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593 侮辱と怒り

「ふむ・・・結局、こっちにまで逃げて来る者はいなかったな、サリーよ」


「はい。ファビアナの魔蝶は西側、こちらに飛んできましたが、追手の兵士三人は、アラタさんとビリージョーさんに倒されたようです」


国王の特等船室から出て来る兵士を逃がさないために、西側通路の奥にはシャクール・バルデスと、その侍女サリー・ディルトンが待機していた。


シャクールは後ろに流したやや長めの銀色の髪を、整えるように両手で撫でつけた。

ナイフのように鋭く青い目は、シャクールを知らない者が見れば冷たさしか感じないかもしれない。

しかしバルデスをよく知るサリーには、この状況を楽しんでいる事が見て取れた。



「サリーよ、船旅というものも案外楽しいものだな。窓からは海しか見えんが、その海がこうも美しいとは・・・同じようで一瞬として同じ景色がない。新しい発見だ」


「はい。バルデス様。私もそう感じております。時間がゆっくり過ぎるような、とても穏やかな気持ちになれますね」


「うむ、ロンズデールはとても良いところだな。温泉に船、食事も実に美味であった。サリーよ、早くこの件を片づけて、今度は二人でゆっくり来よう」


「はい、バルデス様。心待ちにしております」


微笑んで気持ちを伝えるサリーに、バルデスも口元に笑みを浮かべた。


すでに作戦は開始され、戦いは始まっているにも関わらず、緊張感の欠片もない二人には蜜月の時が流れていた。バルデスとサリーにとっては、今回ロンズデールに来た目的はあくまで旅行であり、一国の命運を左右するであろうこの戦いでさえ、旅行のついでにすぎない。



「・・・サリーよ、どうやら我々の時間を邪魔する無粋なヤツが来たようだ)


「はい、バルデス様。空気を読まないという言葉は、こういう時に使うのですね」



それまで通路の壁に背を預けていたバルデスだが、自分達に近づいてくる気配を察して、体を起こした。正面には階段があり、かすかに聞こえる足音は徐々に音を大きくしていった。

あと数歩でその姿を見せるであろう敵に、サリーもバルデスの隣に立つと、体中に魔力を漲らせて敵に備えた。





「おお、これはこれは、やはりカーン様の読みは確かでございました。こんなところに薄汚いネズミが二匹もいるとは。あぁ、やはりと言っても元々カーン様のお言葉を疑っていたわけではありません。確かな事を確かと言う。そう言う意味合いの言葉です。私がカーン様のお言葉を疑う事などありませんからね。お分かりか?ご両人」


最初に見えたのは、色の黒い坊主頭だった。

その背は高くニメートルはあるように見える。手足が長く、筋肉がついてはいるが太くはない。縦に長く伸びている印象だ。


防具らしい物は何一つ身に着けていない。

袖が無く、絹のように光沢のある、ゆったりとした長く白い一枚布を、体に巻き付けるようにして身に纏っている。

そしてその男の落ちくぼんだ両の眼は、バルデスとサリーを品定めするかのように、上から下まで遠慮なく見回している。


「初めまして。私はカーン様直属の魔道剣士四人衆が一人、エクスラルディ・ララ。愚かにもこの船に密航した、薄汚いネズミを駆除しにまいりました。つまりあなた方の事です。お分かりですね?ご両人」


流れるように胸に手を添えて、うやうやしく腰を折る。

口調は丁寧なものだが、使われている言葉は侮蔑でしかない。


ララの言葉にバルデスは特段の怒りは見せる事はなかった。

挑発にいちいち反応はしない。バルデスにとっては取るに足りない事である。

鼻で笑って流し、余裕を見せる。


しかし、バルデスはそれで済ませても、サリーはそうはいかなかった。



「・・・おいハゲ・・・貴様、バルデス様に向かってネズミだと?よくも言ってくれたな・・・」


敬愛する主人を侮辱されたサリーは、歯を噛みしめ、怒りと殺意のこもった目をララにぶつける。


「おやおや、黒いシャツに白いエプロン、見たままで言うなら、あなたはその男のメイドでしょうかね?たかだかメイド風情がこのララにそんな口を利くのですか?この栄えある魔道剣士四人衆のララに?・・・いけませんねぇ、ネズミの主人の教育がしれますよ?」



「・・・・・もういい」


白いエプロンのポケットから取り出したのは、小振りなハサミだった。


「・・・ハサミ?そんなものでなにをするつもりです?まさか?まさかまさか?このララとハサミで戦おうと!?」


一瞬目を丸くしたが、すぐに小馬鹿にしたように一笑し、大仰に両手を広げて見せる。


「バルデス様、この無礼者の始末、サリーにお任せください」


サリーは一歩前に出ると、手にしたハサミをララに向ける。

こうなっては決して引かないだろう。長い付き合いのバルデスにはサリーの決意の固さがよく分かる。


「・・・よかろう。では、そこの愚物はサリーに任せようではないか」


「ありがとうございます」


二人のやりとりを耳にしたララは、憐れむような目を向ける。



「無知というものはそれだけで罪ですね。二人でかかってくればよいものを、その女一人でこのララと戦うと?この魔道剣士四人衆のララを相手に?あぁ、もちろん二人でならば勝てる可能性があると言っているわけではありませんよ?僅かに寿命が延びるかもしれない。誤差程度ですがね。そういう意味での二人でかかってこいという言葉です。お分かりで・・・ん?」


嘲笑に付していたララだが、ふいに頬に感じた鋭い痛みに、笑みを浮かべたまま固まる。


「もうお前は黙れ。これ以上バルデス様のお耳を汚すな」


右手に持ったハサミをクルクルと指先で回し、侮蔑の目を向けるサリー。


ララは頬に熱いものを感じてそっと触れる。赤い血がその手の平を濡らす。

そこで初めて、自分の頬が切られた事に気が付く。



「う、おぉ・・・お・・・おぉぉぉぉぉぉーーーーーこのララの頬を!頬を!頬をォーーーーーッツ!」



「ほおお?貴様は犬か?何を吠えているんだ?」


「や、やってくれましたね女ぁッツ!楽に死ねると思わない事です!このララを怒らせた事を後悔させてあげましょう!」


憤怒の形相のニメートルの男が、両手を広げて飛び掛かって来た。


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