613 浸水と共に
カイレブ・プラットを倒したビリージョーとディリアン。二人は上の階を目指し歩いていた。
とは言っても、ディリアンはプラットから受けたダメージが大きく、満足に歩く事はできないため、ビリージョーに背負われている。
時間が経ち回復薬が十分に効いてきたのか、呼吸は安定し、多少は顔の腫れも引いてきた。
しかしそれ以上の回復は見込めないため、白魔法使いのヒールが必要である。
転覆前の最上階は完全に浸水してしまっため、引き返す事はできない。今自分達がいる元三階にも水が入り始めたため、ビリージョーは急ぎ次の階を目指していた。
だが、転覆しているため、当然階段を使えるはずもない。
そのためビリージョーは、事前にロンズデール国の大臣、バルカルセルから入手していた船の見取り図を元に、船員達が使う更衣室に来ていた。
部屋の中はまるで台風でもきたかのように、衣類は乱雑に散らばっており、青色のロッカーが、いくつも倒れて重なり合っている。
ぶつかり合ったのだろう。どれもへこんで傷だらけになっている。塗装事態は綺麗な色なので、新しい物だったという事は伺い知る事ができる。
「えぇと、場所はここで合ってるな。さすが大臣だ。けっこうな金を使ったらしいけど、よくこんなの手に入れたもんだよ」
地図と照らし合わせ、自分達が目的地に着いた事を確認してほっと息を付く。
そしてこの地図を手に入れたバルカルセル大臣の労力に、感謝の念を持った。
「さて、それじゃあ、ちょっとここで横になっててくれ。俺は通気口を探す」
ビリージョーはディリアンを背中から下ろすと、散らばっている衣類や机をどかして、壁際に人一人が座れるスペースを作った。
ディリアンはビリージョーに支えられながら、やっとという様子で体を重そうに動かし、その空いたスペースに腰を下ろした。
「・・・なぁ・・・ビリー、ジョー・・・」
かすれた声を耳にして、ビリージョーは振り返った。
「なんだ?ディリアン。どこか痛むか?」
「・・・ありが、とう」
「・・・なにあらたまってんだよ。仲間なんだからよ、気にしないで楽にしてろよ。俺だってお前に助けられてんだ。な?」
小さな声で感謝の言葉を口にしたディリアンに、ビリージョーは笑って言葉を返し、軽く肩に手を乗せた。
その時、船が大きく揺れた。
最初の転覆の時ほどではないが、それでも立っている事ができないくらいに足元が揺さぶられ、ビリージョーは慌てて両手を床についた。
「くっ!」
自分に向かって崩れ落ちて来るロッカーや椅子に、ディリアンは気力を振り絞って結界を張り防ぐ。
ビリージョーは、あと10cmも近ければ、自分の頭を打ちつけていたであろう棚が、青く輝く結界で防がれている事を見て、自分もディリアンの結界の中にいると分かり安堵の息をついた。
「・・・助かったぜ。ありがとうディリアン」
「・・・んな事より、この揺れは、なんだ?」
「・・・分からない。けど、この船が長くは持たない事は確かだろう・・・」
ディリアンが結界を解くと、ビリージョは倒れて来た棚や机や椅子を受け止め、そのまま放り投げる。
「フゥ・・・揺れも治まったようだな?早いとこ通気口を・・・」
「おい、ビリージョー・・・あれ・・・」
緊張した声で、更衣室の出入口を指すディリアン。
その指先を目で追うと、出入口から水が流れ込んで来ているのが目に入った。
「なに!?そんな・・・もうここにも水が入って来てるのか!?さっきまで部屋のドアよりは、水かさが無かったはずだぞ」
「・・・勢いもある・・・さっきの揺れ、じゃねぇのか?氷山かなにかにぶつかって、穴でも開いたんじゃ、ねぇのか?」
ディリアンの推理は、あながち的外れではなかった。
不可解な大揺れ、そしてその直後に浸水の速さが増している。
それは船になんらかの損傷があり、そこから水が流れ込んだと考えるのは当然と言える。
だが、そう考えた直後、ディリアンの予想は大きく裏切られた。
更衣室の出入口から入って来たのは、水だけではない。
「お・・・おい!ビ、ビリージョー・・・あ、あれ・・・」
「あ・・・あぁ・・・まさか・・・こんな事が・・・・・」
ディリアンとビリージョーは、ソイツらを目にした事で、この船からの生還が、いかに難しいかを本当の意味で悟った。
体長はおよそ150cm程度、前後に細く長い体を持ち、両顎が前方に長く尖っている。顎からは鋭い歯も覗き見えていて、その口はまるで槍のようだと言う事からその名が付いた・・・槍鮫と。
更衣室の出入口からは、水と共に数匹の槍鮫が侵入してきた。




