671 理由
「おい、ビリージョー、お前なんでそいつを背負ってんだ!?」
サリーを先頭にフロアを走り出ると、最後尾を走るディリアンが隣のビリージョーを睨み付けた。
「そいつは敵だろ!?ほっとけよ!」
ビリージョーの背中では、まだ意識を失っているラミール・カーンが、だらりと力なく手足を投げ出しながら背負われた。
ディリアンにはそれが全く理解できなかった。
なぜ敵を助ける?しかもカーンは今回の戦いの原因と言っていい人物であり、助けなければならない理由が検討も付かなかった。
「まぁな、お前の気持ちも理解はできる。でも、俺も親切心で助けるわけじゃないんだ。こいつからは聞きたい事が山ほどある。こいつは帝国とずいぶん深く関わってるようだからな、得られる情報は多いと思わないか?」
「へぇ・・・なるほどな、けっこう考えてるじゃねぇか」
ビリージョーの考えに、ディリアンは納得したようだ。感心したように目を少し開いて頷いた。
確かに、今回の戦いでは帝国の目的を潰す事はできた。
だが、このまま引き下がるはずがない。
大臣のダリルは帝国に戻れば、今回の件でロンズデールを侵略する大義名分として動くだろう。
「クインズベリーも他人事じゃないからな。取れる情報取っておくべきだ」
自分自身にも言い聞かせるように言葉を口にするビリージョーを見て、ディリアンもまた自分の国が置かれている状況を思い出した。
偽者の国王に長年国政をいいようにされ、クインズベリーは成長はおろか、経済も軍事力でも弱体化させられていた。
おそらくそう遠くないように、クインズベリーも帝国と事を構える事態になるはずだ。
その時を考えれば、ビリージョーの言う通り、帝国の情報は一つでも知っておきたい。
「こっちよ、このまま真っすぐ、あ!バルデス様!」
通路真っすぐ進んで行くと、長めの銀髪と青い目をした男が、壁に背を預けて立っていた。
「・・・おぉ、サリー、よくぞ戻った。アラタにも無事に薬を飲ませられたようだな」
魔力を相当消耗したのだろう、顔色はあまり良くない。
しかしその表情は、弱みを見せる事を拒否するように笑顔だった。
「薬?そうか、てっきりサリーさんがヒールをしてくれたのかと思ってたけど、出血までなんとかできるわけないよな。そうか、薬を飲ませてくれてたのか。助かったよ、ありがとう」
アラタはヘイモンとの戦いの後、自分がどうやって助かったのかと確認できていなかった。
だが、今のバルデスの一言で疑問が解けた。気を失っていた間に、わざわざ薬を用意して治療してくれたのだ。
「バルデス様!ご無事でなによりです。再会の喜びを分かち合いたいところですが、時間がありません。闇と鮫が迫ってきています。早くボートの部屋へ行きましょう!」
フロアを出ると、闇は徐々の薄れていき、ボート部屋の手前まで来た時には、ずいぶんと薄くなっていた。しかし、水はここまで逃げても足首が埋まるほどに溜まってきており、鮫が水を弾く音も近くまで迫ってきている。
「あぁ、ボート部屋はここだ。中にはファビアナがいるし、シャノンもすでに戻っている・・・行くか・・・・・」
そして全員が頷いた事を見て、バルデスは満足そうに笑った。
「いよいよ脱出だな」




