443 同格と認めて
「うん、ずいぶん使いこなせてきたね。カチュアは魔力操作のセンスがある」
「いえ、店長の教え方が上手なんです。私なんてまだまだです。魔力だってユーリの方が高いですし」
魔風の羽をもらって一か月。店長は仕事上がりや休日に、時間を見つけては私に指導をしてくれた。
最初はそよ風程度しか起こせなかったけれど、いまではそれなりに強い風を起こせる。
だから、練習は周りに人がいないか注意してやらなければならない。
店の隣の空き家の裏は、めったに人が来ないし広いから、自然とそこで練習するようになった。
「確かに魔力はユーリの方が高いかな。でも、魔力操作はカチュアの方が上手かもしれないよ。難しい魔道具を使う事なんかは、カチュアの方が上手くできるだろうね。この魔風の羽みたいに。カチュアはもっと自分に自信を持っていいんだよ」
「店長・・・はい、私頑張ります!」
店長の言葉には、いつも温かさと優しさがある。
私が元気よく返事をすると、店長はニコリと笑って手の平を前に出した。
青く輝く結界が店長と私を隔てるように現れる。
「うん。それじゃあ次だ。今日こそ俺の結界を、魔風の羽で破ってみようか」
「・・・はい、でも本当にできるでしょうか?私、まだ一度も破れてません」
今日まで、何度挑戦しても一度も店長の結界を破ることはできなかった。
それに店長の使った結界は、普通の結界だ。天衣結界ではない。
「カチュア、今言ったばかりじゃないか?自信を持つんだ。いいかい、いつも通り魔風の羽を投げつける。結界に刺さってからが難しいところだ。遠隔操作になるから、かなり細かい魔力操作が要求されるけど、やるごとに良くなっている。カチュアならできる。自分を信じるんだ」
自信の無い言葉を口にする私に、店長は励ましの言葉をかけてくれる。
本当に優しい人だ。
店長を信じて着いていけば、なんでもできる。そんな気持ちにさせてくれる。
「・・・分かりました。今日こそ店長の結界を解いてみせます!」
「その羽か・・・どういう仕組みか分からねぇが、白い羽が青くなったって事は、俺の結界を吸収したって事だな?」
フィゲロアは左肩を押さえながら立ち上がると、怒りに満ちた目を私に向けて来た。
「そうです。魔風の羽は刺したものから魔力を吸収して、それを無効化することができます。あなたの結界に刺し、魔力を吸い上げた事で結界を破りました」
私の答えに、フィゲロアは納得したように頷き、床に落ちている青く染まった羽に目を落とした。
「なるほどなぁ・・・風も起こせるし便利な魔道具だ。でもよ、結界を破るためにはこうして投げるんだろ?それでその後は床に落ちるわけだ。敵に拾われる事は考えないのか?俺の足元だぞ?」
フィゲロアは私を小馬鹿にするように鼻で笑った後、腰を曲げて魔風の羽に手を伸ばした。
その瞬間、羽はまるで意思を持っているかのように、フィゲロアの手を搔い潜り、私の手元に吸い寄せられるように戻って来た。
「・・・拾われる事への対策は、もちろんできてますよ。私と魔力で繋がってるんです。だから遠隔操作で引き戻す事もできるんです」
手にした羽をヒラヒラと見せつけ笑顔でそう説明すると、フィゲロアは私に向かって赤い石の付いた杖を突きつけた。
「・・・舐めやがって、燃え尽きろ」
「だから、舐めてんのはてめぇだろ?」
フィゲロアが杖から炎を発するより早く、リカルド君の放った矢がフィゲロアの頭を直撃した。
「・・・ちっ、おいカチュア、こっからが本番みてぇだぞ」
「う、うん・・・」
リカルド君の鉄の矢は、確かにフィゲロアの頭に届いた。けれど、いつの間にかフィゲロアは結界を身に纏っていて、矢を通す事を許さなかった。
矢が音を立てて床に落ちる。
そしてフィゲロアの雰囲気が明らかに変わった。
「・・・反省しよう。俺はお前達を舐めていた。俺は栄えある四勇士で、お前達は国賊だ。この炎の杖を一振りすれば片付けられる。そう思い疑わなかった。だが、現実は俺が手玉に取られている」
フィゲロアは力任せに左肩から矢を引っこ抜く。傷口から血が飛び散り、床に赤い模様を作る。
「ここからは・・・お前達は俺と同格と見て、全力で叩き潰させてもらおう」
一言口にするごとに、フィゲロアから発せられる魔力が強さを増していく。
そしてその圧力は、まるで体が削られるようなビリビリとした痛みを感じさせていた。
「カチュア、あの野郎の結界は同じ個所に四射で突破できた。でも、今のこの魔力だと、四射じゃたりねぇと思う。だからカチュアの風にも期待してる。二人で力を合わせて突破すんぞ?野郎は結界を身に纏ったまま、あの杖で攻撃してくんだろうから、俺達は避けながらの反撃だ。自分の身は自分で護れんな?」
「うん、大丈夫!この羽があれば私だって戦えるよ」
私は前を見たままリカルド君に言葉を返した。
「・・・へっ、なんか強くなったよな。よし、来るぞ!気合入れてけよ!」
私がハッキリと言葉を返すと、リカルド君はなんだか楽しそうに笑った。
アラタ君、私は絶対に負けないよ。
絶対に勝って帰るから・・・だから信じて待ってて!
「ぐ・・・うあぁぁぁぁーッツ!」
私はずっと前を見ていた。
リカルド君も、私と話してる間だって前を見ていて、フィゲロアから視線は外さなかったはず・・・
でも、フィゲロアが私達に杖の先を向けたと思った次の瞬間、突然リカルド君の左肩が燃え上がり、リカルド君は声を上げて床を転げ回った。
何をされたの?何も見えなかった・・・・・
「ふははははは!どうした?俺もお前に左肩を抉られたが、そんな悲鳴は上げなかったぞ?」
笑っているけれど、背筋まで凍り付かせるような冷たい目を向けるフィゲロアの杖の先からは、今しがた炎を発したと思われる細く長い煙が出ていた。




