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474 因縁

「セイッツ!ハァッツ!」


アルベルトの突きは躱せたが、次に来た左足の蹴りを腹に受けてしまう。

勢いよく後方に蹴り飛ばされ、背中を床にしたたかに打ち付ける。

胃から込み上げてくるものがあるが、私は耐えて体を起こし、追撃を許さないようにアルベルトにナイフを向けた。



「その体でよくここまで耐えるものだ。左腕だけとはいえ、俺のグラビティソードで重い負荷を受けているんだ、受け身すらとれないだろう?」


「はぁっ、はぁっ・・・ふん、どうって事ないさ。まだ戦いは終わってないよ」


「・・・そうだな、お前はなにをしてくるか分からん女だ。油断せず、きっちり仕留めててやろう」


アルベルトは目を細めると、私に剣を向けて構えた。


瞬間的に理解した。あの歩方での一撃が来ると・・・


・・・そして頭がそう理解した瞬間、アルベルトの剣先が私の喉元に突き刺さろうとしていた。









「悔しいなぁ・・・私の方が速いのに、一発も当てられないなんて」


夏は陽が長い。レイジェスの閉店後、私は店長に店裏の空き地で稽古を付けてもらっていた。


組手をしたが、結果は私の完敗。

私はなにもできずに投げ飛ばされ、こうして地面に倒されている。


私の戦い方は全て店長から学んだものだ。

17歳になり、身体も出来てきて、力も速さも伸びている実感がある。

ハッキリ言って、今は店で一番強い自信もある。


けれど店長との組み手では、いまだに一発も当てられた事がないのだ。


「レイチェル、力と速さだけじゃ戦いには勝てないよ」


「心技体ですよね?リカルドも言ってましたよ。店長、私には心が足りないんですか?」


「ごめんごめん、言い方が悪かったかな。そうじゃないんだ。レイチェルは戦い方が偏ってるんだよ。レイチェルはその速さを頼りにした、剛の技がほとんどだね。その戦い方はレイチェルに合っている、基本はそれでいいと思う。けれど、それだけで通用しない相手がいたらどうするか?それを考えた戦い方も覚えた方が、キミの可能性をもっと増やせると思うよ」



大の字に寝ている私の横に腰を下ろし、店長は小さく笑って私の頭をポンポンと撫でた。


子ども扱いしないでくださいと言って、頭を撫でる店長の手を掴んで離す。

私の頭を撫でるなんて、ミゼルやジャレットでもやらない。店長だけだ。


「・・・つまり、柔の技も覚えろって事ですね?確かに店長、私の攻撃を受け流してたし、動きもなんだか軽かったですよね」


店長は私の攻撃を受け止める事は一切しない。躱すか受け流すかだ。

そしてその動きの中で、私の足を払ったり、腕を掴んで投げ飛ばしたりするのだ。

体力型の私にこれができる時点でおかしい。

本当に魔法使いですか?と、何度聞いた事だろう。



「柔の技はもう教えているよ。俺との組手の中でね。それを生かす戦い方を見つけてごらん。大丈夫、レイチェルならきっとできるよ。レイチェルならだれにも負けない。いつか俺の事だって超えていけるさ」



夏の夕暮れ。

赤い日差しが私と店長を照らす。


そう言って店長は、私の頭をまたポンポンと撫でた。








剣先が私の首に触れた瞬間、私の体は、前に出ようとするアルベルトの剣の動きに合わせて、体ごと首を捻った。


「なにぃッツ!?」

完全に私の首を指し貫いたと確信していたアルベルトから、驚愕の声がもれる。


体を回転させた勢いをそのまま右の拳に乗せて、私の裏拳がアルベルトの顔面を打ち抜いた。

鼻を砕く感触が拳に伝わってくる。

赤く粘着性のある流動体を鼻から飛び散らせ、アルベルトの体が後方に倒れる。



本当なら、ここで攻めたてるんだけどな・・・・・

膝こそ付かなかったけど、私の体は左腕の重さに傾いて真っすぐに構える事ができない。

これほどバランスを崩した状態では、とても追撃なんてできない。


右手のナイフを順手に持ち構え、私は倒れているアルベルトを見据える。


「・・・起きてるんだろ?さっさと立ちなよ」


私の言葉に答えるように、仰向けに倒れていたアルベルトがゆっくりと上半身を起こした。



「・・・ここまで、やるとはな・・・首に触れた剣を受け流すなど聞いた事がない。さすがはバリオスの弟子というところか・・・」


「・・・へぇ、あんた店長を知ってるんだ?そう、私の技は全て店長から学んだものさ」


アルベルトは膝に手を添えて腰を起こすと、片手剣を私に向けて構えた。


「フッ、あの男は目立つからな。街のリサイクルショップの経営者が、王妃様に会いに来るのだぞ?しかも一度や二度じゃない。お前もそうだ、何度か王妃様にお呼ばれして城に来ていただろう?どういう関係かは知らんが、城に居れば自然と耳に入って来る」


「なるほど・・・言われてみれば確かにそうだね。でも、それだけじゃないでしょ?なんで私が店長の弟子だって知ってるの?さすがバリオスなんて言うからには、店長の実力も知ってるんでしょ?」


アルベルトは立ち上がると、鼻を押すように親指を当て、残っている鼻血を床に向かって吹き出した。


「知っているさ・・・俺は一度負けたからな。自分に勝った男の事を調べるくらいはするだろ?」


「え!?」


思いもよらないアルベルトの言葉に、レイチェルは目を開いた。


「あんた、店長と戦った事あるの?」


「・・・ふっ、バリオスにとっては、戦ったという程の認識ではないだろうがな。何年も前の事だ。王妃様に何度も会いに来るあの男が気になってな、最初は少し話しを聞くだけのつもりだったが、あの男を目の前にして感じたんだ・・・圧倒的な魔力、そして魔法使いとは思えない鍛え抜かれた体・・・剣は抜かなかったが、俺はその場で仕掛けた。自分がこの男を押さえる事ができるか試したくてな」


そこでアルベルトは言葉を切ると、苦い記憶を思い出したのか顔をしかめた。


「・・・一瞬だった。背後に周り腕を取ろうとしたが、気が付くと俺が後ろ手に組み伏せられていた。俺は全力ではなかったが、実力差を知るには十分だった・・・」


レイチェルは言葉を挟まなかった。

アルベルトは僅かな時間目を閉じる。胸中には複雑な思いがあるのだろう。


「・・・あの日から俺は鍛練に鍛練を重ねたが、いまだバリオスとの差を埋められたとは思っていない。だが、レイチェル・エリオット。バリオスが最も信頼を寄せるお前を倒せたならば、俺はもう一度バリオスの前に立てるだろう!」


全身から放たれる闘気が増し、アルベルトの片手剣、グラビティソードがその刀身を黒く染めていく。


「正真正銘の全力だ・・・いくぞ」


「・・・来な」



互いに射抜くような鋭い視線を交差させる。


両者の間の張り詰めた空気は、ビリビリと肌に突きささる。


戦いの衝撃によるものか、闘気のぶつけ合いによるものか、それは分からない。


だが、手すりの一部が、パキッと渇いた音を立てて割れると、それを合図にアルベルトは構えたままの姿勢で、瞬き程の一瞬でレイチェルに距離を詰めた。



鋭い風切り音と共に、アルベルトの片手剣がレイチェルの首を狙い斬り放たれる。



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