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44 感情

この日の取り調べも、やはりいつもと同じ部屋で、いつもと同じ事を聞かれるだけだった。


違っていたのは、フェンテスがいなかった。マルゴンとアンカハス、そして面長で目が少し窪んでいる短髪の男がいた。

見た目は30歳くらいだろう。マルゴン、アンカハスとは対照的に背が高く、190cmくらいはありそうで、一見細身に見えるが筋肉はしっかりと付いていて、引き締まった体をしている。



ノルベルト・ヤファイ。それが男の名だった。

元副隊長補佐で、今はアンカハスと並び副隊長の地位に付いている。


ヴァンの話では、ヤファイはアンカハスのように進んで暴力を行う事はしないが、命令には忠実で、今はマルコスの命令なら何でも聞くのではないかと言っていた。


アンカハスもヤファイも、元は隊を引っ張る仲間として、ヴァンやカリウスさんとも好意的に話をしていたらしい。だが、カリウスさんが負け、ヴァンも負けてしまうと、完全にマルコスの下についたという事だった。

こう話した時のヴァンの声は、ひどく寂し気だった。


隊の統率を守り維持するという観点で見れば、二人の判断は正しいのだろう。上に立つものがいつまでもバラバラでは規律も統率もない。この国のためを考えればこその二人の判断なのだろう。


「俺が敵対して現れれば、アンカハスもヤファイも殺す気で来るだろう。二人だけなら、俺とカリウスでなんとかできると思う。まぁ、俺は今の体調で勝てるかどうかは分からないが、お前をマルコスと戦わせる時間くらいは作ってやるよ」


ヴァンの言葉を思い出し、アンカハスとヤファイに視線を向ける。この二人に加え、フェンテスともう一人、アローヨという男とも、戦わなければならないかもしれない。

5対3になれば、相当厳しい戦いだろう。それにここには隊員だって大勢いる。勝ち目はほとんどないのではないか。だが、俺達の勝利条件を思い出してみる。それは俺がマルゴンに勝つことだ。


どんなに厳しい状況に追い込まれても、最後に大将を取ればいい。それで俺達の勝ちだ。自分の戦いに全てを出す。今一度そう決心を固めた。


「サカキアラタ、フェンテスは優秀ですが、アンカハスのような取り調べはどうも苦手のようでしてね。

それに、なんとなくあなたに甘く見えます。ですので今回はヤファイに来てもらいました。ヤファイ、やりなさい」


マルコスが命令を出すと、ヤファイが大きく振りかぶって拳を振るってきた。

かわす事はできたが、マルゴンの目の前で、自分の力をあまり見せる事はしたくなかった。


俺は縛られた両手で、芯に食らわないようポイントをずらしてパンチを受けた。足で踏ん張る事はしなかったので、体は飛ばされ床に這いつくばった。


やはりこの長身と筋肉だ。パワーはかなりのものだ。ガードした腕がビリビリと痛む。

起き上がろうとする俺の頭を鷲掴みにすると、そのまま床に顔を叩きつけ、力任せに放り投げられた。

俺は壁に背を打ち付け、そのまま崩れ落ちる。


ヤファイは無言で近づいてくる。コイツもフェンテスと同じく無口なようだが、フェンテスとは違う。

与えられた命令に疑問を抱かず遂行する。それが正しいか間違っているかは関係ない。まるでロボットだと思った。


俺は鼻から出る血を拭い、立ち上がった。

ヤファイは俺の目の前で立ち止まり、俺を見下ろし睨みつけている。俺も視線を切らず、ヤファイを見据える。

「お前、言われたまま行動するだけなのか?自分の考えってないのかよ?」

俺の言葉に、ヤファイの目がピクリと動いた。

「お前らは国民を守る治安部隊なんだろ?それが、お前らのしてる事は何だ?ただの暴力じゃねぇか!それでよく国のためだと言えるな!何の疑問もわかねぇのかよ!」


ヤファイの目つきが一気に険しくなり、大きく拳を振り上げた。俺も感情的になっていたので、腕を縛られたままだが、やってやると構えた時、いつの間にかマルゴンがヤファイの隣に立っていて、ヤファイの胸に手を当て動きを抑えていた。


「サカキアラタ、なかなか言いますねぇ?ここに来て初めてじゃないですか?あなたがこれほど熱い感情を見せるなんて、やはりあなたは・・・フフッ、今日はこのくらいにしておきましょう」


マルゴンに制止され、ヤファイは振り下ろしどころを失った拳を、忌々しそうに下ろし俺を睨みつける。

「サカキアラタと言ったな?俺はマルコス隊長の考えに賛同しているだけだ。国のためなら疑わしいヤツは容赦なく処分する。それが全てだ」


それだけ言うと、ヤファイはマルゴンと共に部屋を出て行った。

マルゴンは何を言おうとしたんだ・・・


俺はアンカハスに連れられて独房に戻った。牢に入れられ鍵をかけられると、隣の牢からヴァンが声をかけてきた。


「アンカハス、お前がここに来るなんて初めてじゃねぇか?元気にしてるかよ?」

「ヴァン、お前はずいぶんと落ちぶれたな?お前のそんな姿、見たくなかったよ」


ヴァンが軽い調子で声をかけたが、アンカハスの目は明らかにヴァンを見下しており、突き放した言葉だった。だが、ヴァンはそんな悪意ある言葉は聞き流しているのか、声のトーンも変えずに言葉を続ける。


「まぁ、負けちまったからな。反逆罪ってのは納得してないが、自分に立てついた俺が許せないんだろう?俺も今の心無い治安部隊は好きじゃねぇ。マルコスの下で国民を締め上げるくらいなら、喜んで落ちぶれてやるよ。アンカハス、お前は本当に今のままでいいのか?」


ヴァンの言葉に、一瞬だがアンカハスの視線が揺れ、動揺が見えた。

「・・・当たり前だ。犯罪率は9割も下がり、街は平和そのものだ。これでいいんだよ」


そう言い残すと、アンカハスは振り返る事なく独房を出て行った。


「・・・嘘つけよ」

アンカハスの姿が見えなくなると、ヴァンは小さく呟いた。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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