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680 脱出 ②

バルデスの竜氷縛は確かにボート部屋一帯の水を凍らせ、鮫さえも氷に閉じ込めた。


だが、絶え間なく押し寄せる水の圧力と、無数の鮫の体当たり、さらにバルデス自身が言及していたように、ここまでの連戦でバルデスの魔力はすでに底をついていた。

持ち合わせていた魔力回復促進薬で、わずかながらに回復できてはいたが、部屋中を埋め尽くす程の大量の水と、鮫の群れを完全に封じ込めるには至らなかった。


鮫を固めている氷の表面にも亀裂が走り出し、ひび割れから水が噴き出し始める。

それを目にして、状況を理解したガラハドとビリージョーがボートに飛び乗ると、バルデスはたった今くぐり抜けた船壁の穴に、魔力を込めた右手を向けた。


そしてついに氷が破壊され、数えきれない程の鮫が一挙に飛び出してくると、バルデスは大きく溜息をついた。


「まったく・・・四勇士である私の魔力を限界まで使わせるとはな、おいディリアン、結界を張れ。そっちのボートの者もだ!今から爆発魔法を使う。結界を張って海に落ちないようにしっかりボートに掴まってろ!これで正真正銘最後だ」


バルデスはラクエル達の乗るボートにも呼び掛けた。


「え、おい!ちょっと待っ、くそがっ!」


ディリアンが慌てて結界を張った次の瞬間、バルデスの手の平が光った。



中級爆発魔法 爆裂空破弾



バルデスの掌から撃ち出された破壊のエネルギーの塊は、船壁の穴へ消えたかと思った次の瞬間、轟音と共に大爆発を起こし、船体の3/1程を消し飛ばした。

そして爆発の余波による推進力で、バルデス達の乗るボートは大きく流された。


「うわっ!くそ、バルデスてめぇ!ふざけんなよ!やるならやるでもっと早く言えよ!」


波で揺れるボートにしがみ付きながら結界を張るディリアンは、バルデスを見上げて強く睨みつけた。


「・・・状況が状況だったからな。穴から鮫共が出てくる寸前だった。一網打尽にできてよかったではないか?あっちの人達も無事だったようだしな。それに手加減はしたのだぞ?私が本気で撃てばこの程度の余波ではすまなかっただろう。ボートがひっくり返らなくてよかったではないか?」


「だからって・・・ん?」


「・・・さて、私の役目はここまででよかろう?少し、休ませて・・・もらうぞ」


爆裂空破弾を撃ち、船を大破させたバルデスは、鮫が出てこない事を確認すると、ゆっくりと腰を下ろした。


「お、おい、お前大丈夫かよ?」


「ここは私にお任せください」


バルガスの様子がおかしいと感じたディリアンが近づこうとすると、バルガスの隣に控えていたサリーが、手を前に出して制止をかけた。


「なぁ、大丈夫なのか?」


「はい、魔力切れです。バルガス様は出血も多く、重症を負っている体で、無理をして戦い続けました。限界だったのです。このまま寝かせてください」


サリーは膝をたたむと、後ろから抱きしめる形でバルデスを横にさせた。

バルデスの顔を覗くと、すでに小さく寝息を立てていて、よほど消耗していた事が伺える。


「正直・・・バルデスがいなければ無傷で脱出できたか分からない。今もバルデスのおかげで鮫を一網打尽にできたし、バルデスの負担が大きかったと思う」


揺れが治まってきた頃、シャノンがバルデスに目を向けながら、誰に言うでもなく呟いた。


「そうですね。最初は堂々と観光に来たって言ってましたけど、まさかこんなになるまで体を張ってくれるなんて思いませんでした」


シャノンの言葉にアラタが同調すると、ガラハドもビリージョーも少し笑って頷いた。


「そう言えばそうだったな、この船にもサリーさんとの観光で乗ったんだっけ?」


「あぁ、そんな事言ってたな。けど、いざこうなってみると、本当に頼りになる男だったというのがよく分かるな」


口々にバルデスを褒める言葉が飛び交うと、サリーが赤くした頬を両手で押さえた。


「あの、皆さん、そんなに褒められると・・・」


「いや、なんであんたが照れてんだよ?」


ディリアンが眉を潜めて冷静にツッコミを入れた。


「フフフ・・・サリーさんは、バルデスさんが大好きなんですね」


足を横に重ねて座っているファビアナが、口に手を当てて微笑みながらサリーに声をかけた。


「そう真っ直ぐに聞かれると恥ずかしいのですが、私の心はバルデス様ただ一人です。ところでファビアナさん、話し方がハッキリしましたね?」


サリーの指摘に、全員の視線がファビアナに集中した。


「はい。皆さんのおかげです。父とちゃんと話す事ができて、心に刺さっていた棘が抜けたような、スッキリした気持ちなんです」


「お、おお!ファビアナ、お前・・・良かったなぁ!やっと陛下と向き合えたのか!本当に良かった!」


見たこともないファビアナの心からの笑顔に、感極まったガラハドが涙ぐみながらその肩に手を置くと、ファビアナの隣に座っていた国王も表情を緩めた。


「ガラハド・・・お前にも苦労をかけたな。今更だが、自分という存在が乗っ取られる程になって、初めて気が付いたよ。帰ったら大臣ときちんと話す事にするよ」


「へ、陛下・・・きっと、きっとバルカルセル大臣も、お喜びになりますよ」


穏やかな空気に包まれ、誰もが笑顔になった。


「・・・これで、全部終わったな・・・」


ブロートン帝国の大臣には逃げられてしまった。

これからの事を考えれば楽観的にはなれない。

だけど、仲間達は全員生きて船から脱出できた。


今はその事を喜ぼう。

そうアラタが思った時、足元が声が聞こえた。


「・・・そう、だな・・・」


聞きなれたその事に顔を向けると、赤い髪の女戦士が目を開けて自分に顔を向けていた。


「レイチェル、気が付いたのか・・・良かった」


「おはよう、アラタ・・・・・なぁ、海の上だからかな?空がとても綺麗だ。そう思わないかい?」


「・・・あぁ、そうだな。この空が見れただけでも、船に乗ったかいがあったかもな」


陽が傾いてきて少しオレンジ色に染まってきた空は、どこか切なさを感じさせた。



「・・・オレンジ色か・・・・・」


少しクセのあるオレンジ色の髪の女性、アラタは大切な恋人を想う。


カチュア・・・・・俺、ちゃんと生き残ったぞ。



帰るべき場所を心に浮かべ、アラタはそっと目を閉じた。


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