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481 黒い瘴気

「おのれレイマァァァァァトォォォォォーーーッツ!」


レミューに続き反旗を翻したレイマートに、トレバーは怒りを爆発させた。


今、トレバーの目の前ではブロンズもシルバーも、レイマートの前に次々と無力化させられていた。

一斉に斬りかかろうが、かすり傷一つ負わせることができず、剣の柄で頭や腹を打ち付けられ、一撃で倒されていく。


そして騎士達のおよそ半数は戸惑っていた。

レイマートは実力も確かだが、上官であろうと媚びない性格に、騎士団内で大きな人望があった。

そのためこの急な反旗に剣を向ける事ができなかったのだ。



「おのれ・・・おのれ・・・おのれ・・・おのれレイマート!このゴールド騎士で公爵家のトレーバ・ベナビデスに剣を向けた愚行!後悔させてくれるわ!」


激情したトレバーは腰から剣を抜いた。

見た目にこだわったその剣は、柄は金と宝石で彩られ、刀身も陽の光を浴びて、その透き通るような輝きを見せていた。


「よぉトレバー様、もうあんたしか、やる気があるヤツはいないようですよ」


向って来る騎士達を全て打ち倒したレイマートは、トレバーに状況を説明するように周囲を見回した。


立っている騎士達は複雑な表情を見せているが、レイマートの行動理由に理解を示しているのか、剣を向けてはいるが敵意は見えなかった。


「降参した方がいいと思いますよ。俺に勝てるとは思ってないでしょ?」


レイマートは剣の先をトレバーに向けて、降伏を促した。


しかしプライドの高いトレバーに対してのその行為は、トレバーの自尊心をひどく刺激した。


「なめるな!レイマートォォォーーーッ!」


怒りの声を上げて、トレバーは剣を振り上げ斬りかかった。


頭から真っ二つにしてやろうと、全力で剣を振り下ろしたが、レイマートは眉一つ動かさず、右手に持っている剣を薙ぎ払うように、トレバーの剣に合わせて振るった。


鉄の割れる渇いた音と共に、トレバーの剣は真っ二つになり、空中での回転を終える床に突き刺さる。



「やっぱ、こんなもんですよね」


「うぐぅッ!」


他の騎士達を制した時と同様に、レイマートは剣の柄をトレバーの腹部に打ち込んだ。

プレートメイルを装備しているが、レイマートの打撃は腹部の装甲を破壊して、トレバーの腹にめり込んでいた。


膝から崩れ落ち、胃の中の物を吐き散らすトレバーを見下ろすレイマート。

もはや誰もレイマートに剣を向けてはいない。勝敗の決した瞬間であった。




「レイマート」


「あぁ、王妃様、ご覧の通りですよ。あとはお任せします。斬れと言うなら斬りますが、拘束だけでもしますか?」


後ろからかけられた声に、レイマートは振り返った。


そこにはアンリエールが一人で立っていた。

護衛のローザは、治療が終わってもまだ意識が戻らないレミューについて、後ろの壁際に立っている。


「・・・それと、まぁこの状況ですから大丈夫でしょうけど、護衛から離れるの不用心ですよ」


数メートルではあるが、ローザとアンリエールの距離に目を向けて苦言を口にすると、アンリエールはレイマートに顔を向けて微笑んだ。


「レイマート、此度の協力に感謝します。それでは、あなたがこのまま護ってくださいませんか?」


「・・・分かりました。では、そのように」


予想していなかったアンリエールの護衛の要請に、レイマートは少しだけ驚いた様子を見せたが、アンリエールが前に出ると、レイマートはその一歩後ろに付いた。



「トレバー、あなたは今の国王が偽者だと言っても信じないでしょう?ですが、すぐに私が証明してみせます。ですからそれまで大人しくしていてください」


腹を押さえてうずくまっているトレバーを見下ろしそう告げると、アンリエールはレイマートに目配せで指示を出した。


レイマートは軽く頷くと、トレバーの後ろに周り、トレバーの体を無理やり起こし、その両手を後ろに回して、手首に当てれば自然に締まる魔道具の縄で拘束した。


「ぐっ・・・うぅ、お、王妃様でも、へ、陛下に対して、に、偽者だなんて、言っていいはずが、ない!不敬だ!不敬罪で打ち首だ!」


歯を食いしばりながら、敵意剥きだしでアンリエールを睨みつけるトレバーに、レイマートは強く手首を捻り上げた。


「ぐあぁぁッツ!レ、レイマート!」


「トレバー様、ちょっと黙りましょうか?あんまりうるさいと折りますよ」


背中越しにレイマートに脅しをかけられたトレバーは、あまりの屈辱に血が滲む程に歯を食いしばった。





ふざけるな・・・・・

俺はゴールド騎士で公爵家のトレバー・ベナビデスだぞ

エリザベートを娶り、国政への影響力を高め、陰からこの国を牛耳る男だ

それがなぜここで、こんな屈辱を味合わなければならない



おのれ・・・・・

おのれレイマート・・・おのれアンリエール・・・・・

おのれ・・・おのれ・・・おのれ・・・おのれ・・・おのれ・・・おのれ・・・おのれ・・・

おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ

おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ

おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ

おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ

おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ

おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ

おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ

おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ




おのれぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーッツ!



喉が張り裂けんばかりの怒声を上げ、トレバーの体から黒い、まるでその心根を表すかのようなドス黒い煙が噴出された。



「こ、これは!?」

「なんだ!?王妃様、俺から離れないでください!」


突如トレバーの体から噴き出した黒い煙にアンリエールがたじろぐと、すぐにレイマートが前に立ちカバーに入った。




「・・・はぁぁぁぁぁ~・・・頭の中がスッキリして、最高の気分だ・・・そうか、これでいいのか・・・」




黒い瘴気を体中から発しているその姿は、人の形をした違う何かだった

元々好戦的な性格だったが、今のトレバーからは全く違う種類の凄みがあった。


トレバーはゆっくりと立ち上がると、後ろでに縛られていたはずの両手をごく自然な動きで前に持って来た。その右手には縛られていた縄が握られている。


「なに?・・・どうやって抜けた?」


レイマートの剣を握る手に力が入る。


シルバー騎士として序列一位のレイマートは、その経験から瞬時に考えを切り替え、目の前のトレバーが自分の知っているトレバーとは別人だと認識した。


得体の知れないプレッシャーが黒い瘴気と共にレイマートにあてられる。

まるで体が蝕まれるような感覚に、寒気すら感じる。



「・・・人間、辞めたようですね。だったら、俺も全力でいかせてもらう!」



気力を漲らせ体から発した闘気は、レイマートの体にまとわりついた黒い瘴気をかき消した。


「レ、レイマート・・・これは・・・」


すぐ後ろから聞こえるアンリエールの声には、目にした事もない恐ろしいなにか、トレバーの変貌に対しての動揺と不安が入り混じっていた。


「王妃様、下がっていてください。こいつはもうトレバーじゃない・・・俺が斬ります!」


「ん~、とても良い気分だ・・・生まれ変わった気分だよ・・・今まで俺は何を抑え込んでいたんだろうなぁ・・・我慢せずに開放すればよかったんだ・・・この欲望を全て・・・もう父には隠居してもらおう・・・エリザベートを妻にするのに許可もいらん・・・この力があれば誰も俺には逆らえん・・・だが、その前にやる事がある」



黒い瘴気をより強く発し、トレバーはレイマートに顔を向けた。

これまでの感情をすぐに表に出していた時とはまるで違う、静かだが狂気と殺意に満ちた目だった。



「レイマート・・・裏切り者の貴様に死だ」


「人間を辞めたあんたに言われたくないね・・・この世から消してやるよ!」



迫りくる黒い瘴気を突き破って、レイマートは地をかけた。




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