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590 レイチェルと国王の話し

「ふぁっふっぁっふぁっ、やるではないか女。どうだ?お前もクラッカーを食べるか?私のおすすめはチーズとアボガドと生ハムだ。シンプルにマヨネーズだけもいいが、甘党ならチョコもあるぞ」


目の前で自分を護る兵士が全て倒され、しかもその内の一人は両腕を破壊され、その血で絨毯を真っ赤に染めている。

しかし、その惨状を目の当たりにしても、国王カークランドはまるで気にも留めず、クラッカーをつまみながらにこやかに話しかけて来た。


「ほれ、ここに座れ。私に話しがあって来たのだろう?国王の護衛をこうも見事に倒してのけたのだ。褒美に聞いてやろうではないか。クラッカーを食べながらな。さぁ、言いたまえ赤毛の女。お前はなにでクラッカーを食べる?アボガドか?チーズか?生ハムか?」


イスをすすめられたレイチェルは、黙って国王の座るテーブルの前まで歩くと、国王が手を差し出す正面のイスの背もたれに手をかけ、ゆっくりと口を開いた。



「・・・カレー」



「・・・・・・・は?」



まるで違う言語でも耳にしたかのように、口を開けて目を見開く国王。

レイチェルはかまわずに言葉を続けた。


「私はクラッカーにはカレーをつけて食べるのが好きなんです。カレーを用意してくれますか?できればキーマカレーで」


「・・・アボガドとチーズと生ハムがあるんだぞ?」


「いえ、それはけっこうです。私はクラッカーにはカレーをつけて食べます。キーマカ・・・」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁーーーーッツ!」


激昂する国王の体から魔力が溢れだす。それは狂気を孕んだドス黒い魔力だった。


かつてこれと同じ黒い魔力を発した者がいる事を、レイチェルは知っている。

200年前のカエストゥスで、ブレンダン・ランデルと闘技場で戦った大臣ベン・フィング。

その醜い心の内を現したかのように、魔力は黒く濁っていたという。


「・・・国王陛下、人の食べ方にケチをつけるのはいかがなものかと。食の好みは千差万別ですよ」


「クラッカーにカレーだと!?カレーが強すぎてクラッカーを殺してしまうわ!そんな食い方は邪道だ!せっかく話しを聞いてやろうと思ったのに、なぜアボガドとチーズと生ハムを選ばない!?」


「この兵士にはそれを食べさせたのですか?」


身を乗り出し、今にもレイチェルに掴みかかりそうな勢いの国王を見ながら、レイチェルは後ろに倒れている両腕を破壊した兵士を指差した。


「明らかに普通ではなかった。正気を失った目は、精神に干渉する魔法、もしくは薬物。どちらか分かりませんが、これだけクラッカーをすすめてこられると、クラッカーに薬物を入れて食べさせたと、疑ってしまいますね」


「・・・・・面白い事を言う女だな?」


激情を一瞬で治め、スッと目を細めてレイチェルを見据える国王。

レイチェルはそれで確信した。


「どうやら当たってしまったようだ。帝国の大臣の側近には、ラルス・ネイリーという魔法使いがいる。そいつは薬物を使うそうですね?ネイリーから薬をもらったんではないですか?例えば身体能力を強化する薬とか?」


レイチェルの推測に、国王は下を向いてしばし沈黙する。


「・・・否定しないんですね?国王、あなたはご自分が何をしたかお分かりですか?国のために働く兵士を操り人形にしたんですよ。良心の呵責はないのですか?それで国を治められると思ってるんですか?」


レイチェルの言葉を聞いているのかいないのか、やがて国王は体を震わせながら笑い声を上げ始める。


「ふ・・・ははは・・・ふぁっふぁっふぁっ!カーンがそうせよと言ったのだ!カーンのする事に間違いはない!それで今日までこの国の平和は護られてきたのだ!その兵士がなんだと言うのだ!?不法侵入者がいるかもしれんと言うから、私の特製クラッカーで強化してやっただけだ!兵士ならば国王のために命をかけるのは当然だろう!戯言をぬかすでない!」



顔を上げた国王の顔は、狂気そのものだった。

大きく見開いた両目はギラギラと妖しく光り、口の端には泡を溜め、唾を飛ばしながら声を大にして叫ぶ。とても正常には見えない。



「・・・国王、イカれたあんたの頭は、叩けば治るのかい?」


拳の感覚を確かめるように、両手を打ち合わせる。


「口の利き方がなっておらんな?女、貴様の口いっぱいにクラッカーを詰め込んでやろう。もちろん、アボガドとチーズと生ハムのな」



国王の体から溢れるドス黒い魔力が、部屋中を覆う程に放出された。



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