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560 バリオスの考え

「師匠!待ってください!」


女王アンリエール様への謁見が終わり、俺達4人が玉座の間を出ると、後ろから追いかけて来る声に立ち止まって振り返った。


腰のあたりまである長いダークブラウンの髪を揺らし、足早に追いかけてくるのは、女王の護衛にして青魔法使いのローザ・アコスタだった。


縁取りに暗めの茶色のパイピングをあしらった、クインズベリーの青魔法使いのローブを着ている。


「ローザ、どうした?」


「師匠・・・師匠も行くのですか?ロンズデールに?」


店長の前に立ったローザは、髪と同じ色の切れ長の瞳で、何かを訴えるように、何かを確認するように、じっとその顔を見つめている。


「いや、俺は行かない。この城の復興、国の混乱を治めねばならないし、それにベナビデス公爵家の事もでてきたからな」


「師匠・・・ベナビデス公爵家の三男、ディリアンを一緒に行かせるんですよね?大丈夫なのですか?その、あの者は素行に少々問題が・・・」


「うん、言いたい事は分かる。確かにディリアンは粗雑だ。だが、悪人ではない。将来性はあるが素行不良が目立ち、今では存在しないかのように扱われている。伸びしろはあるのにもったいないだろう?逆に次男は聡明だが、魔法使いとしては平凡だ。領地を治める力はあるが、領主として時に強引にいかねばならない時に、若干の不安を感じる。そういう時に、ディリアンが助けになれればいいと思ってな・・・」


「・・・師匠、そのために・・・」


そうか、俺はなぜ因縁のあるベナビデス家の人間を同行させようとしているのか、疑問でしかなかったが、ディリアンを成長させ、認めさせる。そういう考えがあったのか。


店長の話しの通りなら、国にとって、公爵家の領地に住む多くの人々のためになる事だろう。

俺達の個人的な因縁は目を瞑るべきなのだろう。



「ビリージョー、キミと公爵家の事は知っている。だが、ディリアンは15歳。あの時は生まれてすらいなかったんだ。感情を抑えてほしい」


トレバーによって左目を失い、長年苦しんできたビリージョーさん。

ベナビデス公爵家の人間が同行するというのは、心中穏やかではないだろう。


「はい。確かに複雑ではありますが・・・いえ、そうですね。あの当時まだ生まれてもいなかった・・・そんな子供にまで憎しみをもつのは・・・分かりました。その子に敵意を持たない事を約束します」


僅かに悩んだようだが、ビリージョーさんはすぐに頷き了承した。


「アラタ、キミもだ。カチュアの事を大切に想うのは分かる。だが、ベナビデス公爵は今回の一件で完全に失脚だ。次男に跡を継がせるとは言ったが、力はだいぶ削がれるだろう。それに俺が締めておくから心配するな」


「・・・はい」


俺も少し悩んでしまったが、この件は店長の言う通りにしよう。

そう決めて返事をした。


「カチュアの父の名誉は護る。カチュアの気持ちを考えれば、暴行死という事実は発表しない方がいいだろう。代わりになにか考えておく。例えば、家族を護るために悪に立ち向かった立派な騎士・・・とかな」


「あ、はい!ありがとうございます!」


カチュアの心中を想っての言葉を聞き、俺は声を大きくお礼言葉にすると、店長は実におかしそうに笑った。


「ぷっ、あはははは!アラタ、カチュアの父の事で、キミがお礼を口にするとはな。カチュアは本当に良い男を捕まえたものだ」


「え、いや、そんな、からかわないでくださいよ!」


軽く抗議の言葉をあげると、店長は、悪い悪いと言って、俺の肩を軽く叩いた。


「なるほどな・・・この前話した時も思ったが、確かにキミは優しいな。その優しさをどうか失わないでほしい」


笑いの余韻を残した顔で、店長は俺に優しい声をかけてくれた。

しかし、大笑いをしたはずなのに、その瞳にはどこか寂しさが見えた。


店長はいつもどこか寂しそうにしていると聞いた事がある。

その時はピンと来なくて、どういう事かと思ったが、俺はその意味が分かった気がした。


店長の正体はウィッカー・バリオス。

本人に確認した訳ではないが、間違いない。弥生さんの話しもしたし、確信を持って言える。


俺はジャレットさんから聞いた、かつてのカエストゥスと帝国の戦争の歴史を思い出した。


俺が聞いたところまではカエストゥスが優勢だった。だが、カエストゥスは負けた。

それは歴史が証明している。


敗戦によって大切な人を亡くした事は、想像するまでもない。

それによって負った心の傷は全く癒えていないのだ。



「・・・俺は、自分が優しいなんて思いません。ただ、臆病なだけです。でも、優しい人になれるように頑張りたいと思います」


「そうか・・・俺が聞いていた話しより、ずいぶんと強いじゃないか。アラタ・・・この一件が片付いたら、俺が鍛えてやろう。だから、必ず生きて帰って来い」


そう言って店長は俺の手を取ると、なにか固い物を握らせた。


「・・・これは?」


手の平に乗せられたのは、樹の破片だった。


「銘は新緑・・・ヤヨイさんが使っていた、ナギナタという武器の破片だ。手の平に収まるこんなに小さな破片でも、強い風の加護が宿っている。お守りだ・・・なにかあればヤヨイさんが護ってくれるだろう」


「え・・・」


その言葉に驚き、再び握らされた樹の破片に目をやる。

この樹の破片が、弥生さんの使っていた新緑?


「セシリア・シールズとの戦いで、新緑は限界を超えた力を引き出した。無理がたたってな・・・もはや武器としては使えないし、持ち主もいないのに、精霊は今でも新緑から離れようとしないんだ。アラタ、キミなら風の精霊もきっと認めると思う。持って行け」



弥生さん・・・・・


新緑の破片から、どこか懐かしいものを感じられた。

これは・・・・・



「・・・店長、ありがとうございます。大事にします」


「あぁ、大事にしてくれ」


店長は優しく微笑むと、傍らでずっと店長を見ているローザに顔を向けた。


「さて、ローザ。俺の考えはこの通りだ。ローザの心配も分かるが、ビリージョーも納得してくれた。少なくとも、仲間内でのトラブルは起きないんじゃないかな」


「はい。師匠がそう言われるのでしたら、私がこれ以上口を挟む事はありません」


納得したローザは、そこで一礼をすると、玉座の間へと戻って行った。


「・・・本当なら、もう少し人を出したいんだが、今は国の立て直しが急務だからな。それに、お前達についていけなくては、かえって足手まといになるだけだ。そう考えると、四勇士のバルデスとサリー、そして公爵家のディリアンも加えれば、少数精鋭としては申し分ないだろう」


ローザの後ろ姿を見送った後、店長はまとめるように話し出した。


「そうですね。バルデスとサリーは、直接戦ったジーンもユーリも自分達以上と認めてる程ですし、私達三人は体力型ですから、黒魔法と白魔法が入ってくれるのは助かります。ところで、そのディリアンは何の魔法使いですか?」


店長の話しに同意しながら問いかけるレイチェルに、店長は当然と言わんばかりに腕を組んで答えた。



「青魔法使いだ。これで三系統揃うな」


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