422 備え
10月28日、祝勝会から二日が過ぎていた。
俺はいつもと変わらずに仕事をこなす。
最近では、簡単な買い取りは一人で任せてもらえるようにもなった。
値付けをしてジャレットさんに確認してもらい、OKならそのまま買い取り。
違っている時にはジャレットさんが変わって買い取りをして、その後理由を説明してくれる。
本当に面倒見の良い先輩だと思う。
「アラやん、最近生地の厚い革が売れてきてっからよ、11月からは買い取りも高めでいいぞ。そうだな、これまでの二割増しくらいでいいな。無理やり買う事はねぇけど、なるべくお客にも満足してもらって買い取るようにな」
買い取った品物に値付けをして売り場に並べていると、ジャレットさんが防具コーナーから顔を出して声をかけてきた。
「あ、はい。確かに革の服も胸当ても、最近売れ行きいいですよね」
俺は同意して防具コーナーを見回す。
鉄を使った防具に比べて、革は在庫が半分くらいまで減っていた。
「寒くなってきたからな。治安部隊の連中とかも、アーマーの中に着こんでんだよ。革だけじゃなくて、生地の厚い古着は高めに値段付けていいからな」
「分かりました。来月からですね・・・」
来月から・・・・・
後二日で10月も終わる。王妃様からの連絡はまだ来ない。店長もまだ帰って来ていない。
「・・・このままで、いいんですかね?」
思わず言葉が口をついて出た。
「ん?なんだ?」
ジャレットさんが聞き返してくる。
「・・・その、このままずっと待ってるだけでいいんでしょうか?王妃様からはまだ連絡ないですし、店長さんも戻ってきていない。偽国王と戦うって、戦争ですよね?それなのに・・・こう・・・毎日のんびりしてるって言うか・・・もっとやる事あるんじゃないかって思って・・・」
俺は漠然と抱えていた不安を言葉にして出した。
そうだ。ずっと胸にひっかっかっていた。
俺達は一国を相手にしようとしているんだ。それなのに、こんなに普通に仕事をしていていいのだろうか?王妃様から連絡が無ければ動けないとしても、もっと毎日トレーニングに時間を使った方がいいんじゃないだろうか?
「・・・いいんだよ、これで」
俺が話し終えると、ジャレットさんは防具コーナーから出て来て俺の前に立った。
きちんと目を合わせながら、このままでいいと答えてくれた。
「・・・いいんですか?」
「いいんだよ。まず俺もレイチェルも、みんな戦闘準備はもうできてんだ。店長の教えでな、装備は常に整えているんだ。レイジェスの全員がな。だから、仮に今すぐ来いと言われても問題はない。それに、アラやんの考えている戦争とは、多分ちょっと違うぜ?アラやんはよ、クインズベリー軍全てを相手にするような事を考えてねぇか?」
「あ、はい・・・え?違うんですか?」
ぽかんとした俺の顔が面白かったのか、ジャレットさんは少し笑って続きを口にした。
「あぁ~、やっぱりな。アラやんらしいわ。お前は考えすぎなんだよ。まぁ、エリザ様が直々に来たし、王妃様も関わっているし、偽者とはいえ国王に弓引くわけだからそう考えるのは無理もねぇかもしれないけど、この戦いで街中が戦火に飲み込まれるって事にはならねぇはずだ」
話しの続きを待つように黙って頷く。
ジャレットさんはそんな俺の様子を見て、自分の考えを説明してくれた。
「いいか、俺らは何人だ?店長除いて10人だぞ?10人相手に全軍出すと思うか?それに、自国の街を壊す馬鹿はいねぇよ。できるだけ被害を少なく抑えたいはずだ。偽国王からすりゃ、クインズベリーの被害なんて知った事じゃねぇだろうが、いずれ帝国で吸収するつもりなら、やはり街に被害は出したくねぇだろうな・・・つまりだ」
そこでジャレットさんは言葉を切ると、前に出てグイっと俺に顔を近づけて、指を一本立てた。
押されるように俺が少し身を引くが、ジャレットさんは構わずに結論を口にした。
「決戦はクインズベリー城。相手は騎士団と四勇士だ」




