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516 ロンズデールからの使者 ①

11/21 誤字を見つけたので訂正しました。内容に変更はありません。

ベン・フィング。

それは俺も知っている名前だった。


パスタ屋でジェロムの父の夢の世界に入り、そして飛び込んだ闇の中で聞いた名前であり、ジャレットさんから聞いたカエストゥスの戦争の話しでも、出てきた人物だったからだ。


しかし、その男が今回の黒幕とはどういう事だ。

当然200年という時間の流れで死んでいるはずだ。もしや、ベン・フィングも店長さんと同じく、なんらかの方法で生き永らえているのか?



俺の疑問を察してか、店長さんは答えを口にした。


「闇だ。ベン・フィングはもう人ではない。ヤツもすでに闇の化身となっている。そして今、ヤツはブロートン帝国にいる。帝国の現皇帝ダスドリアンは危険な思想を持っている。偽国王を倒してから沈黙を守っているが、このままですむはずがない。アラタ、レイチェル、俺はベン・フィングを倒し、王子の魂を救い、この世界の夜を支配する黒渦を消す。それが俺の目的だ」


沈黙が降りた。

レイチェルも初めて聞いたのだろう。一言も発せずに黙っている。

店長さんの目的は途方もなく大きなものだった。そして俺は理解した。


この人は・・・ウィッカー・バリオスは、このためだけに200年も生きてきたんだと。


それがどんな方法かは分からない。

けれど繋がった。

今この世界で起こっている事、過去の戦争、そしてこれから起こるであろう戦い、それら全てが繋がった。


そしてその物語りの中心に、今俺も入ろうとしている。

いや・・・すでに入っているのかもしれない。






「あまり時間をとれなくてすまないな。店のみんなにもよろしく言っておいてくれ」


「はい。店長さ、あ、店長とお話しできて良かったです。では俺はこれで」


店長との顔合わせと話しは終わった。

店長さんという呼ばれ方は他人行儀な感じだし、あまり好ましくなかったようで、さん付けはいらない。店長と呼んでくれと言われたので、そうする事にした。


「アラタ、今日話した事は店のみんなにも伝えてくれて大丈夫だ。明日、私が帰った時にもあらためて話そうと思うが、前もってキミからも話しておいてくれ」


レイチェルもこのまま残るので、俺は一人で帰る事になる。


「アラタさん、ロンズデールの使者の事、お伝えいただいてありがとうございます。来るという前提でこちらも準備しておきます」


「はい、面倒事でなければいいんですが。俺で力になれる事があったら、いつでも呼んでください」


そう言葉を返すと、エリザ様は、はい、と微笑んでくれた。


一階の正門の前まで、店長とレイチェルとエリザ様が見送りに出てくれたので、俺は三人に軽く会釈をして、それじゃあまた、と言って正門を開けて出た。


中庭を進み一人で城門まで行くと馬車が用意されていて、門番の兵士が乗るように言ってくる。

多分エリザ様だろう。帰りの事を考えて馬車を用意していてくれるなんてありがたい。

城から店までは馬車で30分程の距離なので、もし歩いて行くとなると1時間以上普通にかかる。


俺は兵士にお礼を言って馬車に乗った。






俺は昼過ぎに店に戻り、その日はそのまま仕事に入った。

そして夕陽が町を赤く染め、閉店が近くなった頃にその女性は来た。


「すみません。まだお時間大丈夫ですか?」


「あ、はい。四時半閉店なので、あまり時間がありませんがどうぞ。もうじき暗くなりますから時間には気を付けてください」


一瞬、銀髪か?と思ったが違うようだ。銀と言うより灰色だな。

腰まであるその長い髪は、首元から左右に分けて結ばれており、髪の先には宝石のような小ぶりで丸い玉がリボンで付けられていた。


背180cmは無さそうだが、175cmの俺より少し高い。20代前半くらいに見える。

髪より少し薄い灰色のパッチリとした瞳で俺を見て、桜色の唇には友好的で柔和な笑みを浮かべている。


民族衣装?と言うのがパッと見た印象だった。

黒い生地の一枚布に、青や桃色で幾何学的なタッチの沢山の刺繍が施されている。

腰には太い青色の布が巻かれていて、ベルトの役目をしているようだ。

首から下げた革紐のネックレスには、沢山の青い石が付いている。


この辺りでは見ない服装だったが、日本人の感覚では民族衣装だ。


「私の顔に何か付いてますか?」


そんな俺の視線に気付いたようで、女性は微笑んだまま自分の顔を指差した。


「あ、いえ、すみません。その、この辺りでは見ない服装だなと思って」


ジロジロと失礼だったなと思い頭を下げると、その女性は、なるほど、と言って自分の服に目を落とした。


「確かにそうですね。この国の人は私とは全く服装が違ってました。浮いてますか?」


「あ、いやいや!全然そんな事ないですよ!素敵な服だと思います」


特に気にしているというわけではなさそうな感じだが、ついフォローをしてしまうのは、やはりサービス業をしているがゆえの職業病かもしれない。

しかし、実際に色使いが綺麗というのは俺の正直な感想だ。正直な気持ちが伝わったのか、女性はまた明るく笑って、ありがとう、と言ってくれた。


「これ、ロンズデールの水の衣っていう伝統衣装なんです。ロンズデールでは正装なんですよ」


「え?あの、ロンズデールの方なんですか?」


最近よく話しにあがるロンズデールという言葉に、俺はつい前のめりに反応してしまった。

そんな俺に、目の前の女性は笑顔を崩さず、胸の手を当てて自分の名前を口にした。



「初めまして。私はリンジー・ルプレクト。ロンズデールから使者の役を担って来ました」



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