665 残り時間
誤字を見つけたので修正しました。
なぜ俺がロンズデールに行く事になったか。
それはロンズデール国、バルカルセル大臣と、写しの鏡を使って通信をした時に出た一言が理由だ。
「今後帝国は、闇の力を使う者を送り込んで来るだろう。今の帝国は闇を操る術を探っていて、そしてそれは完全ではないにしても形を成してきている。闇に対抗する力が必要なのだ」
クルーズ船に乗り込む帝国兵、そして大臣と護衛の二人、誰かが闇を使うだろうとは思っていた。
そして闇という巨大な力を使うのならば、集団の大将側近かと思っていたが、やはりこいつだったか。
「予想通りだ・・・お前が闇か」
今、俺の目の前には、全身からどす黒い瘴気を発している巨躯の男が立ちはだかっている。
元々俺とは比べ物にならない程大きな体をしていたが、今は闇の力による圧がそう見せるのか、大きな体が更に大きく見える。
「そうだ・・・この私も闇の力を取り込んでいる。言っておくが、マウリシオと同レベルだと思うなよ?私の力はヤツよりはるかに上だ」
ダリル・パープルズから向けられる闇の瘴気に対抗するには光の力しかない。
俺は拳だけに纏わせていた光を全身に纏わせた。その瘴気は触れるだけで体を蝕まれる。
光の力を無くして対抗する事はできない。
「ほぅ、やはりデュークの光と同じか。この瘴気を完全に防いでいる。だが、知っているぞ。その力には限りがある。ほんの数分という短いものだ。それで私に勝てるかな?」
闇の力を解放したダリルは、アラタから受けたダメージなど消えてしまったかのように、再び余裕を取り戻していた。その顔には笑みを浮かべ、自信に満ちた表情は自分が圧倒的に優位だと言わんばかりである。
しかし、ダリルの余裕はアラタも承知の上である。
なぜならダリルの指摘は的を射ており、アラタ自身百も承知の事だからだった。
魔道剣士アロル・ヘイモンとの戦いでも光の力を使わざるをえなかった。
残された時間はおそらく一分にも満たないだろう。
「やってみなけりゃ分からないだろ?」
右足の踵を浮かせて、上下にリズムを刻み始める。左の拳は軽く握って前に出し、攻撃の体勢を整える。
「いい度胸だ・・・名を聞いておこうか?」
ダリル・パープルズも拳を握ると、肩の高さで構えた。
対峙する二人が臨戦態勢に入り、静かな緊張感に包まれる。
「坂木 新だ!」
右の爪先で床を蹴り、一歩で拳の射程内までダリルに迫った。
初撃は左ジャブ。光の拳であれば、ダリルの闇を貫きダメージを与える事は可能である。
腕力はダリルがアラタを大きく上回る。
しかし肉弾戦においては、アラタの戦術がダリルの上をいっていた。
近代ボクシングを学んだアラタを相手に、身体強化で力に任せた戦い方をするダリルでは、到底太刀打ちできない。
ダリルの武器が身体強化だけであれば、苦も無くアラタが勝利できる戦いであった。
だが・・・
「なにッ!?」
上半身を後ろに引いてアラタの左ジャブを外す。
まるで見切ったかのようなダリルの動きに、アラタは驚きの声を上げた。
「ふっ、あまく見たな?」
ダリルが右の拳を突き出す!
しかし上半身を後ろに引いていたため、腰の入らない手打ちになったその一撃を、アラタは左手を戻しながら肘を立て、内側からその腕を弾いた。
「くっ!」
どういう事だ!?コイツ、俺のジャブを完全に見切って外していた!
肩や視線から軌道を予測したのか?いや、こいつは体術も使えるようだがジャブは知らない。
近代格闘技で最速と言ってもいい左ジャブを、そう簡単に見切れるはずがない!
「ふん、攻撃がかわされた事がよほど意外だったようだな?だが、その程度で集中を乱しては戦いに勝てんぞ!」
下がったアラタを追って前に出ると、ダリルは大木のような右足でアラタの腹を狙い蹴り放った!
圧倒的な体重差を考えれば、受ける事は不可能。
ダリルの攻撃は全て躱すしかない。最初からその考えでダリルの前に立ったアラタは、さらに大きく後ろに飛び退いた。
僅かに腹をかすめた蹴りに眉をしかめる。闇の瘴気を纏った蹴りは、かすめただけでもアラタの光を削り取った。まともに受ければいかに光を纏っていても、ただでは済まない。
「フン!フーンッ!」
大振りの左拳をスウェーバックで躱し、続く右の突きに左を合わせてカウンターを叩き込む!
もらった!
アラタの左ストレートは完璧なタイミングだった。
間違いなくダリルの顔面を撃ち抜く!そう確信を持った一撃だったが、またもやダリルは顎引いて紙一重でアラタの左ストレートを躱した。
「なんだと!?」
今のを躱すのか!?村戸さんを通じてボクシングを知ってるようだが、こいつの動きはボクシングのものじゃない。近代格闘技を知らずに、反射神経だけで今のカウンターを躱したっていうのか!?
いや、違うな。今俺の左を躱した動きは、もっと別のなにかだ。確実に攻撃を読んで避けた。
そしてそれは勘や経験以外の何かだ。
「ふっ、なぜ俺が攻撃を避けれるのか、そんなに不思議か?だが教えてやるわけにはいかんな。時間が残っているうちに答えにたどり着かなければ貴様は死ぬだけだ。どうだ?焦るだろ?」
右手の平を向けて流暢に言葉を述べるダリルには余裕があった。
それはアラタの残り時間である。おそらくあと数十秒のうちに、アラタを護る光は消えて無くなる。
無理に攻める必要もなく、アラタはなぜ自分の攻撃が躱されるのか?という謎さえ解けていない。
勝利をほぼ手中に収めている優位性が、ダリルに自信と余裕を持たせていた。
「・・・そうでもないぜ。十秒あれば逆転には十分だ」
アラタも自分の置かれている状況はよく理解していた。
だがその表情には焦燥は全く見えない。それどころか、その言葉には自分の勝ちを確信しているな響きさえあった。
「・・・なんだと?」
意外な返事に眉を寄せ、口元を歪ませる。
この状況で逆転を口にできる事が理解できなかった。
そんなダリルの内心を察してか、アラタはダリルに右手の平を向けると、指先を自分に向けて二度三度曲げて見せた。
「かかって来いよ。お前にボクシングを教えてやる」




