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679 脱出 ①

ラミール・カーンをボートに寝かせる描写が抜けてましたので、それを追加しました。

「くそっ!あいつらがモタモタしてっから、鮫に追いつかれたじゃねぇかよ!」


口が槍のように鋭く尖った鮫の突撃を結界で受け止めながら、ディリアンは苛立ちをそのまま声に出した。押し寄せる水はあっとう間に膝まで埋めて、水かさはどんどん増している。


「文句を言う暇があったら集中しろ!こいつらは結界を破る力くらいあるぞ!」


ナイフを振るい、襲いかかってくる鮫を切りつけるビリージョー。

その後ろのボートの中では、国王と意識を失っているラミール・カーン。

戦う術を持たないファビアナに、まだ意識の戻っていないレイチェルとリンジーが寝かせられており、ディリアンは鮫から彼らを護るために、結界を張り続けていた。


「オラァァァッ!」


愛用の武器は失っているガラハドだが、予備として持っていたナイフで、迫りくる鮫を突き刺して仕留めていく。


「くそっ!このままじゃ全員やられるぞ!シャノンさん、もうやってください!」


飛び掛かってきた槍鮫の鋭い口を身を捻り躱すと、アラタは鮫の頭に拳を叩き付けた。

水面に打ちつけられた鮫から大きな水飛沫が上がり、アラタの全身を濡らす。


全長150cm程で小型ではあるが、それでも鮫を拳で叩き伏せる事ができるのは、アラタの実力もあるが、両手のグローブに秘密があった。


鉄と同じ強度を持つ糸、鉄糸てっし。ジャレットは刃物を防ぐためにグローブに縫い込んだわけだが、攻撃の時は結果的に、鉄の糸を握りこんで殴りつける形になっている。

それ程堅くなった拳はどれほどの威力か?

一撃で絶命させられ、水面に浮かんでいる鮫が物語っている。



「まだ駄目!今ボートを出してもみんな間に合わない!なんとか鮫を引き離して集まって!」


ボートのすぐ脇に立ったシャノンは、ウインドカッターや刺氷弾で鮫を殺し、脱出のタイミングを見ていた。


今、ボートの中で眠っているレイチェルとリンジー、そして戦闘手段がないためボートの中に避難しているファビアナ、そして国王にラミール・カーン。

彼らを護るためボートの前で結界を張っているディリアン。

そこにシャノンを含め、このメンバーだけならばすぐに脱出可能である。


だが、鮫を引きつけながら倒しているアラタ、ビリージョー、ガラハド、そしてシャクールとサリーは、今壁を破壊してボートを出しても、おそらく乗り込む事ができない。

それ程鮫の数が多く、また時間と共にどんどん増えていく水に足を奪われ、素早い動きができないためだ。


「ふむ・・・しかたない。全員よく聞け!今から鮫ごとここを氷で固める!だが、残りの魔力ではこれだけの水量と鮫を長時間固めるのは難しい。だから私が魔法を使ったら、すぐにボートに乗れ!いいな!?いくぞ!」


大口を開けて飛び掛かって来た鮫をウインドカッターで切り裂くと、シャクールの全身から冷気を帯びた魔力が立ち昇った。


「あれは、みんな下がれ!」


同じ黒魔法使いであるシャノンはそれが何かを理解し、巻き添えを食わないように大声で叫んだ。


氷の上級魔法 竜氷縛


一瞬の後、シャクールの放った氷の竜が、押し寄せる水を凍らせ、飛びかかって来る鮫を氷漬けにした。

何匹もの鮫が一斉にかかろうとも、シャクールが腕を一振りするだけで、全ては氷の像となり、落ち沈められる。


後方に下がったアラタ達には巻き込まないように、前方だけを攻撃範囲としてシャクールの竜氷縛は、ものの数秒で氷の世界を作り上げた。


「すげぇな」


腰近くまで溜まった水をかき分けながら、アラタがボートまでたどり着いた時には、全てが終わっていた。四勇士シャクール・バルデスの凄まじい魔力があってこそである。

しかもバルデスは、氷の竜でラクエル達をも援護し、大勢の乗客達の命も救っていた。


「おい、そっちの水と鮫も固めたが、長くは持たないぞ。早く脱出するんだな」


バルデスが呼びかけると、ラクエル側の乗客達は、目の前で氷の彫像となった鮫や、自分達を避けて周囲の水が凍らせられた事に驚きながらも、バルデスに感謝の言葉を口にして脱出の用意を始めた。


「あんたやるじゃん、ありがとね!」


「ふっ、この程度はできて当然だ。さぁ、早く行け」


ラクエルが手を振ると、バルデスは脱出を促すように指をボートに向けた。

ラクエル側の黒魔法使い数人が壁に手を向けると、一斉に爆発魔法を放った。


黒煙と共に崩壊した壁の穴からは海の水が流れ込み、ボートが流されそうになる。


「みんなちゃんと掴まってるんだよ!」


ラクエルを始め、体力型がボートを押さえながら穴の外へと押し出して行く。



「よし!こっちもいくよ!」


シャノンはそう声を上げるなり、壁へ爆裂弾を撃ち放った。

流れ込む水に一気にボートが浮き上がるが、ガラハドとビリージョーが左右から押さえて安定させる。


「バルデス、サリー、お前達が最後だ!早く乗れ!」


ガラハドに急かされながら、しんがりを務めたバルデスとサリーがボートに乗り込むと、ガラハドとビリージョーがボートを押しながら壁の穴へと誘導する。


「よーし!やっと外だ!この船ともオサラバ・・・!?」


ボートを外へ出し、自分達も乗り込もうと足を上げたその時、すぐ後ろでなにかが割れるような音が耳に届いた。


ガラハドとビリージョーが後ろを振り返ろうとしたその時、バルデスが声を張り上げた。


「まずい!二人ともさっさと乗れ!氷が割れるぞ!」


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