418 クリスの宿屋で ③
「あ!ユーリお姉ちゃん!皆さんこんばんは!」
クリスさんに通された部屋に入ると、先にテーブル席に着いていたエルちゃんが、弾んだ声を上げて駆け寄ってきた。
やっぱりユーリに一番なついていて、ユーリの体にぶつかるように飛びついた。
「ん、エルお待たせ」
エルちゃんはいつも通り、金色の髪を青のリボンでポニーテールに結んでいる。
金茶色の瞳は嬉しそうにユーリを見ている。
「みなさん、本日は私達までお誘いいただいて、ありがとうございます」
エルちゃんの後ろに立ったご両親が、お礼の言葉を口にしてくる。
二人ともとても雰囲気が柔らかい。両親ともに金色の髪で、エルちゃんはお母さんによく似ている。
レイチェルが前に出て、エルちゃんのご両親に簡単に挨拶をすると、後はそれぞれが勝手に席についた。
日本の掘りごたつのような席だった。
テーブルの下の床が抜けていて、腰を下すと足をそのまま床下にだらりと伸ばす事ができる。
席も革張りのソファになっていて、背もたれはないけれど座り心地が良い。
壁は板張りだけれど黒く塗られていて、なんとなく高そうな樹を使っているように見える。
どうやらこの宿はけっこう高級な宿のようだ。
「それじゃあごゆっくりどうぞ。私は仕事上がったらおじゃましますね」
みんなが席に着いたのを見ると、クリスさんは扉を閉めて仕事へ戻って行った。
「・・・なぁ、兄ちゃんよぉ~、レバニラ炒めとニラレバ炒めってよぉ~、何が違うんだ?」
とりあえす飲み物でも頼もうとメニューを見ていると、俺の右隣りに座ったリカルドが難しい顔をしながら、メニュー表を指でトントンと叩いている。
「ん?レバニラ?・・・どっちも同じなんじゃねぇの?言い方が違うだけで」
てきとうに言ったのが気に入らなかったのか、リカルドは少し強くメニュー表を指で叩き、眉間にシワを寄せて俺を睨んできた。
「兄ちゃんよぉ~、もうちょっと考えて言えよ?なにてきとーに答えてんだよ?どっか違うから名前も違うんじゃねぇのか!?調理方法とかよ?」
「お、おぅ、そりゃ悪かったな。でも俺は目玉焼き程度の料理しかやらないから、そんなの分からねぇぞ?えっと・・・」
リカルドに気圧されて左隣のカチュアに聞こうとすると、ふいに右斜め前、リカルドの正面に座るミゼルさんが口を挟んで来た。
「それってよぉ、レバーを先に炒めて後からニラを入れるからレバニラなんじゃねのか?そんでニラレバはニラを先に入れる」
自分の考えに自信を持っているようだ。右肘をテーブルに着いて、人差し指はリカルド向けている。
「おぉ~!さすがミゼル!物知りじゃねぇか!なるほどだぜ!」
リカルドは納得がいったように左手の平に右拳を打ち、表情を輝かせている。
ミゼルさんも得意気に鼻を鳴らし、どうだ!と言わんばかりに俺にも指を向けてきた。
「待て待て、それってなんか変わんのか?レバーが先かニラが先かでよ?なんか変わんの?」
まとまりかけたその時、俺の正面に座るジャレットさんが、手を前に出して待ったをかける。
「あん?どういう事だよジャレット?」
自分の推理に水を差されたミゼルさんが、不満そうに口を曲げてジャレットさんに顔を向ける。
「だからよ、どっちを先に炒めても結局混ぜんだろ?出来上がりは一緒なんじゃねぇの?」
「あぁ?何言ってんだよ?炒める時間が変わってくんだろ?レバーを先に入れりゃそれだけレバーを長く炒めるだろ?焼き加減が変わってくんだろ?」
「・・・一度取り出すとすれば・・・どうだい?」
ミゼルさんとジャレットさんが睨み合い、少しピリピリした空気が流れた時、緊張状態を破るようにジーンが言葉を発した。
「ジーン・・・どういう事だ?」
俺の左斜め前の席で、目を閉じてグラスの水に口をつけるジーン。
とても落ち着いてリラックスした様子だ。
「・・・なに、言葉通りの意味さ。レバーを先に焼く・・・その後、みんな当たり前のようにニラを投入する事で話しているけど、ニラを入れる前に焼いた肉を取り出すのさ。そしてニラだけ炒めた後に、あらためて焼いたレバーを入れる。こうすればミゼルの主張は意味をなさなくなると思ってね」
「なるほど・・・さすがジーンだ。そんな考え思いもつかなかったぜ」
ジーンの隣に座るジャレットさんが、感心したように頷く。
リカルドも、おぉ~!と声を上げている。
「くっ・・・」
ミゼルさんは悔しそうに表情を歪めるが、反論の言葉が出てこないようだ。
「ジーン、それでそのやり方だと、レバニラとニラレバはどこが違うんだよ?」
ジーンによって、ミゼルさんの主張は取り消されたため、リカルドはジーンに意見を求めた。
「え?いや、うん・・・結局どっちも同じなんじゃ・・・」
「おい!ふざけんなよ!お前も兄ちゃんと同じかよ!?名前が違うんだぞ!?どっか違いがあるに決まってんだろ!?お前がミゼルのレバニラを却下したんだから、お前が違いを証明してみッうぐぁッツ!」
「・・・リカルド、うるさい」
テーブルに身を乗り出して、今にもジーンに掴みかかりそうなリカルドの脇腹に、いつの間にか傍に来ていたユーリの拳が突き刺さっていた。リカルドの顔が痛みに歪む。
「おーい、リカルドー!レバニラもニラレバも同じ料理で何も違いはないぞー」
そして端の方に座るケイトが軽く手を振りながら、俺とジーンの推理と全く同じ答えを告げる。
「なん・・・だと・・・そんな・・・ばか、な・・・」
ユーリの拳と、ケイトから伝えられた衝撃の事実にリカルドが崩れ落ちたところで、注文取りの店員さんが、お決まりですかー?と、笑顔で部屋に入ってきた。




