな」


急にお礼を言われたディリアンは、訳が分からずに、はぁ?と声を出して首を傾げた。


「いきなりなんだよ?・・・気持ち悪ぃな」


「いや、力を貸してくれたじゃないか?魔道剣士の一人も倒したんだろ?ディリアンの力があって助かったよ」


「あぁ?なんだよそれ?・・・勘違いしてんじゃねぇぞ?俺は親父と兄貴がやらかしたから、その責任取りでここに来たんだよ。別にお前らのためじゃねぇ」


ディリアンは眉を寄せて吐き捨てるように言うが、アラタは首を横に振ってディリアンに笑いかけた。


「それでもさ・・・ディリアンがいて良かったよ。一緒に戦った仲間として、俺はディリアンに感謝してる。ありがとな」


「・・・な、なんだよ・・・面倒くせぇな・・・・・たくっ、お前もビリージョーも姐さんも・・・もういいからあっち行けよ」


手を払ってどこかへ行けと促すが、アラタはその手を掴むと、ディリアンを引っ張ってホールの中央、仲間達が集まっている場所へと連れ出した。


「お、おい、なにすんだよ?」


「いいから来いよ。今日くらいいいだろ?ディリアンも一緒に食べて飲もうぜ」



「・・・ちっ、しかたねぇな。今回だけだぞ」


振り返って笑うアラタを見て、ディリアンは一瞬目を瞬かせたが小さく笑い返した。


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