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632 支え合う二人

4~5メートルはあろう巨体に、鋭い牙、頬の黒いソレは頬黒鮫ホホグロサメ


獰猛で動物食。力は非常に強く、漁に出た船が、頬黒鮫に襲われ沈没したという話しは珍しくない。

ロンズデールの漁師が海で死亡する最多の原因が、この頬黒鮫である事から、海の殺し屋、黒い死神とも呼ばれている。


数々の悪名を持つ頬黒鮫が、外側から壁を破壊し船に侵入してきた。


大型客船ギルバート・メンドーサ号は転覆している。

そして浸水している事から、遅かれ早かれ全てのフロアが水に流される事も想像に難くない。

しかし、壁を破壊して鮫が侵入して来る事など、誰にも予想すらできない事だった。


あまりに突然の事態。バルデスとサリー、二人の眼前には、人間など丸のみにできる程、大きく口を開けた頬黒鮫が、なだれ込んでくる水と共に、牙を剥いて食いかかって来た。



「サメ如きがバルデス様にッ!」


バルデスも手の平に魔力を集め迎撃態勢に入っていたが、それよりも早く動いたのはサリーだった。


サリーの魔道具、イマジン・シザー。

ある一定の距離を、空間を飛ばして切り裂く事ができる。


ハサミの一太刀で絶命する程、鮫の生命力は弱くはない。

しかしサリーは右手に持つそのハサミを、目にも止まらぬ程素早く何度も振り動かし、サメの咢が自分を捉えるよりも早く、その首を斬り落として見せた。


頭と胴体が二つに分かれた鮫は、そのまま大きな水飛沫を上げて水中に沈んでいった。


「素晴らしいぞサリー。最初からこの力を出せれば、あのハゲにも後れを取る事はなかっただろうな」


「お恥ずかしい限りです。あの時はバルデスのお身体に、危険が迫ってませんでしたので・・・」


「フッ、まぁよかろう。それより上へ急ごう。この勢いでは数分持たずにここも水でするだろう」


「はい!」


サリーは迷いの無い目で頷き返事をすると、バルデスの後ろに付いて、水をかき分け通路の奥へと進んで行った。



「バルデス様、右目の治療は・・・」


「上に出てからだな。今はとても無理だ。なに、案ずる事はない。縛っておけばいい」


バルデスはシャツの袖を破ると、そのまま潰れた右目に当て、グルリと頭に回してキツく縛った。


「大丈夫ですか?血も大分流れてますが・・・」


「案ずるな、サリー。私は四勇士のシャクール・バルデスだぞ。この程度でへこたれはせん」


「・・・かしこまりました。では、上の階に着き、安全が確保できましたら治療にあたらせていただきます」


顔には出さないが、バルデスの体調は決して良いものではなかった。

いや、本来であれば数日は安静にすべき状態である。


いくら傷を治したと言っても、左手と左足には木片が刺さっていたのだ。

そして右目の傷は、おそらく割れたガラスなどが突き刺さっていたと思われる。

それ以外にも、全身にダメージを抱えている事は、歩き方や表情を見れば、サリーにはすぐに分かった。


膨大な魔力、そして戦いにおけるセンスは天才的だが、バルデスはあくまで魔法使いであり、その体力は一般人と何も変わらない。


特にひどかった腕と足の怪我は治したと言っても、右目と全身の裂傷に打撲、それだけでもひどい痛みで動く事が辛いはず。そして体力はとうに限界を迎えていた。



「・・・バルデス様!」


「・・・ん、どうした?・・・サリー・・・」



サリーが足を止めて呼びかけると、バルデスも足を止めて振り返った。

急にどうした?と、怪訝な顔をサリーに向ける。



「・・・私が、サリーがお体を支えます。ご了承ください」


「・・・サリー、しかし・・・」


「そうすればヒールをかけながら歩けます。これは強制です」


「・・・フッ・・・ハハハ、強制か・・・・・ならばしかたないな。承知した」


気の強さを表すような、切れ長の目の端に涙が浮かんでいる。

有無を言わさぬサリーの言葉に、バルデスは折れた。


こうなったら、決して引かない事を知っているから・・・・・


バルデスの左手を自分の肩に回すと、サリーは右腕をバルデスの背に回した。

左手はバルデスの胸に当て、その体を支えながらヒールをかける。





・・・なぁ、サリー


・・・はい、なんですか?バルデス様


・・・サリーは変わらないな、譲れない時はいつも強制と言う


・・・当たり前です。死んでしまったらどうするおつもりですか?


・・・そう、だな・・・死ぬわけにはいかないな・・・すまない


・・・謝らないでください・・・だって、元々私をかばったから・・・・・


・・・それこそ当たり前ではないか・・・私にとってサリーは・・・全てだ


・・・バルデス様




すでに腰の高さまで満ちている水の中、バルデスとサリーは寄り添いながら、一歩づつゆっくりと足を前に出して行く。



・・・バルデス様は・・・サリーがお支えします・・・これからも、ずっと・・・




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