表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
488/1555

488 王女の決断

誤字を見つけたので訂正しました。内容に変更はありません。

よし!このまま一気に決める!


トレバーを殴り飛ばしたアラタは、拳に残るその感触に確かな手ごたえを感じた。


闇の波動を弾き飛ばした時も、アラタには自信があった。

自分の光の拳なら、この闇に対抗できる・・・いや、打ち勝つ事ができる!


そしてその自信は今の一撃で確信へと変わった。


殴り飛ばされたトレバーを追いかけるように、アラタは着地するなり、もう一度強く地面を蹴って飛んだ。


自分の光の拳はトレバーの闇を上回っている。

それは確かだった。


しかし、アラタには一つだけ懸念があった。


それは時間である。

おそらく3分・・・3分を過ぎても光の力を使い続ければ、マルコスと戦った時と同様に、戦闘の後、自分は指の一本も動かす事ができなくなるだろう。


この戦いに挑むにあたって、アラタはレイジェスのみんなと約束をしていた。

3分という限られた時間で、偽国王を倒す。

そのために力を温存してここまで来た。


しかし今、このトレバーと戦えるのは自分しかいない。

ならばできるだけ早く、トレバーを倒さなければならない。

ここで時間を使い切るわけにはいかない。


「うぉぉぉぉぉぉぉーッツ!」


殴り飛ばしたトレバーに追いつくと、アラタは光輝く左の拳をトレバーの右脇腹にめり込ませた。


「ぐはぁッツ!」


トレバーの顔が苦痛に歪み、うめき声が漏れる。


「シッ!」


腹への一撃でトレバーの体が前に折れると、間髪入れずにアラタの右のショートアッパーがその顎を撃ち抜いた。


光の拳が当たった箇所は、まるでその体を散らすかのように、闇の瘴気が霧散していく。


「オォォォォォッツ!」


連打!アラタは左右の拳をトレバーの体に撃ち込んでいく。

胸に腹に、止まらないアラタの光の拳を、トレバーは防御すらできないまま棒立ちでくらい続ける。


「ラァッツ!」


左フックがトレバーの右の頬を撃ち抜いた。首がねじ切れるのではと思える程、頭を激しく左に振られ、ダメ押しとばかりに右アッパーで顎を撃ち上げる。


足が浮く程の威力。

身体中から闇の瘴気を撒き散らし、トレバーは力なくその背中を地に付けた。


「・・・ふぅ・・・」


軽く息を付いて、アラタは両手の光を消した。

ボクサーであるアラタの体感では、ここまででおよそ10秒。

残り2分50秒が、光の力を使える活動限界である。


偽国王の力がどれほどのものか測りかねる今、これ以上時間を使う訳にはいかなかった。


倒れるトレバーを見下ろすと、もはやとても戦える状態には思えなかった。

10秒とはいえ、闇の天敵とも言える光の拳で滅多打ちにされたのだ。そのダメージは甚大である。


さっきまで体から溢れていた闇の瘴気も急速に勢いを衰えさせ、体が一回り縮んだかのようにも見える。


だが、まだ生きている。


僅かに残っていた顔の右半分の人の皮も、今の攻撃ではぎ取られ、もはや全身が闇に染まっていたが、不思議と目や口、輪郭は残っていて表情が分かる。


そこから読み取れる情報で、もう虫の息という事は察せられたが、すでにトレバーは人ではない。

人間であればこのまま放置しても害はないだろう。

だが、相手は人ではなく闇なのだ。


「・・・エリザ様、どうしますか?このまま放っておいても、回復してまた襲われる危険はあります。多分あと一発叩きこめば殺せるでしょう・・・」


トレバーという名前を聞いて、アラタは思い出した。

この男がエリザベートとの婚約者になる予定だった男だと。

エリザベートはこの男を嫌がっていた。婚約も断るという事で話していたし、それは確実だ。


だが、さっき大穴を調べた時、エリザベートが見せた悲し気な表情。

この闇の主は知っている人だと思う。そう口にしたエリザベートは、おそらくトレバーと考えていたのではないだろうか。



婚約はしないにしても、少なからずの情はあったのではないだろうか?

このトレバーという男と言葉を交わし、接してきた時間に、楽しかった事の一つも無かったわけではないのだろう。


そう思いいたったアラタは、酷かもしれないがエリザベートに生殺与奪の判断をゆだねた。


アラタは誰かの命を奪った経験はない。

例え闇だとしても、トレバーは元は人間である。姿形も人のものである以上、ここでトレバーの命を奪えば、殺人という意識は間違いなくアラタに残るだろう。


数か月前まで日本人として生きていたアラタには、重いものだった。



「・・・アラタさん」


エリザベートの表情には、あきらかな迷いが見て取れた。

エリザベートは、もしアラタが問答無用でトレバーに止めを刺していれば、責める事はしなかった。

しかたがない。これは戦いなのだと自分に言い聞かせ、それで終わりにしていたであろう。


だが、自分の一言でトレバーの生死が決まる。

この責任に、エリザベートは迷った。

ズルイ考えかもしれない。しかし、当然と言えば当然の考えとも言える。


「エリザ様、この男がエリザ様の婚約者になったかもしれない男なんですよね?だから、俺は自分の判断だけで止めはさせません。でも、覚悟は決めました。この世界でいきていく以上、こういう事もしなければいけない。協会でマルコスと戦って、一度は死んで・・・分かったつもりです。だから、エリザ様の判断を聞かせてください。俺も・・・俺も一緒に背負いますから」



エリザベートの迷いを察し、アラタは自分の考えを口にした。

それはここでトレバーを殺すべきと、そう言っていると同然の言葉だった。


ここで、エリザベートが並の王女であれば、逃げていたかもしれない。

口をつぐんで黙っていれば、そのうちアラタが意図を読んで行動してくれる。

そういう考えもできた。


だが、エリザベートは王女として決断した。


「アラタさん・・・闇である以上、ここで絶たねばなりません。トレバーに止めをお願いします」



一つ呼吸をついて、そう発したエリザベートの目は、確かな意思、決断した覚悟が見えた。


その眼差しを受け止めて、アラタは黙って頷いた。


そして右の拳に光を宿すと、倒れているトレバーの胸にその拳を叩きこんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ