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589 精神異常

「ひっ!」


ファビアナの短い悲鳴に、レイチェル、リンジー、シャノンの三人が一斉に顔を向けた。


国王のいる特等船室に魔蝶を放ったファビアナは、魔蝶を通して室内の様子を知る事ができる。

ファビアナの役目は兵士の注意を引き、部屋の外へ連れ出す事。

魔蝶に天井付近をグルグル回らせ、十分に注意を引いて頃合いだと思ったその時、魔蝶は捉えたその映像は、ダイレクトにファビアナの視界に飛び込んで来た。


「はぁっ!・・・はぁっ!・・・うっ、な・・・な、なんですか、あ、あれは・・・」


「ファビアナ、どうした?」


今、レイチェル達は国王の特等船室のすぐ近くで壁を背にしてに立っている。

魔道具、明鏡の水の効果で姿が見えなくなっているため、物陰に隠れる必要が無く、また目標は室内の国王であるため、兵士を制圧した後、騒がれる前に国王と話しをするため、素早さが求められるからである。



呼吸荒く、頭を押さえてうずくまったファビアナだったが、レイチェル達の呼びかけに、なんとか声を振り絞った。


「こ、国王は・・・国王は、もう私達の知っている、国王では、あ、ありません・・・あ、あの目は・・・」


明鏡の水の効果で、お互いの姿は見えない。

けれど、ファビアナが恐怖している事は、その言葉の端々から伝わって来る。


まるで底なし沼のように、深く暗い濁った目。

あの目を魔蝶が映した瞬間、ファビアナは悟った。これは違う・・・もう父ではないと・・・・・

一目で気づいたのは、血を分けた親子だからこそなのかもしれない。



「ファビアナ・・・」


手探りでファビアナを見つけたリンジーが、その肩に手を乗せる。


「落ち着いて、ファビアナ。今は任務に集中して。あなたの魔蝶にかかっているのよ」


「・・・は、はい・・・だ、大丈夫、です・・・」


精神に受けた衝撃は大きかったが、ファビアナは気を強く引き締め直し、魔蝶を操り室内から外へと飛び立たせた。


この作戦はまず最初に、部屋を開けさせる事から始まる。

力ずくで扉を壊して入る事は可能である。だが、秘密裡に行動している以上それは論外である。

静かに行動するためには、なんとしても相手に扉を開けさせなければならない。




作戦はうまくいき、ファビアナの蝶が通路に出て来ると、それを追って3人の兵士が扉を開けて出て来た。


「あっちだ!」

「追え!」

「魔力の蝶だ、気を付けろ!」


西側へ蝶を飛ばすと、兵士達は警戒をしているのか、一定の距離を取りながら追いかけて行った。


そこからのレイチェルの動きは、一切の無駄がない最速最短だった。


兵士達が扉から離れた瞬間に飛び出し、一歩で室内に入ると、入口脇に立っていた兵士の首に手刀を入れて意識を飛ばす。そしてその目は室内全てを一瞬で見回し、残りの人数を瞬時に把握する。


次いで、状況の理解が追い付かず、部屋の中央で突っ立っている兵士の顎を拳で撃ち抜く。

意識を飛ばすには脳を揺らす事が効果的だ。それにはアゴ先を狙うといい。

これはボクサーのアラタから聞いた知識だった。


部屋にいる兵士は全部で三人。

二人眠らせたレイチェルは、最後に国王の前に立っている兵士に向かって駆けた。


レイチェルの高速移動により、すでに明鏡の水は剥がれ落ちている。

そのため、侵入者が赤毛の女であるという事は、残った兵士の目には映っている。


しかし部屋に入り、兵士二人を叩き伏せる事に要した時間は僅か数秒。

最後に残った兵士が状況を理解できたとしても、満足な体勢を整えられるかと問われれば否である。


突然の侵入者、そしてそのずば抜けた実力、一瞬で自分の目の前に詰めてくるスピード、突然対応しろと言われても、冷静に立ち向かえるはずがない。



「なに!?」


しかし、兵士の顔に向けて真っ直ぐに放ったレイチェルの左拳は、両腕を盾に受けられ仕留め損なってしまった。


一撃で仕留められる自信はあった。そして自信以上に確信も持っていた。

部屋に入った瞬間に見た三人の兵士は、レイチェルから見ればいずれも隙だらけであり、国王の護衛を務めるには、実力不足である事が一目で分かったからだ。


だが、奇襲を受けたにも関わらず、この兵士は自分の拳を防いだ。

その驚きは、レイチェルの次の行動を僅かに遅らせた。



「オォォォォォーッツ!」


「むっ!?」


殴る。蹴る。剣を抜いて斬りかかって来る。

いずれの予想も裏切った兵士の行動は、掴みかかって来る、だった。

両手を前に出し、叫び声を上げながら掴みかかって来る様は、まるで獣のようだ。


「チッ!」


後手に回ったのは己の失態がゆえ。

レイチェルは自分の未熟さに舌を打つと、上半身を下げて兵士の腕をかいくぐる。

右足を深く踏み込み兵士の懐に入り込むと、右肘を立て兵士の鳩尾に刺し貫くように叩き込んだ。


全力ではなかった。

だが、確実に戦闘不能にするため、最初の二人程の手加減をする事もできず、かなりの力を込めた一撃だった。


「・・・なに?」


少なくとも兵士の体を吹っ飛ばして、壁に叩きつけるだけの威力はあった。


「ぐ・・・う・・・おぉぉぉぉぉーッツ!」


だが、兵士は一歩後ろに下がっただけで、踏みとどまると、再び獣のような咆哮を上げて、レイチェルに覆いかぶさるように襲い掛かって来た。



さっきから、なんだコイツは?普通じゃないぞ。

今の肘で止まらないなら・・・やるしかない!


レイチェルの目が鋭く光り、体から発する気が一段高まる。


レイチェルの両肩を掴み、そのまま力任せに押し倒そうとする兵士の両肘が、天井に向かって盛り上がり弾けた。


レイチェルの左右の手の平が、兵士の両肘を下から押し上げ、へし折ったのである。


裂けた皮膚からは骨が飛び出し、血しぶきが噴水のように飛び散る。


強烈な痛みに、それまで特殊な興奮状態だった兵士の目に正気が戻る。

関節の本来曲がるべき方向と、逆に曲がった自分の肘を目にし、兵士は大口を開けて悲鳴を上げそうになるが、それよりも早くレイチェルの右足が、兵士の側頭部を蹴り抜いた。



「・・・正気に戻ってくれて助かったよ。両足を破壊しなくてすんだからね」



糸の切れた操り人形のように、その場に崩れ落ちた兵士を見下ろして、レイチェルはそう呟いた。



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