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485 決戦の舞台へ

「二人とも、立って・・・まだ終わってない」


床に拳を叩きつけ、悔しさをぶつけているレイマートとレミューの前に、ローザが立った。

二人にかける言葉には、たった今アンリエールをさらわれた事への動揺や、その身を案じるような感情は全く見えず、淡々としたものだった。


「ローザ、キミは心配じゃないのか?」


「心配よ。けれど、まだ大丈夫・・・間に合うわ」


そう言ってローザはレミューの顔の前に、人の形に切られた少し厚地の白い紙を見せる。

その紙には、一本の金色の長い髪が結ばれていた。


「これは私の魔道具、身代わりの紙。そしてこれはアンリエール様の髪、どういう魔道具か想像つくでしょ?」


ローザの説明に、レイマートが口を開いた。


「つまり、王妃様の身になにか起きても、その紙が身代わりになってくれるという事か?」


「その通り。だから、この紙になにもない間は、アンリエール様は無事。程度にもよるけど、なにかあっても数回は紙が身代わりになってくれるから、今はまだ大丈夫よ」


ローザの言葉を聞いて、レイマートとレミューは顔を見合わせゆっくりと立ち上がった。

トレバーの闇に締め上げられた痺れも、いくから取れてきていた。


「ローザ、お前はいいのか?魔力が底をついたと感じたが」


レイマートの問いかけに、ローザはローブの中から透明な小瓶を取り出して見せた。


「魔力回復促進薬を飲んでおいたわ。レイジェスのだから効果は一級品よ。結界を2~3回使える程度には回復したわ」


「そうか、すまんがあてにさせてもらうぞ。あの闇の波動はとても受けきれない。レミュー、お前が体力を一番残している。斬り込みはまかせていいか?」


「あぁ、もちろんだ。俺が道を作る。レオンクローはまだ使えるか?」


レミューの問いに、レイマートは少しだけ間を空けて答えた。


「・・・残り全ての闘気をかき集めても、最初の一撃と同じ威力は出せないな。せいぜい7割というところだ。だが、最初の手応えから考えれば、それでもダメージを与える事は可能だろう。なんとかしてみせるさ。だがもし、俺が届かなかった時は・・・」


そこで言葉を区切り、レイマートはレミューの目を真っ直ぐに見た。


「・・・あぁ、俺がトレバーを討つ」


レミューの言葉に、レイマートは黙って頷くと、再びローザに向き直った。


「行くぞ」


短く切ったレイマートの言葉に、ローザもまた黙って頷いた。


レイマート、レミュー、ローザの三人が、二階へと続く階段に駆け上がろうとしたその時、後ろから彼らを呼び止める声に、三人は振り返った。



「お三方、我らもお供させてください」


それは、トレバーが連れていたブロンズとシルバーの騎士達だった。

たった今まで、彼らは自分達では到底抗う事のできない戦いを前にして、ただ巻き添えをくわないように、ただ後ろに下がっている事しかできずにいた。


トレバーの変貌は彼らに恐怖を与えた。

騎士達の中には、心を折られ立ち上がる事さえできない者もいた。

だが、最後にアンリエールが見せた王妃としての威厳、そしてレイマートとレミューを想う慈愛の心に打たれ、騎士達は立ち上がったのだ。


「我々でもお三方の弾避けにはなれると思います。どうか王妃様を助けるために、我らにも同行の許可を」


「・・・変わるもんだな。いいだろう。だが、弾除けにするつもりはない。先頭はレミュー、続いて俺とローザだ。お前達は後ろを警戒しながらついて来い」


レイマートの指示に従い、総勢53名の騎士達が同行し二階への階段を駆け上がって行った。



目指すは三階、偽国王の寝室。

そこで待ち構えているであろう、闇に呑まれたトレバー・ベナビデスとの決戦。


レイマート、レミュー、ローザはアンリエールの身を案じるように、疲労で重い体も厭わずに足を急がせた。





「あまい!」


二階の玉座の間の前では、リーザ・アコスタが自身の背丈程もある大剣を振るい、黄金の鎧を身にまとった騎士の一人を弾き飛ばした。


「このぉぉぉッツ!卑しい身分の女がぁぁぁッツ!」


もう一人、黄金の鎧を身に着けている男が、リーザの背後から剣を振りかぶり、その頭を斬りつけようと迫りくるが、リーザは体を反転させ、その回る勢いのまま右手に持った大剣を横一文字に振るい、男の腹に叩きつけた。


「ごっはぁッツ!」


勢いよく弾かれ、その背を床に強打し弾かれ、数メートルは後方に飛ばされる。


「へぇ、見せかけじゃなくて、意外と頑丈な鎧じゃないか?胴体を真っ二つにしてやろうと思ったのにね」


すでに意識を失っているのか、胴を打たれた騎士はピクリとも動かない。

黄金の鎧の胴周りは砕け散っていたが、鎧の下の肉体は多少の出血は見られるが繋がっている。


リーザは、もう一人の黄金の鎧を着た男へと顔を向けた。

右手に握る大剣の切れ味でも確認するかのように、片手で軽々と回し背負うように肩に乗せると、一歩一歩足を動かし距離を詰めていく。


「く、来るな!お、俺はオコリー伯爵家だぞ!お前みたいな女が俺に指一本でも触れる事は、重罪なんだ!分かって・・・」


鋭い風切り音とともに、オコリーの頭の髪がハラハラと目の前に落ちて来る。


「うるさいよ。ちょっと黙りな。次、許可なく喚いたら、今度は髪じゃなくて耳を落とす」


目の前に剣先を突き付けられた事で、オコリーは戦意を一気に喪失した。

青ざめた顔で黙って頷くオコリーの様子を見て、リーザは言葉を続けた。


「よし、じゃあ質問だ。あんたら二人、一応ゴールド騎士だね?アルベルトとフェリックスはどうした?」


その問いかけに、オコリーは眉を潜め不愉快そうな表情を見せるが、リーザの大剣が鼻先をつつき、すぐに口を開いた。


「あ、あの二人はシルバーとブロンズを100人程引きつれて、一階に降りて行った。さっき、ここからは離れてるが、大きな爆発音が何度も聞こえただろ?あの二人が相手をする程の連中か知らねぇが、騎士団とやり合ってんのは間違いねぇよ」


オコリーの返答に、リーザは概ね納得したように軽く頷いた。


「じゃあ次の質問だ。あんたら二人、まるで私がここにいるのを知ってたようにかかってきたけど、なんで私達の動きが分かった?」


「し、知らねぇよ!俺達はトレバー様の指示通りに動いただけだ。王妃様の護衛の一人がここにいるから捉えろって。それだけだ、他の事は何も知らねぇよ」


リーザはオコリーの目をじっと見つめた。

それは目の動きから言葉の真意を確かめるためだった。


オコリーもまたリーザから目が離せなかったが、それは単純に恐怖からである。



「・・・うん、なるほど、信じよう。どうやらあんたら二人は、ただの使い走りってだけみたいだ。これ以上私達の邪魔をしないと約束するのなら、見逃してやるが・・・どうする?」


リーザがその大剣を下げると、オコリーは一切の迷いを見せずに何度も頷いた。


「もちろんだ!さっきあんたに弾かれて、剣はもうヒビが入ってるし、戦闘力の差くらいは分かるつもりだ。もう俺は降りる。命あってこそだからな」


仮にもゴールドの位を与えられた騎士の、清々しい程に迷いの無い降伏宣言に、リーザは少しだけ苦笑いをした。



まぁいいか、こいつは本当にもう戦意が無いようだ。

私は早くアンリエール様と合流しなければならない。


「偽国王が諸悪の根源なのだろうが、トレバーも深いところで関わってそうだ」


こそこそとリーザから離れ、一階へと階段を下りて行くオコリーだったが、リーザはもはや歯牙にもかけず一瞥すると、三階へと続く階段を見上げた。


「・・・アンリエール様、遅れてしまいましたが、今参ります」


後ろで今だ目を覚まさず倒れているもう一人のゴールド騎士は捨て置き、リーザは三階を目指して駆けだした。


二階の玉座の間の前で、ゴールド騎士二人と戦っていたリーザは知る由もなかったが、この時、王妃アンリエールは一階へ追い詰められ、レミュー達がトレバーと戦っていた時だった。



三階へと急ぐリーザ。


偽国王の元へ向かう、アラタとエリザベート。


連れて行かれたアンリエールの救出に向かう、レミュー、レイマート、ローザ。



偽国王との決戦の舞台に戦士達が集う。



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