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625 アラタ 対 ヘイモン

「ヘイモン、キミに一つだけ忠告しておく事がある」


「あらたまってどうした?」


それは俺が、ブロートン帝国を離れる日の事だった。


30になりロットは少し老けたが、端正な大人の顔つきになった。

俺は50になり、頭髪もほとんどが白くなり、人生も後半に入ったと感じるようになった。


10年という時の流れは、外見から感じる事ができる。

お互いそれだけの時間を過ごしてきたんだなと、最後の日だからしみじみと感じ入った。


ロットの研究室で知り合ってからの10年を語り、またいつか会おうと言って玄関を出ようとしたその時だった。



「悪霊の力は使えば使う程に、地の底から亡者が引きずりこもうと手を伸ばしてくるらしい。キミはこの10年で相当悪霊をの力を使ったと思う。クラレッサ・アリームを基準に考えれば、とっくに地の底に引きずりこまれておかしくないだろう。だがキミの様子を見る限り、今のところそんな気配は感じられない」


「・・・地の底、ねぇ・・・まぁ、体調は良いし、おかしなところはねぇな」


そう言って、力こぶを作って見せる。実際、日々の鍛錬のおかげで、体はいつも調子がいい。


「そうだな、クラレッサとキミでは使っている魔道具も違うし、悪霊との付き合い方も違う。そういったところでなにかしらの原因はあるのだろう。残念ながらそれがなにかは今の私には分からない。だが、今が大丈夫だからと言って、この先どうなるかは分からない。だから、極力悪霊の力を使うのは控えたほうがいいだろう。乱用していれば、亡者は必ずキミの足元にやってくる。それを忘れるな」


「・・・あぁ、分かった。ありがとよ」


「・・・またいつか会おう」


「あぁ、また、いつかな・・・」



俺の生涯唯一の友との別れだった。

その後、再びロットと出会うのは、実に20年も経ってからである。


そして帝国を出た俺はロンズデールに流れ、当時10歳、そして今は主君のラミール・カーン様と出会う。





「ハァァァァッツ!」


「な・・・んだ・・・それは?」


目の前の黒髪の男の体が、突然眩い光を発した。

その光の強さに圧されるように、ワシの槍から滲み出る黒い気が僅かだが弱まった。


「なに!?まさか・・・」


「ラァッツ!」


一瞬だが悪霊が押された事に動揺し、男から注意を切ったところを狙われた。

黒髪の男サカキ・アラタは、床が砕ける程に強い踏み込みでワシの懐に入ると、右の拳をワシの腹目掛けて撃ち込んで来た。


速い!


受けれるか!?否!この拳は悪霊の気を纏ったワシの槍ですらヘシ折る!

避けるしかない!


一歩後ろに飛び退くと、黒髪の男の右拳がワシの腹スレスレを抉り抜いた。

空振りだが、その光輝く拳の圧に体が押されそうになり、僅かに体のバランスが崩れる。


「フッ!」


サカキ・アラタは短く鋭く息を吐き、それと同時に左の拳を撃ってきた。


「む!?」


突然拳が大きくなった。

それが率直な感想だった。


顎先で構えていた左拳が、次の瞬間には目の前にありワシの顔面を捉えた。


「ぐぅっ・・・!」


手にはめている黒いグローブの堅さから、やはり鉄板かなにかが仕込まれていると確信する。

拳を撃ち抜いてこない、この一発は倒す事を目的としておらず、おそらく攻撃の主導権を握るための一発だ。事実、拳を顔面に受けた事で、一瞬だが視界がふさがれる。


「うぐっ・・・!」


そして続く一撃に喉の奥からうめき声がもれた。

腹にめり込む固く重いものに呼吸が止まり、意識が飛びそうになる。


辛うじて視界に入った情報で、それがサカキ・アラタの右の拳だと理解する。


腹から右拳を引き抜かれると、ワシの体も前のめりに崩れ落ちる。

それに合わせるように、左拳がワシの顎を撃ち抜いた。



こ・・・この光は、このパワーは・・・なんだ!?

ワシの悪霊を・・・まるで恐れておらん!

こ、こんな事は・・・初めてだ!こやつは・・・サカキ・アラタとはいったい何者だ!?



老いたりとはいえ、物心付いた時より武に生きて来た。

そのワシが自分の半分も生きていない小僧に、いいように殴り飛ばされている。


アロル・ヘイモンともあろう者が、なんというざまだ・・・・・



「オラァッツ!」


右の拳でヘイモンの顔面を撃ち抜いた。


小柄なヘイモンは全く堪える事ができずにそのまま殴り飛ばされ、何度も背中を床に打ちつけながらやっと動きを止める。



「はぁ・・・はぁ・・・」


どうだ・・・?



この時、アラタの拳に手応えはあった。

だが、悪霊の邪悪な気を纏うヘイモンを、直に殴りつけて実感した。

威力は大きく削がれていると・・・・・




多分、あの黒い気は鎧の役割も果たしている。

俺の拳が黒い気に触れると、光と悪霊の両方の気がぶつかり合い、その結果光は大きく削がれてしまっている。


その上やっと拳を届かせても、体と拳の間に少なからず悪霊の気がクッションのように入っているから、どうしても威力が殺される。ヘッドギアを付けられてるみたいなもんだ。


派手に殴り飛ばす事はできているが、実際のダメージはそこまで大きくないはずだ。



光の力は許容時間3分。

それを超えれば、数日はまともに動けなくなる。


それを十分承知の上で最初から惜しみなく力を使ったのは、それだけヘイモンの悪霊を脅威に感じたからに他ならない。

闇に対抗できる光の力だからこそ、ヘイモンの悪霊にも呑まれる事なく真っ向から立ち向かう事ができる。アラタの判断はこの場において、最適解だった。


だがヘイモンの悪霊は、宿主であるヘイモンを、悪霊自らの意思で護っている。

アラタの拳はアラタの懸念した通り、大きなダメージは与えられていなかった。




「・・・ここまで、一方的に攻撃を受けたの初めてだ・・・」


ヘイモンは肘を着いてゆっくり上半身を起こすと、ぐるりと首を回して鳴らした。

両手に握られていた槍は殴り飛ばされた時に落としてしまい、アラタと自分の間程の場所に落ちていた。


「・・・やれやれ、大事な武器を手放してしまうとは・・・」


ヘイモンは座ったまま槍に向けて手を伸ばす。


すると二本の槍はまるで意思を持っているかのように小刻みに震え出し、そのままヘイモンに向かって飛び込んでいった。


「なっ!?」


驚く俺をよそに、ヘイモンは左右の手で一本づつ槍を掴み取ると、杖のように支えにしてゆっくりと立ち上がった。


「驚いたのか?考えてみろ。悪霊の取り憑いた槍だぞ?このくらいはできても不思議はなかろう?」


ヘイモンは口を動かすと、溜まった血を唾と共に吐き出した。

さっきまでとは雰囲気が違う事を感じ取り、アラタは拳を握り構えた。


「ワシは魔道剣士四人衆筆頭、アロル・ヘイモン。全身全霊を持ってお相手しよう」



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