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663 アラタ 対 ダリル

「ふん、どうやら残りは私だけのようだな。リコまで倒すとは・・・貴様らを見くびっていた事は、認めなくてはならないな」


ダリル・パープルズは自分以外の仲間が全て倒された事を見ると、攻撃の手を止めて、感心したように顎を撫でた。


カーン達、魔道剣士の力は知っている。並大抵の実力では太刀打ちできない。


そして護衛として連れてきたリコ・ヴァリン。

帝国の七人いる師団長にさえ匹敵する力をもった戦士が、よもやここで倒されるとは夢にも思わなかった。


「ネイリーはそろそろと考えていたからな、ちょうど良かったが・・・」


「何をぶつぶつ言っている?」


「いやいや、褒めているのだよ。まさかロンズデールにこれ程の戦力があったとは思わなかった。大したものだよ。少なくともリコを倒したあの赤毛の女、そして私とここまで戦える貴様は、帝国の師団長と遜色ない力を持っている。魔道剣士よりよほど役に立ちそうだ。どうだ?今からでも帝国に来ないか?好待遇で迎えてやろう」



手を差し伸べるダリルに、アラタは鋭く睨み付けて拳を構えた。


「ふざけるなよ、俺がそんな誘いに乗ると思ったか?ドーピング野郎が、かかってこい!」


「ドーピング?なんだそれは?」


この世界には存在しない言葉に、ダリルが訝し気な顔する。


「お前みたいな薬物強化のクソ野郎の事だッ!」



速いッ!


アラタの踏み込みに、ダリルは眉を上げた。


一歩で拳の射程内に入ると、初撃に選んだのは左ジャブ。

踏み込みと同時に体重を乗せて放つそのジャブは、牽制ではなく倒す事のできる左、それは見事にダリルの顔面を捉えた。


しかし元々の恵まれた体躯、そして肉体の強化によって耐久力が上がっているダリルには、ダメージはない。だが、衝撃によって目を閉じてしまう事は、耐久力云々ではどうしようもない。


ここまで散々ダリルのタフさを目の当たりにしていたアラタは、いかに体重を乗せてもジャブでダメージが与えられるとは思っていない。

本命はジャブに続く右の一撃、ボクシングの基本中の基本、そして最も有名な連撃!


ワン・ツー!


左足で懐に深く踏み込み、腰を左に回し肩を入れて叩き込む!

アラタの渾身の右ストレートが、190cmの巨体の顔面を殴り抜いた!


大きく体を仰け反らせるダリル。

足元がぐらつき倒れるかと思われたが、そこまでだった。

踏みとどまったダリルはゆっくりと体を起こすと、何事もなかったようにアラタに顔を向け、微小を浮かべて見せた。鼻から流れる赤い血が唇を染めると、右手親指で拭い取る。


乗船前にアラタはダリル・パープルズの第一印象を、まるでハリウッドの映画俳優のようだと感じていたが、殴られてからここまでの一連の動きは、まるで映画のワンシーンのように見栄がえよくサマになっていた。


「どうした?これで終わりか?まだ奥の手があるのなら、早めに出した方がいいぞ。後悔しないようにな」


撃ってこい、全て受けてやる。そう言わんばかりに両手を広げるダリル・パープルズ。

芝居がかったような仕草は余裕の表れだろう。事実アラタの攻撃に怯む事さえなかった。

圧倒的なタフネスを見せつけられれば、普通ならば尻込みするかもしれない。

だがアラタは拳を向けて躊躇なく踏み込んだ!



やはりダメか・・・分かっていたが、ここまでだとはな。

俺とコイツとの体格差を差し引いても、まともに入った右ストレートでダメージが見えないなんて異常だ!素手でコイツを倒すのは不可能と思った方がいい、ただし・・・・・


「こいつはどうだッ!」


「・・・ガッハァ・・・!」


左脇腹に深々と突き刺さった、アラタの右のボディブロー。

それはダリルの顔を歪ませ、初めてダメージを与える事に成功したと教えていた。


「ラァッ!」


右拳を抜くと同時に腰を回し、左拳を鳩尾みぞおちに突き刺す!

再びダリルの口から苦痛の声が漏れ、上半身が前に折れる。


「ガ、ハァ・・・うぅ、ば、馬鹿な・・・な、なぜ、だ・・・な!?」


何度殴られようと、これまでほとんどダメージを受けなかったはず。

だが、この攻撃は違う。魔道具の強化をすり抜けて、体の芯に直接ダメージを通される感覚だった。


腹を押さえ、痛みと苦しみに顔を歪ませながら、ふらつく足で二歩三歩と後退するダリルだが、突如その目が驚きに開かれる。


「そ、それは・・・!?」


目の前に立つ、黒髪黒目の男の拳が光に包まれている。


「ダリル・パープルズ、これがマルゴンを倒した光の力だ!」


握った拳を見せつけるように、アラタは左拳をダリルに向けた。


「・・・そうか、お前だな?クインズベリーに送りこんだ、マウリシオを殺したのは」



目の前の男が何者なのか?

それを理解したダリル・パープルズはそれまでの苦しそうな表情を一変させ、口の両端を上げて嬉しそうに笑った。


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