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536 ロンズデールの歴史 ①

「お察しの通り、私達はクインズベリーの情報を帝国の使い、あのミリアムに渡す事が任務でした。三国会談の席に着くとは、帝国も思っていなかったのでしょう。今回の戦いで、クインズベリーがどのくらいの被害を受けたか、新女王の印象、残った戦力など、そういうものを見て来る事が第一の目的でした」


今、俺達は国境の町レフェリから、ロンズデール首都に向かう馬車の中にいる。

リンジーさんは、俺達と戦った事で色んな事が吹っ切れたように見える。表情や言葉に力があり、その目にも確かな意思が感じられた。


「やはりそうか。それで今回の情報は、あの女に全ていってしまったんだな?」


俺の隣、リンジーさんの真向かいに座るレイチェルが、膝の上で両手を組ませながら、言葉を挟み確認する。


「・・・はい。同じ宿に泊まりましたので、私達が知り得た事は、昨晩のうちに話しました」


やや俯き加減に、申し訳なさそうに声を落とす。

けれど、すぐに顔を上げて、リンジーさんはレイチェルの目を真っ直ぐに見た。


「クインズベリーには多大なご迷惑をおかけしました。代わりにはならないかもしれませんが、私達の知る帝国の情報をお渡しします」


「・・・それはありがたいが、良いのかい?あなたはただの使者なんだろう?そんな重大な事をここで私に約束して」


レイチェルの指摘は最もだった。

リンジーさんがある程度上の立場にいる事はなんとなく分かるが、今ロンズデールと帝国は、帝国に有利な条件でだが友好関係にある。


ただでさえ今回リンジーさんが俺を助けた事で、睨まれる事になるだろうに、勝手にそんな約束をしていいのだろうか?


「かまいません。レフェリを出る時にも、全てお話しすると約束したではありませんか?それに、ロンズデールが変わるには必要な事です。私達は覚悟を決めております」


レイチェルは真意を確かめるように、じっとリンジーさんの目を見つめ、やがて右手を差し出した。


「分かった。あなたを信じよう。私達もできる限りの協力はしよう」


レイチェルがリンジーさんに向ける表情は、これまでと違い、警戒心を解いた自然な笑みだった。


「・・・はい。よろしくお願いしますね!」


初めて見るレイチェルの柔らかい表情に、少しだけ目を丸くした後、リンジーさんも笑顔でその手を握った。





「・・・元々、ロンズデールの王家は、争いを好まない温和な人間ばかりでな」


レイチェルとリンジーさんが手を握り、優しい空気が流れると、リンジーさんの隣に座るガラハドさんが口を開き話し始めた。


「歴史上、ロンズデールが一度たりとも戦争をした事がないのは有名だろ?弱腰だの、指導力が足りないだの、裏で色々言われる事は当然あった。だが、それが何百年も続けば、やがてそれが当たり前になる。国民だって血は流したくないんだ。国王が一貫して平和主義を貫き、それで国が平和に回るのならば、それが支持されるようにもなる。200年前のカエストゥスと帝国の戦争でも、ロンズデールは中立を決め込んだ。一時劣勢に立たされた帝国から支援を要請されたそうだが、頑としてその要求だけは吞まなかったそうだ。兵力はあるが、それはあくまで自国が攻め込まれた時の最終手段。他国の争いに犠牲を出すつもりは毛頭ないとな」


「へぇ、まぁ当然と言えば当然だな。わざわざ他国の争いに首を突っ込む必要はない。その判断は間違っていない。それにしても、よくそんな記録が残っていたね?あの戦争の歴史は、書物もほとんど残っていないと聞くが?」


「自分の国の、ロンズデールの歴史だぞ?戦争介入を断った経緯くらいは残っているさ。逆に言えば、それ以外は何も分からないがな。あの戦争は謎が多すぎる。帝国の公式発表も疑わしいものだ。歴史があえて隠されているとしか思えん」


そうレイチェルに言葉を返すと、ガラハドさんは眉間にシワを寄せ、難しい顔で話しを続けた。


「それでだ・・・ロンズデールはこれまでずっとそうしてきた。最後の一線で、戦争に加担する行いだけは拒み続けた。だがな、現国王の代で少し変化が起きた。俺達を見れば分かるだろ?帝国の言いなりになって、他国に間者として入り込むなんて、侵略行為に加担しているとしか言えん。ロンズデールが帝国の傀儡、言いなりと言われている事は周知の事実。現国王リゴベルト・カークランドも例にもれず温和な人間だが・・・いかんせん、心が弱すぎた」


自分の国の王を批判する言葉に驚かされたが、それだけ気持ちを固めているという事だろう。


「それが今のロンズデールだ。戦争をしない。国民に血を流させない。そのために帝国の要求を全て呑んだ結果がこれだ。こんなのは戦争をしかけているのと何も変わらん。全く持って矛盾している。リンジー、お前の言う通り、今回の一件はロンズデールが変われる最後のチャンスだろう。クインズベリーと手を取り、帝国に立ち向かうべきだ」


「ガラハド・・・はい!その通りです!」


リンジーさんとガラハドさんが、目を合わせ気持ちを確認し合う。



「・・・なるほどな。そういう事か。さっき、このお嬢ちゃんからも聞いたが、今のロンズデールの国王は優しすぎたんだな」


話しの区切りがついたところで、ビリージョーさんが口を挟んで来た。

正面に座るファビアナさんにチラリと目を向ける。俺達と合流する前に、色々と話しを聞いているようだ。


「国民に血を流させないため。戦争になるよりはマシだろう。そうしてハイハイと要求を呑んでいるうちに、それがどういう結果を招くか分からなくなっちまったんだ。このままじゃ遅かれ早かれ国が亡びるぞ」


警告するようにそう告げるビリージョーさんの言葉を受け、リンジーさんは静かに口を開き、言葉を返した。



「・・・否定できませんね。だからこそ、ここで変わらなければならないのです。ロンズデールについたら、まず大臣のバルカルセルに会っていただきます。彼は反帝国を国王に訴える数少ない人物です」



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