447 南西の塔
「・・・ねぇ、ミゼル。なんかこの塔さ、変じゃない?」
アタシとミゼルが南西の塔に入って、もう何分経っただろう。
塔の作り非常に複雑で、いくつもの階段が、上に、斜めに、右へ左へと、まるで迷路のように入り組んでいた。
最上階には、この塔を護る四勇士、エステバン・クアルトがいる。
しかし、そこにたどり着くまでに、このままではいったいいつになるのか分からない。
「そうだな・・・もう五分は経つか?俺達は上に行く階段を選んでいるけど、一向に上がっている感じがしないな」
ミゼルもアタシと同意見のようだ。
そう、アタシ達はとにかく上に行く階段だけを選んで進んでいるけれど、いつまでたっても最上階が近づかないのだ。
どう考えても自然ではない。
「・・・ケイト、青魔法のストーンワークで最上階まで道は造れるか?」
「ん~・・・ここじゃ無理だね。この階段も石だから素材は問題ないけど、ストーンワークは落ちている鉱物を使うからさ。完成している階段を分解して組み換えるとか、そういうのはできないんだ。他に使えそうな鉱物は無いし、ちょっとできないかな」
アタシの説明にミゼルは、なるほど、と頷くと、何かを考える様に辺りを見回した。
「・・・ミゼル、まかせていい?アタシちょっと休むわ」
「・・・・・」
返事がないけれど、ミゼルの表情を見れば分かる。
この空間の異様さと、その打開策を考え始めたんだ。
アタシは推理は苦手だ。なんでもシンプルなのがいい。
この状況に焦りはあるけれど、先に進めないのなら、戦闘に備えてアタシは体を休めておこうと決めた。
それに、こういうときのミゼルは結構頼りになるんだ。
「・・・ケイト、分かったぞ。幻覚だ」
しばらく壁や床を触ったり叩いたりしていたかと思うと、ミゼルは迷いの無い声で結論を告げてきた。
「幻覚?これ全部?」
座っていた階段から腰を上げて、アタシはミゼルの隣に立った。
この広い塔の中、どこもかしこも階段しか見えない。頭が痛くなりそうな光景だけど、これが幻覚だと言うのか?
「幻覚は視覚を惑わせるものだ。目を閉じて気持ちを落ち着けて、壁や階段を触ってみれば分かるぞ」
ミゼルに言われるまま、アタシは目を閉じて、一度深呼吸をしてから壁を触ってみた。
・・・何もおかしなところはない。冷たい石の壁・・・あれ?
アタシの反応を見たのか、ミゼルが声をかけてきた。
「分かったろ?今ケイトが触ったところは、おそらく本来の階段がある場所なんだ。今俺達はこの塔の中で、何も無い平坦な場所で足踏みしてるだけなんだよ」
「うそ・・・」
アタシは目を閉じたまま、さっきまで座っていた階段に腰を下ろそうとした。
すると、階段があった場所で重心を合わせる事ができず、バランスを崩し転んでしまったのだ。
「うわっ!・・・いてて・・・マジ?」
ミゼルが差し出す手を掴み、お尻をさすりながら体を起こす。
「さっきは座れたのに・・・なんで?」
「ケイトの頭が、もうこれは幻覚だって認めたからだよ。気が付いた人間には幻覚は通用しないからな。ほら・・・周りを見てみろよ」
ミゼルに促され周りに目を向けると、さっきまでごちゃごちゃしていた階段が、まるで最初から無かったかのように消えていて、塔の壁伝いに、最上階まで続く石造りの螺旋階段が現れた。
「・・・これがこの塔の本当の姿って事?」
「あぁ、俺達はここでぐるぐる回りながら足踏みしてたって事だな」
一杯食わされたというように、ミゼルが軽く息を吐く。
「・・・ふ~ん、ここに入った瞬間、アタシ達は幻覚をかけられていたって事だよね?」
「そうだな。おそらく魔道具によるものだろう、設置型かもしれん。例えば、塔の中に足を踏み入れた者に発動するとかな。この塔の四勇士は白魔法使いって話しだが、面倒なタイプかもしれないな」
顎を撫で、自分の考えを確認するように、ミゼルは一言一言ゆっくりと口にした。
「・・・そっかぁ、ミゼルがそう言うんなら、きっとそうだと思うよ。あんた、こういう時鋭いから」
アタシは帽子の鍔を指で弾いて、数十メートル離れている最上階を見上げた。
「小癪なヤツだってのは分かった。アタシの嫌いなタイプだね・・・行くよ、ミゼル」
アタシはそれだけ言うと、ミゼルの返事を待たずに螺旋階段を上り始めた。
「・・・幻覚で遊ばれて火が付いたようだな。負けん気はリカルドと並んでレイジェス一だからな」
本当は、男の俺が前に出て引っ張っていくべきなんだろうけど、うちは女が強いからなぁ・・・
俺は前を行くケイトの背中を目で追う。
今更だが、年下の女にリードされる自分に、つい苦笑いが浮かんだ。
「・・・まっ、本当に今更だな。男だとか女だとか、見合った力がありゃどうでもいい事だ。ケイトが本気になってんだから、俺はサポートに回るか。その方が俺向きだしな・・・」
「・・・ミゼル、いつまでボケっとしてんの?さっさと来なよ」
俺を見下ろせるくらい階段を上ったところで、ケイトはいつまで追いかけて来ない俺に、上から声をかけて来た。
「あぁ、悪い悪い、今行く」
足を止めて待っているケイトに追いつこうと、俺は足早に階段を上がって行った。




