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441 心技体

ライース・フィゲロアは青魔法使い。攻撃手段は魔道具による物しかない。

目に見える物で、魔道具と考えられる物は第一に杖であり、その可能性は濃厚だった。


リカルドはフィゲロアと話しながら、冷静に敵の戦力を分析していった。

体力型であるリカルドには、魔力を詳細に測る事はできないが、それでも目の前の男が発する魔力量が尋常ではない事は一目で分かった。


それほどまでに、この四勇士ライース・フィゲロアの魔力は桁外れだった。


余裕からか、フィゲロアは魔力を見せても攻撃はしかけてこない。

おそらく先手は譲るつもりなのだ。そしてリカルドに攻撃をさせた上で、自分には何も通用しない事を見せつけた上で叩きのめす。


これがフィゲロアの考えている事だろう。


「・・・・・舐めやがって!」


そこまでフィゲロアの考えを読むと、リカルドは噛み合わせた歯をギリリと鳴らし、視線だけで殺せそうな程強い殺気を込めてフィゲロアを睨みつけた。


「おぉ~、怖い怖い、すごい目をするじゃないか?でも睨んでるだけじゃ俺は殺せないぞ?こないのか?」


フィゲロアが挑発するように杖を向けて鼻で笑うと、リカルドは一呼吸のうちに矢筒から鉄の矢を抜き取り、構え、放った。


その一連の動きは洗練されたものだった。


矢を取り、弓を引き、矢を放つ。


それら三つの動きが、一つとしてまとまった流れになっており、一歩後ろでリカルドを見ていたカチュアには、美しさすら感じる程の一射だった。








「ジョルジュ・ワーリントンの事が知りたいって?」


「おう、店長よぉ、前に俺が目標はジョルジュ・ワーリントンって言った時、知ってる感じだったじゃねぇか?教えてくれよ」


弓がやりたくて覚えたわけではない。体力型だった親父が弓使いで、息子の俺も体力型だったから、それで小さい頃から親父に教えてもらっただけだ。俺が弓をやってるきっかけなんてそんなもんだ。


だけど、鳥を落とせた時は気持ちが良い。

でっけぇ鹿を一本で仕留めた時なんて、思わず拳を握っちまう。


なんだかんだで俺は弓が好きだ。

だからこそ、ジョルジュ・ワーリントンは無視できねぇ。


歴史上の人物で、ほとんど記録も残ってねぇけど、親父も弓使いとしてジョルジュの事は調べていたらしい。


100メートル以上離れた敵の頭を討ち抜いたとか、ブロートンの黒魔法使い数百人だか、千人だかを相手に一人で戦って勝ったとか、信じられねぇ話しばかりだった。


100メートルなんて俺には無理だ。そもそも標的が見えねぇ、豆粒みたいなもんだろ?

数百人を一人でってのも無理だ。それだけの矢はどっから出すんだ?


正直俺は話しが盛られてると思っていた。

ジョルジュ・ワーリントンは実在したんだろうし、強かったのは確かなんだろうけど、面白おかしく盛られてんだろうと。


だけど、店長は全てを肯定した。

ジョルジュは100メートル以上から敵の頭を討ち抜いたし、数百人とも千人とも言える黒魔法使いを相手に一人で勝った。


「リカルド、信じ難いのは分かるが、その話しは全て事実だ。ジョルジュはそれをやってのける程に強かったんだ。風の精霊の力を借りてはいたが、精霊抜きでも常人離れした実力者だったぞ」


まるで知り合いの事を話すような口ぶりは気になったけど、それがかえって真実味を持って聞こえた。

それに店長は嘘はつかねぇからな。


「店長、はっきり言ってくれ・・・今の俺とジョルジュ、力の差はどのくらいだ?」


店長は少し口ごもった。それで俺は悟った。つまり俺にとって望ましくない答えだ。


「・・・遠慮しねぇでいいって。はっきり言ってもらった方がよ、やる気になるって事もあるんだぜ?」



「・・・ジョルジュが風を使わなかったとしても、リカルドはジョルジュに遠く及ばない。戦えばリカルドは何もできずに負けるだろう。そのくらいの差がある。ジョルジュは史上最強の弓使いとまで呼ばれた男だ。それは今の時代でも変わらない」



ショックはあった。俺より上と言われるとは思っていたが、まさか何もできるに負けるとまで言われるとは思わなかった。

そこまで差があるのか?ジョルジュ・ワーリントンとは、そこまでの使い手なのか?


史上最強の弓使い・・・・・面白れぇじゃねぇか・・・・・



「リカルド、聞いてくれ。ジョルジュは天性の才能もあっただろうが、努力をしたんだ。それこそ、周りが驚く程の努力をだ。そして心も鍛えていた。毎日毎日精霊の森で祈りを捧げてな。心技体、全て鍛えた男だった。俺の今の評価は言った通りだが、リカルドに可能性が無いとは言わない。

それは、リカルドも鍛えているからだ。だけどリカルドは、体と技は鍛えても、心はどうだ?心は鍛えていないんじゃないか?」


「心・・・?なんだよそれ?いや、分からねぇわけじゃねぇけど、あれだろ?落ち着いて撃てとかだろ?そんなんほとんど性格の問題じゃねぇの?撃つ前に深呼吸でもすりゃいい事なんじゃねぇの?」


俺の反論に店長は首を横に振り、少しだけ笑った。


「はは・・・深呼吸も大事だけどね。いいかい、リカルド。心を鍛えると言うのは、自分自身を見つめ直し、自然の声も聞くと言う事だよ。ジョルジュは風を感じていたらしい。風の声に耳を傾ければ、精霊の力を抜きにしても。どこに撃てばいいか見えたそうだ。リカルドにもできるんじゃないかな?」



心を鍛える・・・か。









速い・・・!この一射だけで分かる、この男、相当鍛錬を積んでいるな。


「・・・だが、ただの矢でこの俺をなんとかできると思ったか!?」


いかに速かろうが、青魔法使いに正面から矢を放っても無意味!


左手を前に出し、結界を張り巡らせる。青く輝く障壁があっけなく矢を弾く。


「ふんっ、考え無しだな。こんな矢が通用するわけ・・・なに!?」


一瞬何が起きているのか分からなかった・・・


矢は弾いたはずなのに、弾いた直後、目の前に再び矢が撃ち込まれて弾かれる。

そして弾かれた直後、三度矢が結界を叩き、そして四度目・・・・・



「・・・ば、馬鹿な・・・」


「四発か・・・ちょっと面倒くせぇな」


全く同じ個所に四度矢を撃ちつけられた結界は砕け散り、俺の足元に鉄の矢が転がった。



「き、貴様・・・いったい何者だ?」


「あ?偽国王から聞いてんじゃねぇのか?ただのリサイクルショップの店員だよ」





あれから二年、ジョルジュの真似だが、俺も毎日クインズベリーの土の精霊に祈りを捧げている。


正直、未だに祈りってのがなんなのかよく分からねぇ。

でも、ようは感謝しろって事だろ?


最初の数か月は本当に適当だった。

今日も美味い飯が食えてありがとうって感じで祈ってた。


でも一年過ぎたくらいから、なんとなく分かってきた。


俺の、この矢だって樹を使っているんだ。


難しい事は分からねぇけど、つまりそういう事だろ?自分が使っている物は大地の恵みってヤツだ。


なんとなくだが、心を鍛えるって意味が分かってきた気がする。

店長には感謝しねぇとな。





「おい、覚悟しろよ?今日の俺は調子良いぜ」


突き刺すように矢尻を向けると、フィゲロアは舌打ちをして苛立ちを見せた。



「・・・ちっ、いいだろう。このライース・フィゲロアと戦う資格はあると認めてやる」


自分の身長程もある、長い杖に魔力を込める。

杖の先の赤く透明な石が魔力で輝くと、フィゲロアは床に打ち付けた。




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