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515 黒幕の名

「・・・えっと・・・」


ヤヨイさんを知ってますよね?

この問いかけに対し、俺は店長さんがすんなり知っていると認めるとは思っていなかった。


店長さんは嘘をつかない。はぐらかす事もしない。そう聞いていた。

言えない事は言えないと答える。

だからおそらく、言えないと答える。そう考えていたのだが、予想に反してあっさりと返事が来た事には驚かされた。


「・・・あぁ、無理に話そうとしなくていい。聞きたい事は聞けたけど、そこから先、何を話せばいいか分からなくなってるんだろ?俺が話すから、それを聞いてくれ。ただし、俺はまだ全てを話す事はできない。だから、これから俺が話す事が今言える全てであり、質問には答えられない。いいかな?」


うまく言葉を続けられない俺に、店長さんは柔らかい口調でそう話すと、俺の隣に座るレイチェルにも目を向けた。レイチェルは黙って頷き了承の意を見せる。


店長さんの隣に座るエリザ様の様子を見た。

部屋に入った時から変わらずに、落ち着いて座っている。


考えてみれば、今回の騒動で打ち合わせをした時も、エリザ様と女王になられたアンリエール様、このお二人だけは店長さんの正体も知っている様子だった。

つまり、これから店長さんが何を話しても、エリザ様はすでに知っている事と言うわけか。



「・・・まず、なぜ俺がヤヨイさんの事を知っているか。アラタ・・・俺は確かに知っている。だが、なぜ俺が知っているかは答えられない・・・・・キミがこの質問をしてきた以上、ある程度の想像は付いているんじゃないかと思う。そこで一つ頼みがあるんだが、その質問は俺にしないでくれ」


テーブルの上で両手を組み合わせ、店長さんは真剣な面持ちで俺の目を見て言葉を発した。


「・・・分かりました。私もアラタもその質問はしないと約束します」


言われた事の意味が理解できても意図が分からず、俺が返事をできずにいると、隣に座っているレイチェルが代わりに返事をしてくれた。


「うん。レイチェル、悪いが頼むよ。時がくれば話すからさ・・・・・こうして世界が動き出した以上、そう遠くないと思う。だけど、まだその時じゃないからね」


どういう意味かは分からなかったが、店長さんの目を見ると何も聞けなくなってしまう。

ここにいるけれど、ここにいないような、こちらを見ているようで、どこか遠くを見ているような・・・とても強い人のはずなのに、儚く脆い人に感じられた。



「・・・アラタ、キミは人間関係で失敗が多かったようだな。でも、今はレイジェスではうまくやれている。レイチェルから色々聞いてるよ。きっとヤヨイさんも喜んでいる・・・いつもキミの幸せを願っていたからね」


「・・・そう言ってもらえると嬉しいです。ヤヨイさんが喜んでくれてたら、俺・・・これからも頑張れますから。レイジェスでは本当に色々教えてもらってます。まだ四ヶ月程度で、全然恩返しもできてないですけど、もっと頑張りますので、これからもよろしくお願いします」


そう言って座ったまま頭を下げると、店長さんから小さな笑い声が聞こえた。


「ハハ、本当に真面目なんだね。頭を下げるのがクセになってるんじゃないのか?別にそんなにかしこまらなくていいんだぞ?俺は店長と言っても、今じゃ店はレイチェルにまかせきりだしな。キミも良い仕事をしているとレイチェルが言っていた。こちらこそよろしく頼むよ・・・さて、そろそろ本題に入ろうか」


落ち着いた声でそう区切ると、店長さんはゆっくりと話し出した。


ヤヨイさんとの思い出を。

ヤヨイさんがこの世界でどう生きて、何を残したか。

時には懐かしそうに目を細めて、そしてとても悲し気だった。


話しを聞いていて、俺はこの人、店長さんは実際にヤヨイさんと共に生きてきたと確信を持った。

この語り口は当事者でしかありえない。

つまり、レイチェルの推測は当たっていたという事になる。

しかし、それについて質問する事はできない。


自分の素性に俺とレイチェルが気付いた事を、当然店長さんも分かっている。

つまり店長さんの事情は、必ずしも誰にも気づかれてはならないものではない。そういう事になる。

けれど質問は受けられないし、いまだに話せない事があるというのは、なんらかの制限があると思った。


店長さんの語るヤヨイさんの話しは、ジャレットさんから聞いた内容とかぶるところも多々あったが、やはり当事者としての目線なのだろう。

同じ内容でも全く違った話しに聞こえ、そしてリアルがあった。

俺はあらためて、この世界でヤヨイさんが生きてきたという事実を感じた。


そして話しはブロートン帝国へと移った。




「・・・先日俺は、カエストゥスの城で闇を消してきた。と言っても完全にではない。カエストゥスにいた闇の化身は倒したが、それで国を覆う闇の瘴気を、ある程度薄められたというくらいだ。やはり、本体を倒さなければ完全に消し去る事はできないのだろうな」


「あの、店長さん、闇の化身って・・・あの偽国王みたいなのですか?」


「あぁ、その通りだ。俺は闇に呑まれた者は総じて闇の化身と呼んでいる。俺がカエストゥスで戦った闇の化身は、王子、あぁ・・・タジーム・ハメイド王子の事だが、その王子の皮を被っていた。だが、皮がとれればそれは、闇の瘴気が人の姿をしているおぞましい姿だったよ。ただ、あれは偽国王とは違い完全に黒渦の一部だった。だから自我は無かったようだが、戦いの中で戦い方を学習していた。長期戦になるとやっかいなタイプだ」


俺が戦った偽国王は、完全に闇を操っており、ハッキリとした意思も持っていた。

その事を告げると、店長さんは分かっている、というように頷いた。


「あぁ、そこまで闇の力を自在に扱えるようになったという事だ。問題は、あのレベルの使い手があと何人いるのか?そしてこれからも増えるだろうという事だ」


「え!?ちょっと待ってください!あんなのがまだいて、もっと増えるんですか!?」


驚きのあまり大声を出す俺を見て、それまで黙っていたエリザ様が言葉を発した。


「アラタさん、驚かれるのも無理はありません。ですが、バリオス様のお話しされた事は、間違いないと思われます。帝国は闇の力を制御しつつあり、そして素質のある者にその闇の力を与えているのです」


確かに偽国王は闇の力を完全に操っていた。

ならば他に同じ事ができる者が増えてもおかしくない。

しかし、たった一人であれだけの驚異を振るったのだ。それが更に何人も出て来て、勝ち目はあるのだろうか?


そして・・・


「エリザ様・・・与えるっていう事は、その闇を制御している黒幕がいるって事ですよね?」


そう問いかける俺の視線を受け、エリザ様は答えを任せるように、店長さんに顔を向けた。


そして店長さんは俺の目を見て、ハッキリと肯定の言葉を口にした。


「その通りだ。黒幕の名はベン・フィング。かつてカエストゥス国で大臣だった男だ」



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