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535 霧が晴れて

両手首を掴み取り押さえるミリアムの体から、凍てつく魔力が放出される。


この時俺は、ミリアムをどうするかで一瞬だが迷ってしまった。

このまま手を離せば、きっとこの女は霧に紛れて逃げてしまうだろう。

そうなれば、おそらくもう捕まえる事はできない。


ならば、このまま腕をへし折り、腹に一発食らわせてやればいい。


国の事を考えればそうすべきであり、そうしなければならない。


だが、ためらってしまった。

どっちつかずで、ミリアムを押さえたまま迷ってしまった事で、俺はミリアムの放つ氷魔法を躱すタイミングを逃してしまった。


直撃を受ける・・・そう思い覚悟を決めたが、突然右横から腹に衝撃を受け、そのまま地面に倒された。

その直後、7~8メートルはあろうかと言う巨大な氷の竜が、天に向かって高々と立ち昇り、氷の彫像となって圧倒的な存在感を見せてそびえ立った。




「ぐっ、な、なんだ・・・」


「何をボケっとしているのですか!?危うく死ぬところでしたよ!」


背中から強く倒され、痛みに顔をしかめる。

上半身を起こそうとして、目の前にいる人物の顔が目に入り驚く。


「リ、リンジーさん?」


リンジーさんは四つん這いで、上から俺の肩を押さえていた。

キツク俺を睨んでいるが、その瞳には憎しみは見えなかった。むしろ、俺の身を案じているような、そんな優しさも感じ取れた。


「リンジーさん、どけてください。まだ終わって・・・」


「ミリアムはもういませんよ。竜氷縛を撃つと同時にこの場を離れました。この霧の中、逃げに徹したミリアムを捕まえるのは不可能でしょう。もう、終わったのです・・・」



静かにそう話すと、リンジーさんは俺の体から手を離し、ゆっくりと起き上がった。


「アラタさん、立てますか?」


スっと右手を差し出される。

少しだけその手を見つめた後、俺はしっかりと握った。


「・・・すみません。ありがとうございます」


立ち上がり辺りを見渡すと、さっきよりも霧が薄くなってきている事が分かる。


「・・・ミリアムの魔道具、霧の首飾りです。さっきよりも薄くなってきてますよね。ミリアムが離れて行ってる証拠です。彼女はこの霧の能力で、どこに人がいるかも分かるのです。だから、あなた方が隠れて私達を見ている事もすぐに分かったのです」


「それって、霧が触れた物は、何か分かるって事ですか?」


確認するように尋ねると、リンジーさんは首を縦に振った。


「その通りです。人物の特定まではできませんが、この霧はミリアムの魔力を元に発生したものです。自分の魔力に人が触れたかどうかくらいは、分かるようです」


かなりやっかいな能力だ。

特に集団戦では絶大な威力を発揮するだろう。このミリアムがいるだけで、こちらは足止めをくらい、相手陣営はミリアムの指示に従い動くだけで先手が取れてしまう。



「くそっ!なんで俺は・・・・・」


自分の甘さに激しく後悔し、思わず大きな声を出していた。


なんで俺は殴れなかった・・・・・


なんで・・・・・!



「・・・アラタ君」


下を向いて拳を握りしめている俺に、リンジーさんが静かに優しい口調で声をかけてきた。


「ミリアムを止められなかった事を悔やまないでください。実際に手を合わせて、そして見ていて分かりました。あなたは、女性に手をあげる事ができない人です。ミリアムを押さえつける事だって、無理をしていたんじゃないですか?」


顔をあげて、リンジーさんと目を合わせる。

涙の跡は残っていたけれど、とても優しい顔で微笑んでいた。


「・・・リンジーさん、笑顔が戻りましたね・・・それに、なんだか前より自然で、優しい感じがします」


俺のその言葉は、リンジーさんにとって思いがけないものだったようだ。

パチパチと目を瞬かせた後、口元に手を当てクスクス笑いだした。



「いけませんよ。他の女性にそういう言葉を使っては。アラタ君にはカチュアちゃんがいるんですからね」



きっとこれが、リンジーさんの本当の笑顔なのだろう。

今までの、どこか無理をしているような笑顔とは違う。


とても自然で、心から笑っている。優しさに満ち溢れた大輪の花のような笑顔だった。





「・・・落ち着いたようだな」


霧がだいぶ薄くなった頃、レイチェルとガラハドさんが並んで歩いて来た。


「あぁ、そっちも・・・・・けっこうボロボロだけど、話しはついたって事でいいのかな?」


二人を交互に見比べてみる。

レイチェルは両腕のダメージが大きそうに見えた。上着は、肘から先の袖がほぼ無くなっていて、どんな攻撃を受けたのか分からないが、焼け焦げていた。

しかし顔は綺麗なままで、直撃は受けていないようだ。


対してガラハドさんは全身メッタ打ちにされたようだ。

衣服もところどころ破れ、鼻や口にも血を拭った跡がある。

息も上がっているところを見ると、レイチェルが優勢に戦っていた事が伺える。


「あ~、だいたいの事は分かった。リンジー、いいんだな?」


俺にチラリと目を向け、ガラハドさんはリンジーさんに念を押すように何かを確認した。


「はい。こうなってしまっては、私達も覚悟を決めましょう。それに、ロンズデールが変われる最後の機会だと思います」


迷わず首を縦に振るリンジーさんを見て、ガラハドさんも目を閉じ自分を納得させるかのように、何度か頷いた。


「・・・分かった。リンジーそう言うのであれば、俺も覚悟を決めよう。ファビアナは?」


ガラハドさんがその姿を探すように首を回すと、後ろから声がかかった。


「おーい、こっちだ」


その声にみんなが顔を向けると、ビリージョーさんが軽い感じで手を上げて、ファビアナさんと連れ立って歩いて来た。



「みんな揃ってんな。その感じだと、お前達もまとまったって事かな?」


「あ・・・あの、わ、私・・・ご、ごめんなさい」


ビリージョーさんの隣に立ち、おどおどしながら消え入りそうな声で話し出すファビアナさんに、みんなの視線が集中した。


「・・・ファビアナ、どうしたの?なんで謝るの?」


リンジーさんが一歩近づき、まるで子供に話しかけるように、腰を落として同じ目線でそう言葉をかける。


「・・・あ、あの・・・私・・・は、話し、ました。ロンズデールと、帝国の事・・・ごめん、なさい」



「・・・そう。大丈夫よ、ファビアナ。私もそうするつもりだったの。ガラハドもよ。だから、顔を上げて。ね?」


ファビアナさんが、安心したように、ほっと小さく息をついて顔を上げると、リンジーさんが腰を上げて俺達に向き直った。


「・・・クインズベリーの皆さん、全てお話しします。私達の事、ロンズデールと帝国の事を」



霧が晴れて、少しだけ温かい陽の光が差し込んで来た。


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