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413 道神様

その女の子を目にした瞬間、場の気温が一気に下がったように震えがきて鳥肌が立った。


頭を下げているので、赤く長い髪が膝まで垂れ下がっているので顔は見えない。

だから何を持って女の子と断定したのか?そう聞かれると困る。直感としか言えない。

そしてその直感に繋がった要因は、道神様の祠の前に突然現れたという事だった。


俺の直感では、この女の子こそが道神様だ・・・・・



それはカチュアも一緒だったようだ。俺と同じ答えに至ったのだろう。

青ざめた顔で、両の腕で震える自分の体を抱きしめている。


「ア、アラタ、くん・・・」


俺はカチュアの体を抱き寄せて、前を、いや女の子を見据えたままゆっくりと一歩後ずさった。


俺が下がっても女の子に動きはない。

だが、女の子・・・いや道神様が俺とカチュアにも意識を向けている事は分かる。


赤く垂れ下がった髪の隙間から、俺達に目を向けている事が分かる。



「ア、アラタ君・・・あれって、道神様・・・だよね?」


「あぁ・・・間違いないだろう。この存在感、普通じゃない・・・カチュア、このまま道神様の姿が見えなくなるまでゆっくり下がるぞ」


カチュアは黙って頷くと、俺に歩調を合わせて、ゆっくりと一歩づつ後ろに足を下がらせる。

それは、枝を踏む音、砂利を鳴らす音を出す事でさえ命に関わる。そう思える程の緊張感だった。



俺達が数歩後ろに下がったところで、それまで状況がつかめず、俺とカチュアが下がり始めた事をぼんやり見ていたトーマスが、やっと我に返ったかように声を上げた。


「・・・おい!てめぇら逃げてんじゃ・・・ぐっ!」


トーマスは最後まで言葉を発する事はできなかった。

突如、まるで圧縮した空気の塊のような強烈な圧を背中に叩きつけられ、そのまま体を前方に吹き飛ばされたのだ。


受け身も取れず、体に受けた力の流れのままに十数メートル程転がされ、ようやく体が止まったところで、トーマスはやっと場の異変に気付いた。



「ぐ・・・うぅ、がはっ・・・な!?ま、まさか・・・」


口に入った砂利を赤い色の混じった唾と共に吐き出し振り返ると、トーマスは驚愕に顔を引きつらせた。


トーマスもまた一瞬で理解したのだ。

今この目に映った少女こそ、この道で語り継がれた伝説、道神様であると・・・




「なにっ!?」


俺は目を疑った。トーマスが目に見えない力で吹き飛ばされた事よりも、ほんの瞬きの一瞬で、道神様はトーマスのすぐ目の前に立っていたのだ。まるで瞬間移動だ。


隣に立つカチュアも驚きのあまり言葉を出せずにいる。


道神様はその見た目の年齢から考えても、とても小さかった。背丈は120cmあるかないかくらいだろう。転んでいてもトーマスの方が大きく見える程だ。

だが、その圧倒的存在感は、この場にいる全員を呑み込み支配している。



「・・・カチュア、俺から離れるなよ」

「うん・・・」


カチュアは俺の袖を強く掴んだ。


歩調を合わせてまた一歩後ろに下がる。

背中がぐっしょり濡れる程汗が吹き出して止まらなかった。


これは道神様という、いわゆる幽霊だからだろうか?マルゴンとはまた違う、息苦しさを感じるプレッシャーだった。



・・・ゆっくりと一歩、また一歩と下がりながら、俺はある事に気が付いた。


「・・・カチュア、なんで道神様は動かないんだろう?」


「え?・・・・・あ、そう言えば、目の前にトーマスさんがいるのに、何もしない」



道神様から目を離す事ができずにいたからこそ気が付いた。


トーマスを吹き飛ばしたし、一瞬で目の前まで距離を詰めたのに、今はただトーマスの目の前に立っているだけでピクリとも動かないのだ。


トーマスもまた、目の前の道神様のプレッシャーに当てられて、ガチガチと歯を鳴らし身動きできずにいた。


トーマスは道神様を、道神様はトーマスを、お互いにじっと見合っている状態になっている。




「・・・もしかして・・・見られているから?」


「・・・どういう事?」


カチュアの呟きに俺が聞き返すと、カチュアは前を向いたまま、自分の考えを口にした。


「えっと・・・もしかしたら、トーマスさんが見ているから動けないのかなって・・・自信はないんだけど・・・」



「・・・なるほど」


カチュアは自信無さそうだったけど、当たっているのかもしれない。

最初にトーマスを吹き飛ばした攻撃は、トーマスが背中を向けている時だった。


そして俺達は背中を向けずに逃げている。だからこそ俺達は追って来れないのかもしれない。


そして今、トーマスは道神様に顔を向けているから、道神様は動けないのでは・・・・・




「トーマス!そのまま目を離すな!道神様から目を離さずに下がれ!」



俺がトーマスに向かって呼びかけると、トーマスは俺の声に反応し、首を回して俺に顔を向けた。


「こっちを向くな!前を見ろ!目を離さなければ襲われない!」


ほんの一瞬だった。ほんの僅かだけトーマスは道神様からその目を逸らしただけだったが、

トーマスが視線を戻した時には、その眼前数センチの距離に道神様の顔があった。



「うっ・・・ウワァァァァァァァァーッツ!」



あまりの恐怖にトーマスは絶叫し、我を忘れ道神様に背を向けて、俺達に助けを求めて走り出した。


「なっ!?馬鹿!背中を向けるな!道神様を見ろ!くそっ!」


俺がどれだけ叫んでも、今のトーマスには聞こえていないようだ。

トーマスはさっきまで威勢よく俺に絡んできたとは思えない程、取り乱してただこっちに向かって走ってくる。


「落ち着け!道神様を見るんだ!目を離さなければ大丈夫だ!」


「助けてくれぇぇぇぇぇーーーっ!ぐぁっ!」



突然トーマスは背中から地面に倒れた。

滑って転んだという感じではなかった。それはまるで、誰かに後ろから引っ張られたような、そんな倒れかたに見えた。



・・・・・そしてその通りだった。



「ア、アラタ君・・・な、なにあれ?」


「う、腕が・・・・・」


目の前の光景にカチュアが声を震わせる。

俺も息をのみ、そしてトーマスの首の後ろから、目を離す事ができなかった。



・・・・・道神様の右腕が、まるで関節など無いかのように、蛇のようにうねりながら伸びて、トーマスの革ジャンの襟を掴み倒していたのだ。



「な、なんだあれ?」


俺もカチュアも動けずに固まっていると、道神様の伸びた腕が今度は縮まっていき、そのままトーマスもズルズルと引きずられて行く。


「うわぁぁぁぁーーーっ!」


トーマスは俺達に向けて手を伸ばし悲鳴を上げる。

道神様に引きずられ、その姿はどんどん小さくなっていく。

このまま引きずられていけば、二度と帰ってこれない暗い所に連れて行かれるのだろうか。



俺は声をかけて注意は促した。

だが、恐怖で混乱したトーマスは、結局背中を向けて逃げ出し捕まってしまった。


正直に言って、トーマスには悪い感情しかない。

目の前で死なれるのは俺も良い気はしないから、助かる方法は教えたが、これ以上は俺も危険だし手を貸す義理もない。


「・・・・・」


隣に立ち俺の手を握るカチュアの顔を見る。



・・・・・そんな顔しないでくれ。


カチュアは優しいな。乱暴な事をされてもまだ心配している。

前は良いお兄ちゃんだったと言うし、楽しかった思い出も沢山あったんだろうな・・・・・



「・・・・・カチュア、任せてくれ」


「え、アラタ君?」


「無理はしないよ。もし可能なら助けるけど、俺はカチュアを置いて死ぬ気はないから、無理だと思ったら逃げる」


そう告げてカチュアに笑いかけ、俺は駆け出した。


「アラタ君!」


引き留めるようにカチュアが声を出すが、振り返らずに走った。


戦う事は不可能だ。道神様は幽霊なのだろう。

力でどうなるものではないし、そもそも勝てる気がしない。


ならばどうするか・・・・・



「嫌だぁぁぁーッツ!助けて!助けてくれぇぇぇーッツ!」


すでに伸びた腕は元に戻り、道神様はその小さな体でズルズルとトーマスを引きずっている。

その足の向かう先は、道神様の祠だった。

あそこまで行かれたら、おそらくトーマスを助ける手段は無いだろう。


「・・・しかたない。レイチェル、ごめん・・・ほんの一瞬だけだ」


道神様に追いつくと、俺は右手に力を手中させ光の拳を発動させた。

そしてそのまま、トーマスの襟を掴む道神様の右手を掴む。


「トーマスの襟を掴むって事は、逆を言えばこっちも道神様を掴めるって事だ。相手が幽霊であっても掴めるのなら・・・離す事もできる!」


そのまま力を込めて道神様の右手を引き剥がす。やはり光の力は幽霊に効果的のようだ。


「よしっ!これで・・・なっ!?」


道神様の右手を剥がし、俺はすぐさまトーマスの体を起こそうとした。


しかし、道神様は俺に手を剝がされた次の瞬間には、すでに俺の目の前に立っおり、その垂れさがった赤い髪の隙間から覗く闇のように深く黒い瞳で、俺の目を真っ直ぐに見つめていた。




「な・・・くっ・・・」


だめだ。言葉が出てこない。


蛇に睨まれた蛙というヤツだろう。

俺は道神様の目から視線を逸らす事もできず、ただ額から流れる滝のような汗で体を濡らし、立ち尽くすしかなかった。



「う、うわぁぁぁぁぁー!」


隣でトーマスが悲鳴を上げるが、腰を抜かしているようで逃げる事もできずにいる。

このまま俺もトーマスも、道神様に連れて行かれるしかないのか?



そう思い諦めかけた時、ふと俺は道神様の目が濡れている事に気が付いた。


「え・・・涙?」


それは涙だったと思う・・・髪が垂れていて顔をほとんど隠しているから、表情ははっきりと見えないが、よく見ると道神様は、悲しそうな表情をしているように見える。




「・・・・・そっか・・・もしかして」


それまで恐怖しか感じていなかったのに、急に道神様が年相応の小さな女の子に見えた。


カチュアから聞いた話しだと、道神様は家に帰る途中に殺されたという。


見た目で考えれば、まだ5~6歳にしか見えない。




「・・・寂しかったの?」



腰を下ろし、ちゃんと目線を合わせてできるだけ優しい口調で聞いてみる。


少しの間があったが、道神様は微かに頷いた。

なんとなく、気持ちが分かる気がした。俺も日本にいる家族に会えないからだろう。


「・・・お父さん、お母さんに会いたい?」


今度はすぐに頷いた。



「・・・うん、そうだよね。俺も会いたい・・・でも、俺はもう会えないんだ。だからキミの気持ちも少しは分かるつもりだよ。寂しいよね・・・」


返事はないけれど、道神様は黙って俺の話しを聞いているように思える。


「・・・これ、あげるよ。見たい夢が見れる花なんだって・・・寝る時にお父さん、お母さんの事を考えて寝れば、夢で会えるかもしれない。絶対に見れるわけじゃないけど、それでも会えるかもしれない」


そう言って俺は昨日もらった夢見の花を、ポケットから出して道神様の手に握らせた。


「・・・それ一本じゃ見れないかもしれないから、また花を届けに来るよ。キミが寂しくなくなるまで・・・俺また来るから・・・だから、安らかに眠ってほしい」


そう言って俺は道神様を抱きしめた。



・・・・・辛かったね



最後にそう言葉をかけると、道神様の体が光輝きだし、まるで粒子が霧散するように消えていった。




・・・・・お兄ちゃん・・・・・ありがとう・・・・・




道神様が消えて光の粒子が空に登っていくと、静寂の林の中、女の子の可愛らしい声が、まるで風の音のように耳に届いた。



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