438 カエル飛び
「・・・ここで放てる全力だが、あのレベルの結界では防ぐ事はできん。死んだな」
男の方はなかなかの使い手だった。
3メートル級とはいえ、私の灼炎竜を防ぐどころか掻き消した事には驚かされた。
そして二度までも私の雷を防いだ。
王宮の魔法使い達と比べても、頭一つ抜けている魔力だ。
そして自称白魔法使いの女だ。
私の右腕をへし折ったあの攻撃力、もし顔か腹にでも受ければ戦闘不能だっただろう。
多少冷や汗をかかせられたが、少し本気を出せばあっけないものだ。
「・・・さて、戦闘は終わりだ。サリー、ヒールを頼めるか?」
残りは青魔法の男一人、だが頼みの魔道具も通用しないところを見せた以上、もう戦うすべはあるまい。
大人しく引き下がるならば見逃してもいい。だが、向かってくるならば・・・・・
後ろに待機していたサリーに体を向けると、サリーは私の言葉など聞こえていないかのように、目を見開きただ前だけを見ていた。
「サリー?」
ただならぬ様子に、眉を潜めもう一度声をかけると、サリーはゆっくりと右手を出して、私の後ろを指差した。
「・・・バルデス様、まだです。まだ、終わっておりません」
その言葉と同時に、背後から発せられる魔力を感じ、私は後ろを振り返った。
「強くなりたい?」
「うん、私が小さいからって、いつも馬鹿にされる。もう頭にきた」
私は13歳の時にレイジェスで働きだした。
レイジェスを選んだ理由は、なんとなくだ。リサイクルショップに興味があったわけではない。
食堂でも服屋でも花屋でもなんでもよかった。強いて言えば家から近かったからだ。
「ミゼルかな?まぁ、馬鹿にしてるって程ではないと思うが、少しからかいが過ぎたか?」
「うん、一発殴ってやりたい。でも私は魔法使いだから力は弱い。店長ならなんとかできない?」
店長はサラリとした金色の髪を搔き上げて、少しだけ困ったように、でもどこか楽しそうに笑った。
「・・・うん、なんとかできると思うよ。魔力を筋力に変換する魔道具を作ればいい」
「え、本当!?」
言ってみるものだ。
店長ならもしかしてと思ったけど、まさか本当にできるとは思わなかった。
驚く私に、店長は優しく微笑んでくれた。
「反作用の糸って魔道具があってね、白の魔力を、黒や青の魔力に変換して使われていたんだ。
その仕組みを応用すれば、多分作れると思うよ。まぁ、俺も初めて作るから絶対とは言い切れないけどね」
そう言った店長は、一週間後にアタシの求めた魔道具を作り上げてくれた。
振り返った私の目に映ったのは、血まみれの青い髪の男を抱きかかえる女の姿だった。
必死に男の名を口にし、ヒールをかけているところを見ると、どうやら男が身を挺して女をかばったようだ。
確かに女の方は、多少ローブが焼け焦げたくらいで、外傷はほとんど無いように見える。
そして雷の余波で、女の足を固めた氷も溶けてしまったようだ。
結界で防ごうとしたが破られたから、その体を盾にした・・・というところか。
敵ながら見上げた男だ・・・まさか自分の体を盾にしてまで仲間の女を護るとはな。
それにしてもこの女、本当に白魔法使いだったのか。
そして高い魔力を持っているようだ。男の傷がみるみる塞がっていく。
これならば命は助かるだろう。
だが意識はすぐには戻るまい。つまり男の方はこの戦いには復帰できない。
「・・・女、これで終いだ」
手の平を向け魔力を込める。
女は男にヒールをかけながら、私を睨み付けた。私がもう一度雷を放てば、もはや防ぐすべはない。
目の前に死を突きつけられているのに、この女の目には全くの恐れが見えない。
それどころか、この目は・・・・・
・・・・・この二人、本当に国王の言う通りの国賊なのか?・・・・・
女の真っすぐな目を見て、ふと疑問が頭をよぎった。
塔の中での限られた魔力だったが、それらをことごとく防ぎ、最後にはその身を盾にして仲間をかばった青い髪の男。仲間のためにここまでできる男が、果たして身勝手な理由で国家に牙を剝くだろうか?
そして白魔法使いでありながら、並みの体力型を大きく上回る腕力を持つ女。
言動から性格に問題がある事は分かるが、戦いに信念は感じられる。
それはただ利益だけを求めたものではない。自分の命をかけてでも、やりとげねばならない何かがあるのだろう。
・・・・・国王に感じた小さな違和感。あの時は大して気にも留めなかったが、やはり何かあるのか?
私は何か大きな間違いをしているのでは・・・・・その迷いが私に雷を放つ事を躊躇わせた。
そして私の僅かな逡巡を、女は見逃さなかった。
躊躇った!?
理由は分からない。だけど、バルデスが私に向けた手の平から、魔力を放つ事を躊躇った事は分かった。
そしてこのチャンスを逃す程、私は馬鹿ではない。
私の魔道具、膂力のベルト。
腰に巻いてあるベルトは、店長が作ってくれた魔力を筋力に変換する魔道具。
これに流す魔力が多ければ多い程、私の筋力も強くなる。
でも、だからと言って全魔力を変換するという事はできない。
私の体が耐えられないからだ。
だから今の私に耐えられる限界まで、魔力を筋力に変換する。
私は一歩でバルデスの懐まで入り込んだ。
あまりのスピードに私の姿を見失ったバルデスは、まるで反応ができていない。
一瞬前まで私がいた場所をただ見ているだけだ。
「ヤァァーッツ!」
ようやくバルデスが私に気付き、顔を下に向けようとしたその時、アタシはバルデスの足元までかがんだ体勢から飛び上がり、右アッパーでバルデスの顎を打ち抜いた。
カエル飛びアッパー!アラタ、決まったよ!




