683 生還 ②
誤字を見つけたので修正しました。内容に変更はありません。
「・・・行っちゃったね」
リリアとエマの元に戻って行く、ラクエルの後ろ姿を見ながらシャノンが呟いた。
「あぁ・・・それにしても、ずいぶんと優しい顔になっていたな」
大勢のひとだかりの中、レイチェルとシャノンが自分達を見つめている事に気付いたリリアが、そっと頭を下げた。
その隣のエマはまだ少し怖がっている様子だったが、それでもリリアが何か話しかけると、レイチェル達に小さく手を振った。
「はは、あの子もやっと私達に手を振ってくれたな」
「第一印象が最悪だったからね。でも、あの子はいい子だよ。あれ、あの人・・・確かフランクって言ったけ?」
ラクエル達と一緒にいる、体格の良い長身の男性を見て、シャノンがレイチェルに確認するように指を向けた。
「ん、あぁ、そう言えばそんな名前だったかな。彼女達と一緒にいたのは覚えているぞ」
「ふーん。あ、エマちゃんを肩車した!ねぇ、あの人リリアさんに気があると思わない?」
シャノンは面白そうに口の端を持ち上げると、レイチェルは腕を組んで首を傾げた。
「いや、私はラクエルの方に気があるのかと思ったが?船でもラクエルの事をずいぶん気にかけていたしな」
「そう?うーん、アタシはリリアさん狙いだと思うけどな」
「いや、あれはラクエル狙いだ。キッチン・モロニーのランチを賭けよう」
レイチェルとラクエルが話していると、アラタが少し慌てた様子で、人だかりをかき分けながらやってきた。
「はぁ、はぁ、レイチェル、シャノンさん、なにここで話しこんでんだよ?あっちで国王様が話してるから来てよ」
息を切らせるアラタに、レイチェルとシャノンは顔を見合わせた。
「・・・やれやれ、やっと陸に上がったと思ったのに、忙しい事だな。まぁ国王が話しているのなら聞くとするか」
「おや、レイチェルは国王陛下にちょっと棘があるね?」
「当然だ。国王のせいで私はクラッカーが嫌いになりそうなんだ」
肩をすくめるレイチェルと呆れたように笑うシャノンを見て、アラタは訳が分からないと眉を寄せたが、とりあえず今はと、二人を連れて国王が話している場所まで戻った。
ボートが停めてある場所から少し離れて、倉庫を背にした見晴らしの良い一角では、国王が今回の一件について、声を大きくして話していた。そこはアラルコン商会の関係者も大勢いたが、国王が乗っていた船という事がやはり一番大きく、数えきれない程の兵士や従者達が詰めかけていた。
体調を気にする従者は、すぐに城へ戻らせようとするが、国王リゴベルトはどうしても今この場で話しておきたいと強く主張し、短い時間だが今後のロンズデールの在り方を説いた。
「ロンズデールは武力を行使する事は望まない!だが、帝国の今回の一件での対応次第では、考えていかねばならないだろう!」
一国の王を殺害しかけた事は、戦争になっておかしくない事案である。
そう考えると、ロンズデール王の言葉はまだあまいと言える。
だが、歴史上一度も戦争をした事が無く、これまで帝国の言いなりだったロンズデール国として見れば、非常に強く踏み込んだ宣言である。
「へぇ・・・こりゃ驚いた。てっきりクラッカーの演説でもしてるのかと思えば、ずいぶん国王らしい事を言ってるじゃないか?頭でも打ったのか?」
「レ、レイチェル、私のお父様なんだけど・・・」
目を丸くして、本気で驚いた顔を見せるレイチェルに、隣に立ったファビアナがその言動に不満をもらす。
「お、ファビアナ、とうとう私を呼び捨てにしたな?」
「え、だ、だって呼び捨てでいいって言ったじゃない?ダメ、だった?」
先の折れた三角帽子をつまんで、顔色を伺うようにレイチェルに目を向けると、レイチェルはニコリと笑ってファビアナの背中を軽く叩いた。
「いいに決まってるじゃないか?私達は友達だろう?嬉しいよ、ファビアナ」
「・・・レイチェルって、男の人よりカッコいいって言われない?」
「ん、よく知ってるな?自慢じゃないが、何度か店に来た女の客に告白された事があるぞ。おっと、そんな事より、国王の話しも終わったようだな。日没も近いし、今日は近くに宿でも取るしかないだろう。私達はどうする?」
レイチェルは国王に目を向けながら、アラタ達に言葉をかけた。
国王リゴベルトは演説を終えると、兵士達に囲まれながら馬車へと乗り込んだ。
レイチェウの言う通り、陽が沈む前に城へ戻るには時間が足りないだろう。
トバリという存在がある以上、夜の闇の前では何人も無力である。国王であっても、どこかに宿を取って休むしかない。
「ファビアナは一緒に行かなくてよかったのか?」
「うん、お父様は演説の前に声をかけてくれたの。演説の後は戻って来れないから、みんなと一緒にいなさいって。帰ったら城に来なさいって。だから私は大丈夫だよ」
ファビアナと国王の関係も、劇的なまでに改善されている。
レイチェルはファビアナの笑顔を見て、もうこの親子は大丈夫だと感じとった。
「それじゃあ、俺達もとりあえずどこか宿を探そうぜ。カーンは兵士達が連れて行ったし、もう何か気にする事もないだろ?日没まで30分もないだろうし、この辺に宿はないのか?」
アラタの言葉にガラハドも頷き、その背中で寝ているリンジーに顔を向けた。
「あぁ、そうだな。俺もリンジーをちゃんと寝かせてやりたい」
「そうだな。バルデスも当分起きそうにないしな」
ビリージョーも、魔力を使い果たして眠っているバルデスを背負っている。
「ビリージョーさん、すみません。バルデス様をおんぶしていただして。私では腕力が足りなくて・・・」
「いやいや、サリーさんが謝る事ないですよ。バルデスの活躍を考えれば、このくらい当然です」
すまなさそうに頭を下げるサリーに、ビリージョーが慌て首を横に振った。
「おいおい、くっちゃべってねぇでさっさと決めようぜ。本当に夜になんぞ?」
ディリアンが苛立ったように強い言葉を出すと、シャノンが手を挙げて口を開いた。
「じゃあさ、アラルコン商会の宿屋にしようよ。歩いて10分くらいのところにあるから」




