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556 因縁

「・・・すまないな。大の大人が、みっともない・・・」


話し終えたビリージョーは、赤くなった目尻の涙を拭い、アラタとレイチェルの前で取り乱した事を謝った。


「・・・そんな事ないですよ。俺も一緒です。俺も、カチュアの前で泣いた事あります。男だって、大人だって、泣きたい時はありますよ。みっともなくなんかないです」


アラタの本心からの言葉だった。

日本から異世界プライズリング大陸に来たアラタは、何度も日本に残した家族の事を思い悩み、かつての自分を振り返り激しく後悔した。


そしてカチュアの前で涙を流した。


涙を流す事は恥ではない。流す事で己の心に整理をつけ、前を向く事もできる。



「アラタ君、キミは逞しいな・・・」


「ビリージョーさん、話してくれてありがとうございます。俺、カチュアのお父さんが亡くなった理由は、事故死だと聞いてました。でも、そんな事があったなんて・・・・・カチュアには、聞かせられなくて当然だと思います」


時間が経ち過ぎた。


それでも真実を話した方がいいのかもしれない。けれど、アラタにはそうは思えなかった。

父の死は事故として受け入れているカチュアは、憎しみを持たずに育った。

真実を知らないまま、このままの方がいいのかもしれない。


何が正しいのかは分からない。正解なんて誰にも分からない。


けれど・・・・・



自分を見て笑ってくれるカチュアを頭に想い浮かべる。


あの笑顔を、憎しみと悲しみに染めたくない。



「・・・アラタ、それでいいと思うぞ。私も同じ気持ちだ。カチュアは知らなくていい」


肩に置かれたレイチェルの手に、顔を向ける。


「アラタ、今聞いた話しは私達の胸にしまっておこう」


「・・・あぁ、もちろんそのつもりだ」


主犯であるトレバーは死んだ。数人の取り巻きがいたようだが、誰かも分からない以上、報復すべき相手もいない。

この話しはここで終わりだ。


「それで、義眼になったんですね」


「あぁ・・・左目の光を失ってだいぶ経ってからだがな。レイジェスに通うようになったある日、カチュアから話しかけてきたんだ。俺の希望する魔道具が作れるってな。当時は眼帯をしていたから、俺が左目を失っている事はカチュアも知っていたんだ。それで、冗談めかしてな、カチュアとの雑談の中で、見ただけで温度を測れる義眼でもあったら、料理に便利だなって話した事があってな。それを店長、バリオスさんに話したそうなんだ。できるよ、と即答だったそうだ」


大した人だよ。と柔らかい表情でつぶやくビリージョー。

さっきまでは自分を責めて表情に影を落としていたが、ある程度落ち着いたようだ。



「・・・これで、俺の話しは終わりだ。父親がナック村に移り、体調を壊した事をきっかけに俺も王宮仕えを辞めてナック村に移った。城を離れる理由ができて、ほっとしたというのが正直な気持ちだった。トレバーから離れる事ができたんだしな。あいつももう俺を警戒してはいなかった。何年も経っていたからな、今更騒げば、むしろ俺の方が糾弾されるだろう。だから、このまま墓まで持って行くつもりだった・・・」


「・・・けれど今回の戦いで、トレバーは死んだ。トレバーが闇に呑まれて、アンリエール様や騎士団を攻撃した事も、ベナビデス公爵家にとってマイナスでしかない。公爵家の力は大きく削がれた」


アラタがビリージョーの心情を読むと、ビリージョーは黙って頷き、肯定の意を示した。


「そうだ。心の奥底に閉じ込めていた色々な感情が、一気に湧き上がってな。本当はカチュアに会った時に真実を話して謝罪するつもりだったんだ・・・・・けれど、いざ会ってみると・・・とても言えなかった」


そこでビリージョーは、アラタの顔を正面から見た。


「・・・アラタ君といる時のカチュアは、とても幸せそうだった。あの笑顔を見たら、とてもな・・・」


カチュアを想うがゆえに言えなかった。

そのビリージョーの気持ちに、アラタは少し表情を崩して笑って見せた。


「大丈夫です。俺が言うのもおかしな話しですが、もう自分を責めないでください。カチュアのお父さんなら、きっとすごく優しい人だったと思うんです。ビリージョーさんがそこまで苦しんでいる事を、望んだりしないんじゃないかなって・・・・・だから、これは三人の心に閉まっておきましょう」




ありがとう・・・・・そう言って、また俯いたビリージョーを、アラタとレイチェルは労わるように見守っていた。




この話しは、アラタ、レイチェル、ビリージョーの三人の中で終わるはずだった。



しかし、ビリージョーは言った


人生とは選択の連続だと

右か左か、どちらの道を選んでも同じ目的地に着くのであれば、どちらを選んでも着く事に変わりはない。


しかし、その途中ですれ違う人はどうだろうか?


右を通れば交わる事のない赤の他人


左を通れば、それは自分にとって因縁浅からぬ相手と遭遇する事だってある





「貴様、ビリージョーだな?」


「・・・ベナビデス、公爵・・・」



城へ入ったアラタ達三人が、まずは女王への謁見をと、玉座の間に向かう途中の事だった



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