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581 乗船手段

「クルーズ船は7日後だ。国王もその船に乗る。そこでなんとしても国王を説得しなければならない」


クルーズ船の出航日を話すガラハド。

そこで帝国の大臣とカーンが談合し、ロンズデールは売り渡される事になる。

もはやカーンの言いなりの国王は、その場で言われるままに調印をするだけである。


「クルーズ船には、カーンの魔道剣士隊も乗るだろう。当然国王の警護にも就くし、ヤツらに見つからずに国王に接触するのは不可能と言っていい。そこでファビアナの出番だ」


ガラハドが隣に座るファビアナの名前を呼び、話しを引き継ぎように顔を向けると、ファビアナが緊張したように身を硬くし、ゆっくりと深呼吸をして話し出した。


「あ、あの、わ、私の魔道具、魔蝶を使います」


ローブの内側から手の平に納まる程度の水晶を取り出すと、ファビアナは目を閉じて魔力を集中させていく。水晶は魔力を吸収するように薄紫色に染まっていき、やがてそれは薄紫色の淡い光を発する蝶へと形を変えた。




「すごい・・・水晶が蝶に変わった・・・どうなってんだ?」


俺は率直に驚いた。ファビアナさんの魔蝶を前に見た事はあったけれど、まさか元が水晶だとは思わなかった。


「ふふ、アラタ君、驚いたようね。これがファビアナの魔道具、魔蝶よ」


魔蝶はファビアナさんの手を離れ、執務室の中をひらひらと飛んでいる。

それをじっと眼で追う俺を見て、リンジーさんがクスリと笑い、魔蝶の説明をしてくれた。


「あの水晶が魔力を吸収して蝶に形を変えるの。大きさもある程度なら変えられるわ。物体をすり抜ける事はできないけど、小さくすればだいたいのところは入っていけるから、潜入も心配ないと思う。本当は偵察に使う魔道具だけど、これを使って国王の警護についている兵を誘い出したり、かく乱する事もできると思わない?」


「なるほど・・・」


国王の部屋に、突然魔力を帯びた蝶が入ってくれば、警護に付いている兵士達も騒ぎ立てるだろう。

全員は無理かもしれないが、そのまま誘導して外へ出す事もできるはずだ。

作戦の意図を理解して、そう言葉にして俺が頷くと、シャノンさんも付け加えるように言葉を発した。


「何人かの兵士は魔蝶を追いかけて離れても、国王を一人にする事はないはず。だから、国王の傍にも何人かは残るよね。そこは実力でねじ伏せるって事でいいのかな?」


シャノンさんの視線を受けて、リンジーさんは笑顔で頷いた。


「その通りよシャノンさん。それは体力型の役目だから、私かアラタ君かレイチェルさんが適任かな。ビリージョーさんは周囲の警戒が向いているし、ガラハドの魔道具は音が出るから、静かに事を運びたい時には不向きなの」


「そうなんですか?でも、素早く静かに敵を無力化させたいなら、一番はレイチェルだと思いますよ」


手合わせをした事はないが、前回クインズベリーからの町からナック村まで走った時、持久力もさる事ながら、そのスピードの一旦を垣間見たアラタは、レイチェルを押した。


「そうだな・・・俺も速さには自信があるが、あの姉ちゃんは別格だ」


一度レイチェルと戦ったガラハドさんは、その時の事を思い出したようで眉を潜めて苦笑いをして見せた。


あの時、レイチェルと一緒に歩いてきたガラハドさんの姿は、全身いたるところを蹴り飛ばされたようで、一目でボロボロと分かる状態だった。

ノックアウトこそされてはいなかったが、あんな目にあわされれば、もう二度と戦いたくないだろう。



「ふふ、ガラハドは痛い目にあわされたようですしね。では、その役目はレイチェルさんにお願いしましょう」


「リンジー、それは言わないでくれよ。だが確かに速攻をかけるには、あの姉ちゃんが適任だな」


「そうですね。じゃあ、レイチェルが戻りましたら、そう話しましょう」




そこまで話しをまとめると、クルーズ船に乗り込むための話しに移った。

当然だが、ラミール・カーンのやり方に反対している大臣派の人間が、クルーズ船に乗れるはずはない。身分は上の大臣が権限を使い命じれば可能だろうが、このメンバー全員を乗せれば、あからさま過ぎて警戒を強められるだけだ。


「密航しかあるまい。そしてその手段をシャノン嬢が持っている」


大臣に話しを向けられると、シャノンさんはコクリと頷いて大臣から話しを引き取った。


「あたしは黒魔法使いだから、船には風魔法を使ってみんなを送れるわ。乗り込む事自体はそんなに難しくはない。でも、問題は船に乗り込んでからだよね?ぼやぼやしてたらすぐに見つかっちゃう。そこで、この魔道具が役にたつ」


そう言ってシャノンさんはポーチから、透明な液体の入った小瓶を取り出した。

一見すると香水のようなそれを、シャノンさんは自分に吹き付けた。


「え?・・・あれ?」


目の前にいたシャノンさんの姿が、まるで空気に溶けるようにぼんやりしてきたかと思うと、そのままフッと消えてしまった。


「え!?消えた!?」


「あっははは!お兄さんいい反応するねー!」


驚きの声を上げると、姿は見えないのにシャノンさんの声が正面から聞こえて、また驚かされる。


「これはアラルコン商会の魔道具、明鏡の水。体に吹き付けると、この通り人の目に映らなくなるんだよ。体に付いた水が姿を隠してくれるんだけど、けっこうすぐとれちゃうんだよね。激しい運動や、雨に濡れても落ちるし、静かにゆっくり動かないと駄目なんだよ。まぁ、これを使えば乗船してからの行動はなんとかなると思うよ」


「ほぉ、これはすごいな。暗殺者が欲しがりそうな魔道具だ」


ガラハドさんが感心したように何度も頷くと、シャノンさんの姿がパッと目の前に現れた。

何かを払うように、肩や胸を軽く叩いている。


「うわっ、びっくりしたぁ」


「あっははは、ごめんごめん。この通り、水とは言ってもこうやって払えば落ちるんだ。適量を吹き付ければ、水に含まれた魔力が全身を見えなくしてくれるけど、反対に一か所でも水が取れればこの通り効果は無くなっちゃうの。けっこう気を遣う魔道具なんだよね」


「いやいや、それでも十分すごいですよ。でも、なんでこんな魔道具を使ってるんですか?」


黒魔法使いと言っても、シャノンさんは商人だ。

この魔道具はすごいけれど、商売に使う物とは思えない。


「あぁ、行商であっちこっち行ってるとね、たまに危ない時があるのさ。露店出してて変なのに絡まれたりね。戦えなくはないけど、町中で黒魔法使うわけにもいかないでしょ?逃げるのにいいんだよね」


笑って話すシャノンさんだが、話しを聞いて納得した。

シャノンさんも一人で大陸を回るわけではないだろうけど、女性というだけでならず者には軽く見られる事もあるだろう。女性が身を護るためには、かなり有効な魔道具だ。


「あ、あの、シャ、シャノンさん・・・」


おずおずとファビアナさんが話しかける。


「ん、どうしたの?ファビアナさん」


「そ、その・・・その魔道具・・・お店には、無かったですよね?」


「うん。ガラハドさんも言ってたけど、暗殺に使えるでしょ?盗みもできるし、便利だけど誰にでも売れる物じゃないんだよね。だから非売品なの」


「そ、そう・・・ですか・・・」


残念そうに俯いてしまうファビアナさんを見て、シャノンさんは何かを察したようだ。

クスっと笑って優しく言葉をかけた。


「誰にでも売れるわけじゃないけど、信用できる人は別だよ。特に女の子は身を護る手段が必要だよね?取っておくから、いつでもお店に来てね」


それを聞いてファビアナさんは顔を上げて、嬉しそうに笑って何度もお礼を口にした。

人見知りなファビアナさんだから、もしかしたら嫌な事を言われたり、怖い思いをした事があったのかもしれない。



それから俺達は船に乗ってからの行動を話し合った。

一段落する頃に、レイチェルとディリアンが戻って来た。


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