表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/1556

69 母の願い

「カチュアさん!こっちだよ!早く!」


カチュアは協会内に入ると、息を切らしながらエルウィンの案内について行った。


アラタが死にかけている・・・

その言葉を聞いた時、全身の血が冷たくなっていくのを感じた。


だが、取り乱す事はしなかった。ここで泣き叫んでもなにが変わるわけではない。

今自分にできる事は、少しでも早くアラタの元へ駆けつけ回復させる事だ。


「アラタ君・・・お願い・・・生きてて・・・」

カチュアはアラタの無事だけを願い走った。


エルウィンが一階の一番奥、今はマルコスによって破壊された拷問部屋までたどり着く。

すると、隊員達が左右に分かれ道を開け、騒々しく口を動かしていた。


「早く治療を!」

「隊長とあれだけやれたのに、惜しいヤツだ」

「なんとか助けてやれねぇのか」

「この状態ではもう・・・」


出てきたのはフェンテスだった。

血の気の失せた青い顔をして、息も浅く早い、右手からは血が止めどなく流れている。

立っている事が不思議な状態だった。



エルウィンから少し遅れてカチュアが部屋までたどり着く。


前方を、両腕にアラタを抱き抱えたフェンテスが、おぼつかない足取りで歩いてくる。


残酷な再会だった・・・


カチュアの目に映ったのは、今まさに命の灯を消そうとしている血まみれのアラタだった。



「アラタ君!」



カチュアは走った。フェンテスはカチュアに気付くと、静かにゆっくりと腰を下ろし膝をつき、慎重にアラタの体を床に寝かせた。


「・・・確かカチュア、という名だな?アラタはまだ・・・生きている・・・お前は白魔法か?」


フェンテスは壁に背中を預けた。もう一度立つ事は出来ない程消耗しており、目を閉じ楽になりたい衝動にかられていたが、アラタを託すまでは意識を持たせなければとこらえていた。


「はい、私は白魔法です。アラタ君は私が治します」


両手をアラタの胸に当てると、カチュアは全魔力を込めてヒールを使った。



アラタ君・・・お願い・・・生きて・・・


私、まだアラタ君に気持ち伝えてない・・・


私、もっとアラタ君と一緒にいたい・・・


私は・・・アラタ君と生きたい!



フェンテスは目を見張った。カチュアのヒールは、治安部隊の医務室にいる、王宮から遣わされた白魔法使いをも上回っていた。

おそらくこの国で指折りのレベルであろう。



「たいした・・・ものだ・・・」

フェンテスの意識はそこで途切れた・・・




「・・・カチュアさん、どう・・ですか?」


フェンテスの右手にカチュアの傷薬を塗り、清潔なタオルで縛り止血を終えると、エルウィンがカチュアに声をかけた。


カチュアの顔を必死そのものだった。

全魔力をこめ、額には汗を浮かべながら懸命にアラタにヒールをかけ続けている。


だが・・・


「・・・なんで?・・・なんでなの・・・アラタ君!お願い!戻ってきて!私をおいていかないで!」


粉砕された胸骨はほぼ治っている。損傷した筋肉、血管も元に戻した。だが、アラタは目を開けなかった。


生気の失われた体は、力なく横たわっている。


「アラタ君!」


カチュアはクインズベリー国で指折りの白魔法使いだ。骨折も10分もあれば治癒が可能なレベルである。

だが、外傷は治せても、死の淵にある命を戻せる程の魔力は無かった。


カチュアがヒールをかけた時点で、アラタの命は消えかかっていた。


遅かったのだ・・・


ヒールで怪我を治し始めても、それが命に届くまでに、アラタの生命力は持たなかった・・・


今、アラタの命の灯は消えた・・・



「ア、アラタ・・・さん・・・」

エルウィンも感じ取った。今、アラタの命が消えた事を・・・目を見開き、信じられない状況に言葉を失っている。


「・・・そんな・・・うそ・・・嘘だよね?アラタ、くん・・・アラタ君!嫌だよ!やっと会えたのに!こんなの・・・ひどすぎる!アラタ君!アラタ君!」


カチュアの瞳から涙が溢れだした。もう泣かないと決めていた。

強くなって、アラタと笑顔で再会するんだと決めていた。


だが・・・


「嫌だぁぁぁー!アラタくんー!」


カチュアがアラタの胸に顔を埋め叫んだ時、アラタの胸元が突如光輝いた。


「え・・・これ・・・」


それはカチュアがアラタの首にかけたネックレスだった。


淡い光を放っていたネックレスの石は、一瞬目もくらむ程の強い光を放つと、音を立てて粉々に砕け散った。



「これ・・・」



カチュアは目の前で起こった事が理解できず、粉々に砕けた自分のネックレスを手に取る・・・懐かしい声を聞いた。



・・・泣かないで・・・カチュア・・・



全ての悲しみを癒してくれるような、優しく温かい声だった



・・・あなたの大切な人はもう大丈夫よ・・・



それは夢か幻だったのかもしれない・・・カチュアが顔を上げると、淡い光に包まれた、カチュアによく似た、カチュアより少し年上の女性が目の前に立っていた



おぼろげながら記憶にあるその姿は



「お・・・おかあ・・・さん・・・お母さん!」



・・・カチュア・・・大きくなったわね・・・



「お母さん!お母さん!・・・わ、私・・・会いたかった・・・もっと一緒にいたかったよ・・・」



カチュアは優しく抱きしめられた・・・確かな母の温もりを感じ、カチュアの瞳から大粒の涙が零れ落ちた・・・



「お母さん・・・う・・・うぅ・・・」



・・・忘れないで・・・私はいつも見守っているわ・・・



最後に一度優しく微笑むと、まるでカチュアの中に溶け込むように母の姿は消えていった・・・



どうか・・・幸せに・・・


つらい思いをする事も・・・


涙する事も・・・


これから先・・・沢山あるかもしれない・・・


でも忘れないで・・・



それ以上に沢山の幸せがきっとあるから・・・



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ