491 王子の迷い
どういう事だ・・・?
やはり母様の言っていた事は、正しかったという事なのか?
本当に父様は偽者だと?
いや、そんなはずはない!
確かにおかしな政策をあげる事はあるが、どこからどう見ても父様にしか見えない。
偽者だなんてあるはずがない!
だが・・・この闇は・・・
第一王子、マルス・アレクサンダーは、母アンリエールから国王が偽者であるという話しは聞かされていた。
良い言い方をすれば真っすぐ、しかし思い込みの強い性格ゆえに、父親が偽者だという言葉に耳を貸そうとはしなかった。
「父様!早く母様とエリザを離してください!」
マルス・アレクサンダーは混乱していた。
目の前の現実だけを見れば、父親が邪悪な存在だという事は明白であり、もしこれが父ではなく他の誰かであれば、即座に敵だとみなし攻撃を仕掛けていただろう。
しかし、マルスは受け入れられなかった。
母親から聞かされていた事実を、この目で確かめる事になっても受け入れられなかった。
いや、受け入れたくなかった。信じたくなかった。
だが、それでも母親と妹が闇に掴まっている。
そこから目を逸らす事はできなかった。
「・・・マルス、これは必要な事なんだ。お前も音は聞こえていただろう?アンリエールもエリザベートも城に攻め立てこの騒ぎをおこした。ならば罰が必要だろう?」
「と、父様・・・」
なんでもない。当然の事を口にしているだけ。さも当たり前のようにそう話す国王に、マルスも言葉に詰まってしまったが、それでも声をあげた。
「ですが!これでは母様とエリザが死んでしまいます!そもそも、この黒い瘴気はなんなのです!?体力型の父様がこんな魔法を使えるのですか!?」
「・・・・・フッ・・・ハハハハハ・・・・ハーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」
突然おかしくてたまらないという様子で、大声で笑い出した国王に、マルスはたじろぎ一歩後ろに下がった。
「な、なにがおかしいのです・・・」
「お前は本当に馬鹿だなぁ!マァルゥスゥゥゥゥゥゥーーーッツ!」
座ったまま、顔を後ろに向けただけの姿勢だが、国王の一喝にマルスは気圧された。
その場から動く事ができず、体は完全に硬直した。
一瞬で汗が吹き出し、シャツを湿らせていく。
「マルス!貴様も次期国王ならば身内にも厳しくあらねばならん!罪を犯したから罰だ!国の秩序を乱したからこうなるのだ!ならば貴様がする事はなんだ!?俺へ解放を求めるのではなく、貴様がその剣でこやつらを裁くのだ!」
マルコの心臓が大きく高鳴った。
両手で強く握り締める剣に目を落とす。
国王の言葉の意味は理解できる。だが頭で理解できても、心が拒絶した。
母と妹を裁く?この私が?
「どうしたマルス?第一王子たるお前が、次期国王なのは分かっているだろう?ならば決断力を見せてみろ!俺を失望させるな!さぁやれ!やるんだマルス!」
なぜ・・・なぜこんな事に!?
どうして私は剣をもっている!?
昨夜、母様に、今日1日だけ城から離れているように言われた。
治安部隊のカリウスに話しは通してあるから、そこに行けと。
相変わらず父様が偽者だと言い、それに反発した私は、母様の言葉を聞き流した。
弟で第二王子のオスカーは少し考えた後、私と一緒にいる事を選んだ。
明け方、父様が私達の元を訪れた。
夜が明ける前、まだ暗い時だった。
自分の寝室の奥にいるように言われ、私達はそれに従った。
なにかが崩れるような大きな音がいくつも鳴り、城が何度も揺れた。
父様は母様が錯乱し謀反を起こしたと言っていたが、あの母様に限ってそんな事があるのか?
エリザがそれに乗せられたというが、あの妹に限ってそんな事があるのか?
だが、父様は厳格で自分にも厳しく、民を思いやる心を持った国王だ。
その父様が嘘をつくはずがない。
でも、それなら今私の目の前のこの光景はなんだ?私は何を信じてどう動けばいい?
私は・・・私は・・・・・
「マ・・・ルス・・・に、げ、なさ・・い・・・」
極限の緊張状態で、声すら発する事ができずにいたマルスに、ふいに聞こえたその声は、今まで力なくうなだれていた母アンリエールの声。
弱々しく震えながら、青白い顔でマルスに目を向けている。
「か、母・・・様・・・」
「ほぅ、アンリエールよ、まだ意識があったか?だが、残念だったな。マルスは俺を信じているようだぞ。昔から、父の言う事には逆らえん子供だったからなぁ」
嘲笑し自分に顔を向ける国王に、アンリエールの表情が険しくなり、国王を睨みつけた。
「こ、の・・・偽者が!わたしの、息子・・・を、馬鹿にするなぁーっ!」
いつの間にか右手に握られていた小瓶を、アンリエールは国王に向かって投げつけた。
それは真実の花から作られた薬だった。
「おっと・・・」
しかし、力を振り絞って投げた小瓶は、国王の目の前で難無く闇の触手にからめとられてしまう。
「だめだなぁ~アンリエール、夫であり国王の俺にこんな物を投げつけては・・・どれ、やはりお前はこのまま処刑するとしよ・・・」
その時、国王の視界の端に移ったのは、自分の頭上で腕を振りかぶるエリザベートだった。
エリザベートもまた闇に胴体を絞められていたが、腕は自由だった。
なんだ!?
エリザベートは何をしようとしている?
・・・あれは、もしや!?
「お前なんか父様じゃない!偽者だーーーっつ!」
エリザベートが投げつけた物、それはアンリエールが持っていた物と同じ小瓶だった。
つまり、真実の花の薬である。
「なっ!?」
アンリエールが持っていた物と同じだ!
まさか真実の花の薬か!?
なぜだ!?まさか二つ作ったと言うのか!?ばかな!今、真実の花は全く採れないんだぞ!
一本見つかれば幸運と言える程の真実の花を、まさか二本見つけたというのか!?
くそ!想定外だ!だが、まだ間に合う!この距離ならば、ギリギリ受け止められる!
貴重な真実の花の薬を二つも用意した事は褒めてやろう!
だが、激情にかられて安易に投げつけるところがまだまだ子供よ!
これも闇の触手で受け止めて終わりだ!
国王の体から伸びた闇の触手が小瓶を掴もうとしたその時、突如風切り音が鳴り、一本の大剣が国王の頭上で小瓶を打ち砕いた。
割れた小瓶の中の液体を、頭から全身に浴びた国王は、一瞬の間を空けて絶叫した。
「ウッ・・・・・ガァァァァァァァァァーーーーーッツ!」
壁に突き刺さった大剣を見て、エリザベートは剣が飛んで来た方向、寝室の出入り口に顔を向けた。
耳の下くらいまでのダークブラウンの髪、瞳の色も髪の色と同じダークブラウンのその女性は、狙い通りにビンを割った事に、ニヤリとした表情を見せていた。
「・・・リ、リーザ!」
「エリザ様、素晴らしい啖呵でした」




