520 ロンズデールからの使者 ⑤
「・・・いやぁ、驚かせてすみませんでした。あんまり頭にきたものでつい。私はデヴィン・ガラハド。そして、こっちはファビアナ・マックギー。リンジーの世話役として付き添っております」
ガラハドと名乗ったのは、白髪で体格の良い男性だった。
顔に刻まれたシワや、後ろにまとめて縛られた真っ白い髪を見ると、50代くらいに見える。
190cmはありそうな背丈と、服の上からでも一目で体力型と分かる、鍛えられた筋肉が目につく。
これくらいの年なら普通に衰えもあるだろうが、目の前のガラハドという男性の自信と力に満ちた眼を見ると、年齢なんて関係ないと思わせるものがあった。
武器は鉄の棒だった。杖のようにして腰の辺りで手を乗せている事から、おそらく90cm~100cm程度の長さだと思う。一見なんの変哲もない鉄の棒に見える。
少し太いようだが、この体格なら片手で軽々と操りそうだ。
棒の中心に滑り止めと思われる黒い布が巻かれており、どうやらそこを握って攻撃の起点にするようだ。
そして先端が少し黒く汚れている事が目についた。もしやこの棒で始末した相手の血か?と嫌な想像が頭をよぎる。
動きやすさを重視しているのか、防具と呼べる物は鉄の胸当てと、膝下に鉄の脛当て、そして両腕に真っ黒いバックラーを付けているのが、これは特徴的で目をひいた。
もう一人、ファビアナ・マックギーという女性だ。
こっちは一目で魔法使いと分かる服装だった。と言うのも、テレビゲームに出て来る魔法使いそのものだったからだ。
背は150cm程だろう。
小柄な体系には不釣り合いな、頭がスッポリ隠れる、先の折れた大きなとんがり帽子。
手首より袖が長く、足のくるぶし近くまで丈のある、ワンピースのローブ。
手にしている木製の杖は、先が渦巻きのように丸まっている。
特徴的だったのは、帽子もローブも濃いめの青色だったという事だ。
ゲームのイメージにあるこの手の服装の魔法使いは、緑や黒だったのだが、青というのは新鮮な感じだった。
年齢はまだ10代かもしれない。どこかあどけなさの残る顔立ちで、猫のように丸みのある紫色の瞳、小さくて形の良い唇。少しボリュームのある薄紫色の髪は、顎の下あたりで綺麗に整えられていた。
日本でアイドルでもやれば、人気が出るだろうなという印象だった。
「よ、よろしく、お、お願いします・・・」
しかし、このファビアナという女性はとにかく人見知りが激しいらしく、自己紹介を終えて馬車に乗る時も、おどおどビクビクして、ボソボソ話しながらやっと乗り込むだ。
いったい何をそんなに怖がっているのだろうか?
リンジーさんの隣に腰を下ろすと、リンジーさんと目を合わせる事もできないらしく、話しかけられても俯きながらボソボソと聞かれた事に答えるだけなのだ。
使者の付き添いとして他国まで来ておいて、これで本当に大丈夫なのかとこっちが心配になるくらいだ。
レイチェルもそれは感じているようで、ファビアナさんを見る目には疑問がありありと浮かんでいる。
「・・・ファビアナさん、失礼かもしれないが、なにか私達やこの国に気になるところでもあるのだろうか?緊張しているようなので気になってね」
突然話しを向けられたファビアナさんは、体をこわばらせ、恐る恐る声を絞り出すように答えた。
「い、いえ・・・そ、そんな事・・・ない、ですよ・・・」
「そうかい?それならいいんだが、なにかあったら遠慮なく話してほしい」
最初からまともな答えを期待していなかったかのように、レイチェルはそれ以上追及せず、あっさりと引き下がった。
「あぁ、すまんな。コイツはいつもこうなんだ。魔法使いとしては優秀なんだが、人付き合いがとにかくダメでなぁ。子供以下なんだ」
ファビアナさんの隣に座るガラハドさんが、溜息を付きながらファビアナさんの肩に手を乗せる。
大きくてゴツゴツとしたその手は、ファビアナさんの肩にズシリとした重みを乗せ、小柄な彼女はそれだけで体が傾いてしまった。
「うぅ・・・」
「ガラハド、あまりファビアナをいじめないでください」
帽子を下げて顔を隠すファビアナさんを見て、リンジーさんがたしなめるように声を出すが、こういう時でもやはり穏やかな表情をしている。
「むぅ、そんなつもりじゃなかったが、すまんな」
ガラハドさんは頭を掻きながら、ファビアナさんに謝罪の言葉をのべた。
俺はこの人達が、この国になにか良からぬ事をしそうとは思えなかった。
レイチェルに目を向けると、レイチェルも視線だけ俺に向けて来たが、その表情は硬い。
俺とは反対に、レイチェルはまだ警戒を解いていないようだ。
そしてレイチェルの視線は、俺にも気を引き締めろ。そう言っているのが伝わってきた。
そうだった・・・彼らから感じる良い雰囲気に、つい気を緩めてしまっていたが、俺は護衛も兼ねてこの馬車に乗っているんだ。彼らに対する疑いは関係なく、彼らは今、他国の使者としてここに来ている。油断せず万一に備えておかなければならない。
「あ、見えてきましたよ。あれがクインズベリー城ですか・・・」
町を出て森の中を進んで行くと、窓から景色を眺めていたリンジーさんが、遠くを見る様に少し腰を浮かせた。樹々がカーテンとなり、まだ城の上半分くらいしか見えないが、それでも城に損傷があるのは見て取れる。
「ご存じの通り、今回の戦いで城は半壊に近い状態です。瓦礫はある程度取り除きましたが、周囲には十分注意してください。どこかが突然崩れてくる事も考えられますので」
城が視認できる距離になると、レイチェルはロンズデールの三人に、城内の状態や気を付ける事を説明した。俺が一昨日入った時の状態から考えても、一階は通り道くらいしか確保できていないだろう。
二階もだが、三階は特に破損がひどいから、突然崩れてなんて事も考えられなくもない。
レイチェルの言う通り、頭上には注意が必要だ。
リンジーさん達はレイチェルの説明に頷く。
ここまで友好的な態度できているし、これなら心配はいらないかもしれない。
俺の懸念なんて、ただの気のせいだったのだろう。そう思えていた。
そして馬車は無事に城にたどり着き、俺達は玉座の間に通された。




