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692 食事会 ①

国王との謁見も終え、今後の事も話し終えたアラタ達一行は、空が薄暗くなった夕刻にアラルコン商会の宿に集まっていた。

リンジー、ファビアナ、ガラハドもおり、今回のクルーズ船の戦いに参戦した総勢10人で、打ち上げとお別れ会を兼ねた、食事会を開いていた。


軽く100人は入れそうなパーティーホールを一室借し切っているため、アラタは10人では広すぎるとシャノンに話してみたが、こういう時は盛大に行うものだというシャノンの考えで押し通された。



「アラタ、明日の朝食を食べたら帰ろうと思うが、いいか?」


レイチェルはワイングラスを持ちながら、隣でトングを使いサラダを取っているアラタに話しかけた。


「えっと、実はみんなにお土産買って帰りたいんだけど、少し時間もらえないかな?」


そう言ってアラタは穿いているデニムパンツの後ポケットから、古びた細長い冊子を取り出した。

薄い青色で20cm程度の長さで、表紙には大波に立ち向かう船の絵が描かれている。


「ん、それは確か・・・あぁ、そう言えばミゼルにそんなのもらってたな。たしかポイント帳だったか?」


レイチェルは記憶をたどり、クインズベリーを出発する前にレイジェスのみんなからアラタが餞別をもらっていた事を思い出した。ミゼルがアラタに渡したポイント帳は、昔ミゼルがロンズデールの大海の船団で働いていた時に、売り上げ貢献のために自腹を切って買い物をし、本当は従業員はポイントを溜めれないのだが、ミゼルは欲しくない物を無理に買っていた恨みを込めて、こっそり溜めていたという憎しみポイント帳だった。


「そうなんだよ。1,000イエンでスタンプ1個。10,000イエンで1枚埋まる計算で、30枚つづりが全部埋まってるから300,000イエンの価値があるポイント帳らしいんだ」


300,000イエンと聞き、レイチェルの眉がピクリと動いた。


「はぁ~、そうそう思い出した。私も30万と聞いて驚いたな。全く・・・あいつは本当に昔から無駄遣いばかりしてたんだな。ところでアラタ、確かそのポイントは、金券として使えるのではなくて、景品と交換できると言ってなかったか?」


「あ・・・そう言えばそうだったな、えっと何がもらえるんだ?・・・あ、冊子には書いてないな。直接行かないと分からないか」


冊子の裏表を確認するが、何と交換できるかは書いてなかったため、直接店に行くしかないと結論が出た。


「いいぞ。明日は国境の町レフェリまで行ければいい。朝食をすませたら大海の船団の店まで行こうじゃないか」


「いいのか?」


「あぁ、私も何がもらえるのか気になってきた。30万の景品だぞ?ワクワクするじゃないか?ミゼルの給料をつぎ込んだ景品か・・・楽しみでしかたないな!」


グラスの中の赤い液体を一口で飲み干すと、レイチェルはニカっと歯を見せて笑った。


「・・・レイチェルって、たまに腹黒いとこあるよな」


「何を言う?アラタはワクワクしないのか?ミゼルの魂のポイントだぞ?30万だぞ?それでサメのぬいぐるみでも出てきたらどうする?私は笑い死ぬぞ!」


鼻先に指を突き付けられ、アラタはタジタジになりながらレイチェルの肩を押さえた。


「お、おいレイチェル、ちょっと酔っぱらってないか?大丈夫かよ?」


「ん、少し気分が良くなってきているが、まだ大丈夫だぞ」


よく見ると少し顔が赤くなっている。

普段こんな姿は見ないが、レイチェルも今回の戦いに勝ち、全員が無事に生還できた事でハメを外しているのかもしれない。

そう思うと、アラタも少し楽しい気持ちになった。


「ははは、レイチェルでも酔っぱらったりするんだな?普段から完璧って感じがして隙がないからさ、なんだかちょっと嬉しいよ」


「ん~、何を言うアラタ?私がまぬけだと言いたいのか?全く失礼だな。ワインのおかわりをもらってこよう。キミも今日は付き合えよ」


「うわっと、お、おいレイチェル、そんな引っ張るなよ!分かった!分かったから!」


腕を掴まれ引っ張られていくアラタを、少し離れた場所から見ていたシャノンとリンジーは、その様子をクスクスと笑って見ていた。


「あらあら、アラタ君も大変ね」


「あははは、お兄さんとレイチェルってなんか良いコンビだよね。レイチェルのが年下なんだけどそんな感じしないしね」


「そうね。ねぇ、シャノンはこれからどうするの?アラルコン商会の支店をクインズベリーに出すんでしょ?明日一緒に行くのかしら?」


リンジーはテーブルからケーキを一皿取ると、クリームの上に乗っているイチゴを口に入れ頬を緩めた。


「リンジーって好物から食べるタイプ?」


「う~ん・・・考えた事ないけどそうかもしれないわね。美味しい物は我慢できないわ」


唇に指先をあてて少し考えると、リンジーはニコリを笑って答えた。


「そう、じゃあアタシのイチゴもあげるわ」


シャノンが自分の取ったケーキのイチゴを、リンジーのケーキに移すと、リンジーは信じられないといった顔でシャノンを見た。


「え!?シャノンってイチゴ駄目なの?」


「嫌いじゃないけど、好きでもないかな。食べられるけどわざわざ買ってまで食べない感じ。隣でそんなに幸せそうな顔で食べてる人がいたら、そりゃあげたくもなるわよ。イチゴだってアタシよりリンジーに食べてもらった方が幸せでしょ?」


「・・・それはそうかも。イチゴの幸せを考えるなら、私が食べたほうがいいわね」


「あはははは!リンジーも面白いね」


「あー、なにそれ!シャノンが言い出したんでしょ!」


真顔で言葉を返したリンジーを見てシャノンが大笑いをすると、リンジーも少し頬を膨らませてジロリと睨んだ。


「シャノンさん、リンジー、盛り上がってるね」


「あ、ファビアナ、楽しんでる?お腹いっぱい食べた?」


会食の場なので、この時はファビアナも三角帽子を被っていない。

シャノンに話しかけられたファビアナは、おかしそうに笑って返事をする。


「もー、シャノンさん、私19歳ですよ。そんな小さい子にする心配しないでください」


猫のように丸みのある紫色の瞳で、シャノンを少しだけ睨むと、シャノンは安心したように微笑んだ。


「うん、本当にファビアナは変わったね。それが本当のファビアナなんだね。良かったよ」


シャノンがファビアナの薄紫色の髪を撫でると、ファビアナも笑顔で言葉を返した。


「ありがとうございます。皆さんのおかげです・・・本当に、感謝してます」


「ファビアナ、お母さんとは会うの?」


リンジーの唐突な問いに、ファビアナは目を伏せ口を閉じて、少しだけ返事に時間をかけた。


「・・・・・うん。正直に言うとね、少し怖いんだ。でも、お父様が三人で暮らそうって言ってくれたから・・・だから会ってみるよ」


顔を上げてリンジーの目を真っすぐに見るファビアナに、リンジーはファビアナの強さを感じた。


「・・・そっか、今のファビアナならきっと大丈夫。応援してるわ」


「うん、ありがとう」


母に虐待されてそだったファビアナの心の傷は大きい。

だが、父との関係が改善され、ファビアナは前を向いて歩き始めた。


もう、下を向いているだけの少女の姿はどこに無かった。


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