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513 嫌な感じ

レイチェルに続く形で馬車を降りる。


数日ぶりのクインズベリー城は、目の前で見ると、遠目では分からなかった細部までの痛みがよく分かる。

一階はともかく、二階、特に三階が一番酷い。


「あそこが国王の寝室だろ・・・それであそこまで亀裂が入ってるのか・・・」


三階を見上げると、俺が戦った国王の寝室は完全に崩壊しており、そこから伸びる亀裂は二階にも影響を及ぼし、反対側まで広く伸びている。



「見事な壊しっぷりだな?」


レイチェルがまるで労うように、ポンと肩に手を置いて来る。


「え!?いや、だからしかたなかったんだって!戦いの中での事だから!」


「まったく、キミは本当に真面目なヤツだな?冗談に決まってるだろ?ほら、行くぞ」


慌てる俺を呆れたように見て、軽く溜息をつくと、レイチェルはそのままスタスタと歩いて行ってしまった。

門番にはもはや顔を覚えられているようで、レイチェルが、彼がサカキ・アラタだ、と言って俺を紹介すると、俺もすんなり通る事ができた。俺が来る事は話しが通っていたようだ。


「しかしすごいな、レイチェルは顔パスか?」


「まぁ、頻繁に出入りしてるからね。それに、私だけじゃなくて、あの門番はキミの事も知っていたぞ。通る時、見た事あるなって顔してただろ?」


「・・・そう言えば、なんか俺の顔見て、あぁ~って感じで頷いてたな」


なるほど、俺を知ってたと聞けば、あの反応も分かる。


「キミはマルコスにも勝ったし、今回の件でもそれなりに人目についたんだよ。顔はともかく、城の人間でキミの名前を知らない者はいないだろうね」


「・・・あんまり嬉しくはないな。マルゴンの件で、俺いまだにお客さんにジロジロ見られるしさ、これ以上有名になるのは勘弁だよ」


苦笑いをする俺を見て、レイチェルはフッと笑うと背中を叩いて来た。


「そんな事気にしてたら、これから先やっていけないぞ?私の勘では、キミはもっと有名になる。諦めるんだな」


嫌そうな顔をする俺を尻目に、レイチェルは正門を開けて中に入って行く。

その後を追うように俺も城内に入った。





レイチェルに続いて城内を歩いて行く。

外からは分からなかったが、一階の広間もかなりひどい有様だった。

床はひび割れ、壁には風通しがいい大穴がいくつも空いている。瓦礫は撤去されているが、この状態では復旧はまだまだ時間がかかりそうだ。

兵士や使用人達がせわしなく動いているのを見ると、自分も何か手伝った方がいいのではという気持ちになる。


「アラタさん!レイチェル!」


行き交う人達を目で追っていると、聞き覚えのある声が頭の上からかけられた。


見上げると、エリザ様が二階から手を振っていた。

胸の辺りまである長い内巻きの金色の髪、宝石のような碧い瞳が嬉しそうにこちらを見つめている。

偽国王と戦った時は町娘のような服装をしていたが、今は柔らかい印象の黄色のドレスを着ている。


「エリザ様、お久しぶりです。ドレスとても似合ってますね」


小走りで階段を下りて来るエリザ様に挨拶をすると、エリザ様はにこやかに笑った。


「ありがとうございます!ふふ、アラタさん、まだお久しぶりという程に時間は経ってませんよ?」


「あ、いやぁ、なんか俺三日も寝てたらしいんです。だからかな、感覚がちょっと・・・」


「はい、昨日レイチェルから聞きました。本当にお目覚めになられて良かったです。その・・・カチュアが看病を?」


「あ、はい。一緒に住んでますから、ずっと看てくれてたようで、本当に助けられてます」


のろけているわけではないが、少し照れてしまう。

頭をかいてそう話すと、エリザ様の表情が一瞬寂しそうに陰った。

けれどすぐにニコリと笑顔を見せてくれた。


「あらあら、アラタさんはカチュアに夢中みたいですね。ご馳走さまです」


「え、いや、か、からかわないでくださいよ」


しどろもどろになると、エリザ様は少し笑ったあとに姿勢を真っすぐにただし、俺に頭を下げた。


「アラタさん、今回の戦いは本当にお世話になりました。ありがとうざいます」


「え、いやいや、エリザ様!そんな俺なんかに頭下げないでくださいよ!」


王女であるエリザ様が、俺みたいなただの平民に頭を下げている。

この状況に俺も慌てて頭を上げてくれと声をかけるが、それでもエリザ様は頭を下げたまま言葉を続けた。


「今、私達が生きていられるのは、レイジェスの皆さんを始め、国を想う沢山の仲間の力があったからです。そしてアラタさんは、私を何度も護ってくださいました。心から感謝しております。本当にありがとうございました」


「・・・エリザ様・・・はい。俺もお役に立てて良かったです」


エリザ様の気持ちが伝わってきて、俺も温かい気持ちで言葉を返した。


「ふふ・・・アラタさん、やっとお礼が言えました。お元気になられて本当に良かったです」


やっと顔をあげてくれたエリザ様は、とても可愛らしい笑顔を見せてくれた。






「復旧はまだまだ時間がかかります。町から職人を集めて、すでに作業に取り掛かってもらっていますが、これだけの被害ですから・・・数か月もあればある程度は形になるでしょうが、完全に補修が終わるまでには年単位でかかると思います」


エリザ様も同行されると言われ、俺とレイチェルは説明を受けながらエリザ様の後に続く形で城内を進んだ。


「エリザ、嫌な事を聞くがトレバーの件は話せているのか?」


レイチェルが口にした名前に、エリザ様は足を止めた。


トレバー・ベナビデス。騎士団の団長でゴールド騎士だったその男は、エリザ様の婚約者候補だった男だ。

そして闇に呑まれ、俺が止めをさした。


「・・・それが、ベナビデス公爵家とはまだ話せていません。トレバーが闇に呑まれ、私達が倒した事は手紙にしたため、使いを出しました。公爵家も手紙は受け取っております。しかし、手紙の返事はまだです。事が事ですので、早急に話しをしなければならないのですが・・・」


エリザ様は表情を曇らせ、そこで言葉を止めた。

どう話せばいいか言葉を探しているようにも見える。


「ベナビデス公爵はトレバーを非常に可愛がっていたそうだね。素行不良には目を瞑り、トレバーの望むままに望む物を与え続けて来た。子供がねだるままに菓子を与え続けるように・・・エリザが懸念しているのは、ベナビデス公爵が手紙をどう受け取ったか・・・・・可愛い息子が無残にも王家の者に殺された・・・そう受け取っている可能性がある」


「はぁ!?な、なんだよそれ!?そんなバカな事・・・」


あまりに荒唐無稽な話しに、思わず俺は大声を出していた。

王妃様、いや、今は女王陛下となられたアンリエール様をさらい、闇となってこの国に牙を剥いたあの男がまるで被害者のようになっていたからだ。


「落ち着けアラタ。キミの言いたい事は分かる。ベナビデス公爵はね、貴族としては実に優秀なんだよ。財政も安定しているし、領民も大切にしている。素晴らしい人物なんだ。けどね、息子を溺愛している事でも有名なんだよ・・・今言ったように、どれだけ素行が悪かろうがまるでお咎め無しらしい。だから、すぐに返事をよこさないという事は・・・嫌な感じだね・・・」


話したい事を全て話してくれた。


エリザ様はレイチェルの顔を見て、はい、と小さく言葉にした。



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