517 ロンズデールからの使者 ②
「リンジーさん、この野菜炒めのキノコ、クインズベリー産でとても美味しいんですよ」
テーブル中央の大皿から、カチュアがリンジーさんの分を取り分ける。
「ありがとうございます。これは美味しそうですね」
リンジーさんもそれを受け取りながら、カチュアにお礼を言う。
「もぐもぐ、カチュアー俺もお替り」
リカルドが空になった皿をカチュアに向ける。
「リカルド君、まだいただきますしてないよ?なんで無くなってるの?」
「カチュア何言ってんだ?食ったら無くなるに決まってるじゃん」
「・・・そういう事じゃなくて、う~ん、リカルド君はしかたないなぁー」
説明しようとしたが、カチュアは諦めて、リカルドの皿に野菜炒めを盛りつけた。
「アラタ、ご飯」
ユーリが俺にご飯をよそった茶碗を渡してくる。
「ユーリ、ありがとう」
お礼を言って受け取ると、ユーリはリカルドの隣に腰を下ろした。
テーブルを挟み、向かい合う形で座る。俺の隣にはカチュアが座り、カチュアの隣にはリンジーさんが座っている。
「じゃあ、みんなの分は行き渡ったね。いただきます」
カチュアの声に合わせて、みんなでいただきますを口にして食べ始めた。
言うまでもないが、リカルドだけはすでにご飯もおかわりをしている。
「・・・美味しい!カチュアさん、このキノコは本当に美味しいですね」
「ふふ、お口にあったようで何よりです」
「もぐもぐ、カチュアー、お替り」
「おいリカルド、さっきからカチュアばっかり動かすな。自分でやれよ」
空になった茶碗と、野菜炒め用の皿を出すリカルドに俺が注意すると、リカルドはそれらを俺に向けて来た。
「じゃあ、兄ちゃんやってくれよ」
「・・・なんでそうなんだよ?」
「カチュアばっか動かすなって言うんなら、兄ちゃんが動けよ。自分の言葉に責任持っ、うがぁッツ!」
とんでもない言い分で俺に喰ってかかってきたリカルドだったが、隣に座るユーリがリカルドの顔面を鷲掴みにして黙らせた。アイアンクローだ。なんだかミシミシと不吉な音まで聞こえる。
「リカルド、何言ってんの?」
「痛い痛い痛い!は、離せ!」
リカルドが両手でユーリの手を掴み、引き離そうとするが、ユーリは全く意に介さずにリカルドの顔を掴み続ける。
「自分の分は自分でわけなさい。分かった?」
「わ、分かった!分かったから離せ!つ、潰れる!」
ユーリが手を離すと、リカルドはしばらく両手で顔を覆い、テーブルに伏していた。
よほど痛かったようだ。
「あ、リンジーさんはお客さん。だから別。自分のやるのはリカルドだけ」
ユーリがそう言葉を向けると、それまでポカンとしてやりとりをみていたリンジーさんが、両手で口元を隠しクスクス笑いだした。
「あなた達、とっても仲良しなのね」
「え?リンジーさん何言ってんの?違うから」
「そ、そうだ!こんな暴力女と誰がっ!痛ッツ!よせ、離せ馬鹿!痛いって!」
回復したリカルドだったが、ユーリに暴言を放ったせいで、再び顔面を掴まれてもがいている。
いつものボディブローでないのは、食事中だから、吐かれたら困ると思ったのだろう。
リンジーさんはおかしくてたまらないらしく、両手で完全に顔を隠してプルプル震えている。
やっと解放されたリカルドは、テーブルに顔を乗せてぐったりとしている。
ユーリに至っては、これも悪くない、とブツブツ言いながら、手を開いたり握ったりしている。
アイアンクローが気に入ったようだ。やめて欲しい。
「・・・今日は誘ってくれてありがとうございます。突然だったのに、お食事までご馳走になってしまって」
ひとしきり笑った後、リンジーさんは俺達を見てお礼を口にした。
なんで俺達が今日、こうしてリンジーさんを家に招き、一緒に食卓を囲んでいるのか?
それは今日の閉店時の事だ。
リンジーさんがロンズデールからの使者と聞いた俺は、どう対応したらいいか分からず、とりあえずジャレットさんに声をかけて引き継いだ。こういう時は責任者に任せるべきだ。
するとジャレットさんは、ミゼルさんとシルヴィアさんを連れて来て、リンジーさんと四人で事務所で色々話したそうだ。
リンジーさんが本物の使者どうか?一人で来たのか?付き添いは?色々とこと細かくに聞き出し、最終的にはリンジーさんの言葉を信じた。
信じた理由だが、ミゼルさんは昔ロンズデールに一年程住んでいた事があり、リンジーさんの服装や話し方から、ロンズデールの人間に間違いないと判断した事。
そして一人で来たわけではなく、付き添い人もいると言う。
どこにいるのかと問うと、宿に残して自分だけ抜け出して来たと、悪びれもせずに口にしたと言う。どうやら、このリンジーさんという女性は、良くも悪くもマイペースな性格らしい。
どこの宿か聞くと、なんとクリスさん宿だった。ミゼルさんの彼女のクリスさんのいる宿を取ったという事も、信用するポイントとして大きかった。時間的に今日は無理だが、明日には確認できるからだ。
抜け出した理由は、俺達に、レイジェスの従業員に会いたいという事だった。
リンジーさんは今回の偽国王との戦いで、俺達レイジェスの人間が全員戦闘に参加した事を知っていたのだ。
この町ではすでに知れ渡っているが、他国の人間がなぜこうも早くその事を知ったのか不思議に思い尋ねると、どうやらこの町でちょっと聞き込みをしたら、みんな気持ち良く教えてくれたそうだ。
これには俺も全身の力が抜けて溜息が出た。
ジャレットさんも肩をすくめてたし、ミゼルさんは苦笑いして、シルヴィアさんは黙って首を横に振っていた。
アンリエール女王に渡す書状は、付き添いが預かっているらしく、明日城に着いた時にリンジーさんが受け取り、アンリエール様に渡す流れらしい。
そして、事務所でそんな話しをしていたら時間が経ってしまい、遅くなったからこれから宿に戻るより俺の家に泊まった方が安全じゃないか?そういう話しになり今に至る。
ちなみにそう提案したのはカチュアだった。そしてリカルドが、しょうがねぇから俺も泊ってやんよ。と、謎の言い分を口にすると、どういう訳かユーリも付いて来た。
多分、リカルドはカチュアのご飯が目当てだ。それは想像がつく。
けれどユーリはなんでだ?
「最初はただの興味本位でした。リサイクルショップの従業員がお城に乗り込んだなんて、いったいどういう事?そう思ってお店に行ってみたんです。でも、今は私、皆さんに会えて本当に良かったと思ってます。初対面の私にこんなに親切にしてくれて、皆さんはとても優しいです。ぜひ、友達になりたいです」
リンジーさんは俺達一人一人の顔を見て、ニコリと笑顔を見せてくれた。
「しゃ~ねぇ~なぁ~、そんな言うんなら、俺が友達になってやらぁ。リカルドだ」
イスの背もたれにふんぞり返り、偉そうに語るリカルドに、リンジーさんは右手を差し出した。
「わぁ!嬉しいです!リカルド君、握手しましょう!」
「あ?えぇ・・・と、お、おうよ」
テーブル越しだが、ぐいっと距離を詰められて、ニコニコと微笑みながら手を伸ばすリンジーさんに、リカルドはあきらかに動揺しながら、その手を握った。めずらしく顔が少し赤くなっている。
「リカルド・・・」
「お、おぉ・・・な、なんだよ?なに睨んでんだよ?」
隣に座るユーリが、リカルドを鋭く睨みつけて低い声を出す。その迫力にリカルドもビクリと体が固まり、完全に及び腰になる。
「睨んでない。女性の手をいつまでも握るのは失礼。離しなさい」
「えぇ!?俺普通に握手してた・・・お、おう分かった!分かったから睨むなよ!怖ぇーよ!」
ユーリに気圧されたリカルドがイスを引いて後ずさると、リンジーさんはユーリにも手を差し出した。
「ユーリちゃんも握手しましょう」
「え!?・・・あ、うん」
リンジーさんのあっけらかんとした様子に毒気を抜かれたのか、ユーリもやや戸惑った感じになったが、リンジーさんとしっかり手を握り合った。
そのままリンジーさんは、俺とカチュアとも握手を交わした。
今日はいっぱい友達ができて嬉しかったです!と、リンジーさんは満面の笑みを見せて喜んでくれた。




