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440 北東の塔

「カチュア、へばんの早くね?」


「はぁ・・・はぁ・・・リカルド君・・・はぁ・・・走るの、早いんだもん・・・」


塔の階段を半分くらい駆け上がったところで、カチュアが息切れしてる。

しかたないから俺達は座って休む事にした。


石造りで頑丈に造られているこの塔は、螺旋階段になっている。

そしてそれが最上階まで続いているようだ。


カチュアは自分にヒールをかけて、呼吸が整うのを待っている。


「魔法使いだから体力ねぇってのは知ってるけどよ、それでもカチュアは特に無いよな?なんで?」


俺はカチュアの一段上に座りながら、指差して聞いてみる。


「え?体力が無い理由?そんなの私も知らないよ。魔法使いだからとしか言えないよ」


困ったように眉を寄せるカチュアに、俺は鼻を鳴らした。


「ま、実際そうだよな。個人差ってヤツじゃね?そんな気にすんなよ!」


「え~、リカルド君から言ってきたのに、なにそれ?」


カチュアが少し怒ったように言うけど、俺は気にしない。疑問も解決したし、それでいいじゃねぇか。



「うっし!そろそろいいか?さっさとぶっ飛ばして、さっさと戻ろうぜ。兄ちゃんが心配のし過ぎで心臓止まっちまうからな」


ささっと立ち上がる俺につられて、カチュアも急いで腰を上げる。

呼吸も落ち着いているし、バッチリ回復したようだ。


「リカルド君、もう少しゆっくり走って欲しいな」


「あ~?んだよ、めんどくせぇな」


不満をそのまま言葉にすると、カチュアが両手を合わせて、お願いとアピールしてくる。


・・・へいへい、分かったよ。


俺は駆け上がるのを止めて、カチュアのペースに合わせて歩いて階段を上がる事にした。


「あれ?・・・ふふ、リカルド君、ありがとう」


「あ?んだよ?いきなり。ほら、さっさとしろよ」


後ろから急に礼を言ってくるのはやめてほしい。なんだか背中が痒くなる。







「・・・おう、着いたようだぜ」


一目で分かる厚く堅い鉄の扉。この中に四勇士の一人がいるわけだ。


部屋に入る前に俺は装備を見直した。


鉄の胸当て、革の手袋、肘から手首までの鉄の腕当て。

膝から足首までの鉄の脛当て、腰に下げた矢筒には鉄の矢がぎっしり入っている。

弓の弦の張り具合もバッチリだ。以上全て問題無し。


「リカルド君って戦いの準備は本当にマメだよね?」


「ん?そりゃそうだろ。死にたくねぇからな。準備に手を抜くヤツは馬鹿だぜ」


カチュアが不思議そうに聞いてくるが、俺からすれば何当たり前の事を?だ。


「あはは、うん。リカルド君の言う通りだよ。私もね、しっかり準備してきたんだよ。傷薬に、魔力回復促進薬も飲んだし、魔道具だって・・・ちゃんと持ってきたよ」


魔道具の事を口にした時、カチュアはやっぱり表情が少し曇った。

カチュアは優しすぎるんだ。戦いなんてできる性格じゃねぇ。

本当は後ろで回復だけしてるべきなんだ。



「・・・まぁよ、できるだけ俺が頑張ってみっからよ、カチュアはソレ使う事ねぇぞ」


しかたねぇな。俺が頑張るしかねぇか。


この国では戦争になれば、子持ちの女とか特別な事情が無い限り、男も女も関係なく駆り出される。

だからカチュアも自分が戦闘に出る事には十分に理解している。


今俺達は偽者を相手にだが、国に対して戦いをしかけている。


カチュアも自分の役割を理解しているからこそ、自分の魔道具を持ってきたんだ。


でも、できれば使いたくはねぇはずだ。

だから俺がやりゃいいんだ。



「・・・ありがとう。でもね、私も戦うよ」


カチュアは後ろにおいて、戦闘は俺だけでやろうと決めた時、思いもよらないカチュアの言葉に俺は耳を疑った。


「あのね、争いは嫌だよ。だから今だって本当はここから逃げ出したいって思ってる。でもね、頑張らなきゃいけないの。ここでリカルド君だけ戦わせて、私だけ安全な場所にいるなんてできないよ。私ね、アラタ君が協会から帰って来て分かったの。なんで店長が私にこの魔道具を作ってくれたのかって。店長は私に勇気を持って欲しかったんだよ。いつか立ち向かわなければならない時がくる。その時のために、私にも戦える道具を用意してくれたの。そして、それは今なんだって分かった」


肩から斜め掛けにしているショルダーバックから、カチュアは一枚の羽を取り出した。

15cm程の大きさで、白く艶のある美しい羽だった。


「リカルド君、私も戦うよ」


「・・・そっか、本気みてぇだな。まぁ、ここまで来たんだし今更だよな。んじゃ行ってみっか」


カチュアが、うん、と頷くのを見て、俺は鉄の扉に手をかけた。




中は外から見た以上の広さに感じた。

天井は高く、5~6メートルはありそうだ。


そして、部屋の端に机と一脚のイスがある以外、なにもない殺風景な部屋だった。





「ほう・・・国王から敵が来ると聞いてはいたが、これはこれは、まさか子供二人とはな」


部屋をグルリと見渡すと、突然数メートル先に一人の男が現れ、俺達を見下すように嘲りを含んだ言葉をかけてきた。



城を護るための青魔法使いと聞いていたが、クインズベリーの国の魔法使いとは、ずいぶん違った服装だった。

大半の魔法使いは、国の定める正当な魔法使いのローブを着る物だが、この男は違っていた。


足首までかかりそうな艶のある黒く長いマント、白いシャツと茶色のベスト。

黒い革のパンツを穿いていた。

首からは金のネックレスを下げており、あまりゴテゴテしてはいないが、身なりの高級感は見て取れた。


そして黒塗りの、自分の身長程もある長い杖を手にしていた。

杖の先には赤く丸い透明感のある石が付いている。



年齢は20代後半に見える。

身長は172~3cm程度だろう。細くもなく太くもない。中肉中背という言葉がピッタリの体格だ。

クセの強そうな茶色い髪を後ろにしばっていて、少しこけた頬と細い目つきが、悪い方に賢そうに見える。



「・・・てめぇが四勇士か?子供だと思ってなめてっと痛い目みるぜ」


・・・こいつ、最初からこの部屋にいたか?


突然目の前に現れた。かすかに感じた違和感、だが動揺を悟られないように俺はできるだけ強気の姿勢を見せた。



「その通り。俺がこの塔を護る四勇士、ライース・フィゲロアだ。お前らはこの国を転覆させようとしている国賊だと聞いている。わざわざ俺が相手をするほどとは思えんが、来てしまったものはしかたない。お前らが挑もうとしている相手が、どれだけ別次元の存在かを教えてやろうじゃないか」



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