411 カチュアの家へ ⑥
「アラタ君・・・私、知らなかったの。お母さんがなんで私に命の石を残してくれたのか。お父さんの事も・・・事故で無くなったって聞いてたけど、詳しい事は教えてもらえなかったの」
カチュアの家で昼食をご馳走になった後、俺達はカチュアのお母さんのお墓参りに来ていた。
お墓はカチュアの家の裏手にある、少し小高い丘の上にあった。
今日は陽が高くこの季節にしては暖かい。風に揺れる草葉が耳に心地良い音を届けてくれる。
「・・・すごく辛い話しだったから・・・カチュアが、大きくなるまで黙ってたんだと思うよ」
お墓は掃除が行き届いており、とても綺麗だった。
カチュアから、フリオさんが毎日散歩でここに来ては、掃除をしていると聞いた。
「うん・・・そうだと思う。それと、アラタ君がいたから今日話してくれたんだよ。だって私一人じゃ・・・本当に辛いから・・・」
そう言ってカチュアは寂しそうに目を伏せた。
「カチュア・・・」
俺は後ろからカチュアをそっと抱きしめた。
フリオさんから聞いた話しは、本当に胸が苦しくなる程辛く悲しいものだった。
カチュアは俺の手に自分の手を合わせる。
「・・・お花、綺麗だね」
街の花屋さんで買った花束を飾ると、カチュアがポツリと呟いた。
「うん・・・綺麗だね」
「お母さん、喜んでくれるかな」
「こんなに綺麗なんだから、きっと喜んでくれてるよ」
「うん、そうだよね・・・・・ねぇ、アラタ君」
「うん」
「ありがとう」
その一言には色々な想いがこめられていた。
俺はしばらくそのままカチュアを抱きしめ続けた。
それから俺はお墓で眠るカチュアのお母さんに、命を助けてもらった事へのお礼と結婚の報告をした。
「・・・アラタ君、そろそろ戻ろうか?」
陽が傾いてきて、風が少し冷たくなってきた。
「そうだね・・・また来よう」
「うん」
・・・・・ありがとう
手を繋いで二人でお墓に背を向けて歩くと、ふいに頬を撫でる風に乗って、誰かに声をかけられた気がした。
「ん?カチュア、今何か言った?」
「え?何も言ってないよ」
俺は足を止めて、カチュアのお母さんのお墓に顔をむけた。
「アラタ君?どうしたの?」
少しの間お墓を見つめてから、俺は深く一礼をした。
「・・・アラタ君?」
「・・・ごめん、行こうか」
「・・・うん」
カチュアが手を向けて来るので、俺はその手をとった。
少しだけ見つめ合い、もう一度お墓に目を向けてから歩き出した。
背中に感じる温かさは、あの時俺が死の淵から生還した時に感じたものと同じ温もりだった。
それは小さい頃、母親に抱き締めてもらった時のような、全てを優しく包み込む・・・そんな温かさだった。
きっとカチュアのお母さん、マリアさんはいつも見守ってくれているんだ。
帰り道はお互い何も話さなかったけど、
繋いだ手から感じるカチュアの存在に、心は通じている。そう感じる事ができた。
その日はカチュアの家に泊まる事になった。
カチュアもここ最近帰っていなかったし、ハンナさんもフリオさんも、ぜひ泊まってほしいと言ってくれたのだ。俺ももっと話したいと思っていたので、その言葉に甘えさせてもらう事にした。
俺は正直に別の世界、日本から来たという事を話した。
最初は冗談を言っているのかと思われたけど、カチュアも一緒に話してくれたので、最後には信じてもらう事ができた。
魔法のあるこの世界だからこそ、突拍子も無いと思える話しでも信じてもらう事ができるのだろう。
日本で同じように違う世界から来たと言えば、頭がおかしいと思われるに違いない。
その夜は、俺はフリオさんに付き合って、あまり飲めないお酒を飲んだ。
日本にいた時も付き合いでビールを飲んだことはあるが、せいぜい二杯しか飲めなかった。
正直何が旨いのか分からない。酒は苦手だ。
だけどなんだか嬉しそうに酒を勧められるので、断るのは申し訳ない。
弱いのであまり飲めないのですが、と断って少し飲んだ。
もしかしたら俺に、カチュアの父親ジュドーさんを重ねているのかもしれない。
よく一緒に酒を飲んだと言うし、孫娘の旦那になる俺と酒を飲むことで、当時を懐かしんでいるのかもしれない。
ハンナさんは早くも曾孫の顔が見たいと言うので、俺とカチュアはお互いにチラリと目を合わせて、咳払いをして黙ってしまった。
いつか子供ができたとして、日本の家族には顔を見せる事はできないだろう。
だけどここにも、子供を待ち望んでいる人達がいるという事がとても嬉しく思えた。
まだ式も挙げていないから早いとは思うけれど、カチュアとの間に子供ができた時の事を考えてみた。
自分も家族を持てる。
この世界での楽しみがまた一つできて、胸が温かくなった。
その夜、俺は客間で一人ベットに横になっていた。
さすがにカチュアの実家で、カチュアと一緒の部屋で寝る事はできない。
ハンナさんには、カチュアと一緒の部屋がいいかと気を使われたが、面と向かってそう言われると意識してしまい逆に無理だ。
この世界には電気が無いので、発光石という光を発する魔道具で室内を照らすのだが、それを消してしまうと一気に真っ暗になる。小さな灯りが欲しい時はロウソクでも使えばいいが、まだ日本の感覚が残っている俺には豆電球が懐かしい。
「・・・これ、どうしようかな」
ゴロリと体の向きを変え、俺は朝寄った花屋さんでもらった、見たい夢を見れるという、夢見の花を手に取り眺めた。真っ暗だがじっと見ていると目が慣れてきて、花の輪郭がぼんやりと目に映ってきた。
見たい夢が無いわけではない。
日本にいる父と母と弟・・・夢の中でもいいから家族に会いたいという気持ちはある。
弥生さんにも・・・・・
もう一人、村戸さん。でも、村戸さんには複雑な気持ちもあった。
マルゴンから聞いた話しだと、村戸さんは今ブロートン帝国にいるという。そして治安部隊のヴァンは村戸さんに慕っていた上司を殺されたという話しだ。
俺にとって村戸さんは恩人と言っていい人だけど、この世界に来た村戸さんの話しを聞いて、正直なところ複雑な気持ちになっていた。
「・・・駄目だ。考えがまとまらない。今日はやめておこう」
夢見の花を置いて枕と頭の位置を合わせると、俺は目を閉じた。




