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549 帰宅

俺達がレイジェスに帰ったのは、ロンズデールを出てから三日目の夕方だった。


やはりどれだけ急いでも国境の街レフェリで一泊。そして翌日はナック村で一泊。

その翌日の午後3時半を回った頃、ようやくレイジェスに帰ってきた。


計算して見ると、行きで三日。ロンズデールに滞在で一日。帰りで三日。都合一週間程出ていた事になる。


「おー、レイジェスだ。久しぶりだなぁ・・・何年ぶりだろ。バリオスさんにこの義眼を作ってもらって以来か・・・」


夕焼けがレイジェスの石壁を赤く照らす。

日もかなり傾いて来た。後一時間もすれば太陽は沈み、夜の闇が町を暗く染めるだろう。


ビリージョーさんは左目を押さえ、残った右目で遠くを見るようにレイジェスを眺める。


「・・・あの、聞いてもいいですか?」


「・・・なんだ?」


ビリージョーさんは前を向いたまま、いつもと変わらない穏やかな口調で問い返した。


「その・・・左目、どうしたんですか?」



「・・・あぁ、これか・・・アラタ君、お前・・・カチュアと結婚するんだったな?」


「え?・・・あ、はい・・・そうですけど・・・」


なぜ突然カチュアとの結婚の話しがでるのか分からず、少しマヌケな声を出してしまった。

だが、ビリージョーさんはそんな事は全く気にも留めず、静かに言葉を続けた。



「・・・話しておくべきかもしれんな・・・・・実は・・・」



なんだ?

いったい何を言うつもりだ?


ビリージョーさんの左目は義眼だが、バリオス店長の作った魔道具で、普通の目と変わらず物を見れるらしい。


確かに外から見ても一見普通の目に見える。

だが、よく目を合わせて見ると、やはり違う。右の生きた肉眼と比べると、それは明らかだ。

左はどこか焦点が合っていないように見える。


その両目でじっと顔を見られる。

ビリージョーさんのただならぬ雰囲気に、俺は緊張して生唾を飲み込んだ。



「カチュアの・・・・・」



「アラタ君!」


ビリージョーさんが、そう話しを始めようとした時、レイジェスの出入口からカチュアが声を上げて走って来た。




「カチュア!」


「良かった!無事だったんだね!」


俺の胸に向かって、飛び込むように勢いよく抱き着いて来たカチュアを、しっかりと受け止める。


「ごめん。急に何日も家を空けちゃって・・・」


「うぅん、お城の兵士さんから、話しは聞いたから大丈夫だよ。大変だったね」


「・・・うん」


「・・・どうしたの?」


なにせ、一週間くらいいなかったんだ。文句の一つくらい言われると思っていたのだが、労われるとは。


寂しい思いをさせたのに、こんなに優しく迎えてくれるとは思わなかった。

そう伝えると、カチュアはニコリと微笑んで、指先で俺の胸を突いた。


「だって、レイチェルが一人じゃ心配だったから、一緒に行ったんでしょ?レイチェルは私の大事な友達だよ。アラタ君もそうでしょ?友達を助けるのは当たり前だよ。怒る理由なんてないよ」


カチュアは両手を後ろ腰に組んで、おかえりなさい、と言ってもう一度笑顔を向けてくれた。



「うん、ただいま」


それがとても嬉しくて、俺も目いっぱいに笑顔で応え、カチュアをぎゅっと抱きしめた。







「・・・あ~、感動の再会のとこ悪いけど、そろそろ中に入ろうぜ」


後ろからビリージョーさんに声をかけられ、ハッとしてカチュアを抱きしめる手を解く。

カチュアも俺の背中に回していた手を離し、二人で赤面していると、レイチェルが呆れたように思いっきり溜息を付いた。


「はぁ~・・・まったく、キミ達は・・・ほんっっっとうに人目を気にせずイチャつくよね?ビリージョーさん、この二人はいつもこうなんです。胸やけに注意してください」


「はっはっは!確かにな、そんな感じするわ。ま、仲が良くてけっこうなこった」


「えっと、ビリージョーさん、ですよね?お久しぶりです」


挨拶が遅くなった事を気にしたのか、カチュアが遠慮がちに声をかけると、ビリージョーさんは気にするなと言うように、軽く手を振った。


「覚えててくれたか?3~4年ぶりだもんな。元気そうでなによりだよ。しかし、大きくなったな?それに結婚するんだって?時間が経つのは早いな」


当時を思い出すように目を細める。


「ビリージョーさん、ちょっとお父さんの気持ちになってますか?」


カチュアはクスリと笑って、ビリージョーさんの顔を見る。


「ん?そうだなぁ・・・俺からすりゃ、カチュアやリカルドなんかは子供でもおかしくない歳だからな。本当に立派になってくれて嬉しいよ」


3~4年ぶりだと言う割には、時間を感じさせない気安さで話す二人。

まるで、つい昨日も会っていたようだ。とても良い信頼関係を築いていたんだな。


「あの、ビリージョーさん・・・」


「ん、アラタ君、どうした?」


さっき、何を言おうとしてたんですか?

そう聞こうとして止めた。


なんとなくだが、カチュアの前で話してはいけない。

そう感じたからだ。


「あ、いえ・・・みんなと仲良いんですね?」


ビリージョーさんも俺が何を聞こうとしたか察したようだ。


「・・・あぁ、ナック村に行ってからはなかなか会えなくなったけど、それまでは俺もけっこうレイジェスに来てたんだ。差し入れ持ってきてたりしたら、いつの間にかけっこう話すようになってな・・・・・よかったら、後でゆっくり話してやるよ」


とっさに話しを変えたけど、ビリージョーさんは汲んでくれたようだ。


時間を見て話しをしてくれると言うので、俺は黙って頷いた。


そんな俺とビリージョーさんを、カチュアは不思議そうな顔で見ていたが、何かを言われる事はなかった。



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