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561 ディリアンの印象

帰りの馬車の中は、俺とレイチェルの二人だけだった。

ビリージョーさんは、店長と積もる話しをしたいみたいで、城に残って泊る事にしたようだ。

明日の朝、店で合流する事になっている。


「アラタ、店長とはちゃんと話せたか?」


「うん、色々聞けたし、やっぱり会って良かったよ」


俺は店長からもらった新緑の破片を手に見つめていた。

弥生さんが使っていたという薙刀の一部だ。店長の話しでは、200年経った今でも風の精霊が宿っているという。俺に精霊の声は聞こえないけれど、確かに普通の樹とはまるで違う。

大自然の息吹とでも言おうか、持っているだけで周りの空気が澄んでいくような、なにか大きな力が感じられる。


「・・・前に話した時は、俺も緊張しててなんだか落ち着いて話しできなかったんだけど、今回はちゃんと話せたからさ、なんだかスッキリしたよ」


「そうか・・・それなら良かったよ。店長もキミの事をだいぶ気にかけているようだし、帰ってきたら鍛えてやると言ってたからな。力の使い方をきちんと学べる良い機会だ。それにしても、その破片は凄いな。とても大きな力を秘めているのがよく分かるぞ」


レイチェルが興味深そうに新緑の破片を見ているので、持ってみるかと手を向けてみた。


「いいのか?・・・じゃあ、少し借りるぞ」


元々が弥生さんの物だから、俺に気を使ったのかもしれない。

少し遠慮がちに、俺の手から小さな樹片を摘まみ取ると、顔の前でじっと見つめて感嘆の息を付いた。


「・・・ふぅ・・・・・これは、本当に凄いな。こんなに小さな樹片に、どれだけの精霊が住んでいるんだ?ナギナタという武器は知らないが、槍に似ているんだったな?これが元々は一振りの長物だったわけだ。これほどの武器を自在に操ったシンジョウ・ヤヨイ・・・・・一度お目にかかって見たかったよ」



ありがとう。気持ちの入ったお礼を口にして、レイチェルは俺の手に新緑の破片を戻した。


「アラタ、店長の言う通り、それはお守りとして肌身離さず持っておけ」


「うん・・・」



弥生さんの使っていた薙刀は、ジョルジュ・ワーリントンの住んでいた精霊の森の樹を使い、作り上げたという。

強い精霊の加護は、精霊が弥生さんと心を通わせていた証。

200年経っても色あせないのは、それほどの結びつきだったという事だ。



新緑の破片を両手で包み込む。

気のせいかもしれないけれど、精霊が喜んでくれているような、そんな暖かな風が感じられた。







「戻りましたー」


午後3時、閉店までには戻って来いというジャレットさんの言いつけ通りに帰ってきた俺は、まず最初に防具コーナーに顔を出した。


「おう、アラやんお帰り。ちゃんと帰って来たな」


丁度何か売れて会計をしたところだったようだ。

ジャレットさんはレジを閉めると、イスに座って俺に体を向けた。


レジとは言っているが、当然日本のコンビニのようなレジとは違う。

キャッシュドロアで直接現金のやり取りをしているのだ。


会計の時だけカウンター内の引き出しから出して、会計が終わるとカウンター内にしまう。

そして売れる度に何が売れたか、一点づつ帳簿に記載するのだ。

面倒だが、しかたのない事だ。当然レシートも無い。


だから、返品の時には困らないかと思ったのだが、そこは担当の記憶と帳簿で付け合わせをしているようだ。この国の人間の特徴なのか、基本的に返品は翌日には持って来る人が多い。

遅くても2~3日だ。

だから、だいたい覚えているし、帳簿もそのくらいは簡単に追いかけられる。

7日を過ぎれば基本的には受け付けないから、今まで大きなトラブルは無かったそうだ。


「ほら、今は空いてるからよ。アラやんも座れよ」


ジャレットさんはレジをしまうと、俺にイスをすすめて来た。


防具コーナーのカウンター内はあまり広くはない。

俺とジャレットさんの二人が入ると、帳簿をつけるくらいはできるが、盾や兜をメンテをするようなスペースは無くなってしまう。

だから座って向き合う時は、自然とカウンターから少し体がはみ出てしまうのだ。


「すみません。今朝はわがまま言って城に行かせてもらって」


「なに、気にすんなよ。店長と話すのはいい事だぜ。あの人から学べる事はいくらでもあるからよ。実際行って良かっただろ?」


チラリと俺に向ける目は、もう俺がどう答えるかなんて分かっているようだった。


「はい、本当にすごい人だと思います。実は・・・」


俺は城での一連の経緯を話した。

ベナビデス公爵に襲われた事は、さすがにジャレットさんも驚いていたが、店長があっさり制圧した事は、当然だろうな、と眉一つ動かさずに納得して頷いていた。


カチュアのお父さんの事は話すか悩んだ。

ジャレットさんに隠し事はしたくないけれど、レイチェルにはあの場の人間だけの秘密と言われたし、ビリージョーさんの心の傷に触れる事でもある。独断で話していい事ではないだろう。

だから黙っている事にした。


「そうか・・・そりゃあ大変だったな。しかし、ベナビデス公爵の三男坊も同行か・・・」


肩にかかる自慢のロングウルフを指でつまみ、何事かを考えるジャレットさんに、俺は疑問をそのまま問いかけた。


「あの、三男のディリアンは、素行が悪いって聞きましたけど・・・そんなになんですか?」


おそらくディリアンの素行の悪さを考えているのだろう。店長は悪人ではないと言っていたが、ジャレットさんは面倒見がいい。だから、俺達に同行するディリアンに不信感を持って心配しているのかもしれない。


そう思ったが、ジャレットさんの口から出た言葉は、少し違っていた。


「・・・まぁ、愛想のねぇし、生意気という言葉がぴったりだぜ。シリアスなリカルドって感じのヤツだな。ただな、素行の悪さってのは、俺にはどうも違って見えるんだ。なんかよ・・・親にかまって欲しくてわざと悪さをする子供っているだろ?あれだ。俺にはディリアンが孤独に見える」


「孤独・・・ですか?」


「アラやん、ディリアンと一緒に行けば、苛つく事はあるだろう。でも、ちょっと広い心で接してみてくれ。俺はあいつは本当はもっと明るいヤツだと思うんだよな」


ジャレットさんらしい。俺はディリアンの事は何も知らないが、15歳、リカルドよりも年下だ。

きっと何とかしてやりたいと思ってるんだろう。


お世話になってる先輩の頼みだ。答えは一つに決まっている。



「はい。分かりました!」


シリアスなリカルドか・・・仲良くやれればいいけどな。


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