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410 カチュアの家へ ⑤

トーマスが帰った後、一先ずさっきまでいた部屋に戻り俺はカチュアのお祖父さんに自己紹介と、カチュアとの関係や今日来た理由、これまで経緯を説明した。


俺の話しを聞き終えると、カチュアのお祖父さん、フリオさんというのだが、フリオさんは唇を湿らすようにお茶を一口飲んで話し出した。



「・・・あの男、トーマスはな。近所の面倒見の良い兄ちゃんという感じでな、カチュアも小さい頃はよく遊んでもらったんだよ。でも、カチュアが14~15歳くらいになった頃からだったな、なんとなくだがカチュアに気があるように見えてきてな・・・そして一昨日、カチュアが16歳になった時に交際を申し込まれたそうなんだ。まぁ、カチュアにその気があるようならワシらは反対せんが、あいにくカチュアはトーマスの気持ちは受けれんかったと聞いた」


そこまで話すと、フリオさんはカチュアに目を向けて、続きを話すぞと断ってから話しを続けた。

少し疲れているように見える。やはりさっきの騒動が原因だろう。


カチュアはさっきと同じように、俺のとなりに腰を下しフリオさんの話しを黙って聞いている。

自分の事ではあるが、黙って全てフリオさんに話しをさせるようだ。


「・・・それで終わりだと思ったんだ。普通そうだろう?告白してフラれた。それ以上どうすればいい?ワシや祖母さんの感覚ではそれが普通なんだ。だが、トーマスはそうではなかったようだ。カチュアにフラれても諦めていなかったのは目を見れば分かった。まぁ、何かカチュアが嫌がる事をしてくるわけではないし、ご近所だからな・・・変にギクシャクするのも気まずい。だから気持ちがまだ残っていても、普通に会話ができてこれまで通りに付き合えると言うのであればと、それでほうっておいたんだが・・・まさか、こんな乱暴な事をしてくるとはな・・・・・トーマスとの付き合いは考えねばならんな」


そこまで話すと、フリオさんはあらためて俺に顔を向けた。

65~70歳くらいだろう。小柄で白髪が目立ち、顔には年を重ねた分のシワが刻まれている。


「ワシもな、トーマスがこんな小さい頃から知ってるから、あんな事をされてもまだ情が残ってはいるんだ・・・だがやっぱりさっきあれは駄目だ。危なくてもうカチュアには近寄らせられん。カチュアにもしもの事があったら、マリアに申し訳が立たんからな」


そこで初めて聞く名前に俺が反応すると、フリオさんは少し目を開いて俺に言葉をかけてきた。


「どうかしたかね?」


「あ、そのマリアさんって?」


「あぁ、マリアはワシの娘でカチュアの母親だよ」


フリオさんは懐かしむように目を細め、少し遠くを見る様にして話しだした。


「・・・ちょうどいい機会だ。アラタ君も命の石の話しが聞きたいと言っていたね。マリアの事を話しておこう・・・」



カチュアの母マリア・バレンタインは、生まれつき体が弱く、同じ年頃の子供とかけっこをする事もできなかった。


それでも両親からの愛情を一身に受け、体に負担をかけない生活を心がけ、無事に大人になり結婚もして子供を授かる事ができた。


だが、やはり出産は体に大きな負担をかけた。

元々体が弱いところに更に負担がかかり、マリアはベッドで寝ている日が増えた。


一年二年と時間をかけて少しずつ体調も回復し、身の回りの事は支障がないくらいにできるようになった頃、マリアの夫が事故で亡くなった。



マリアの夫ジュドーは騎士団に所属していた。

貴族社会とも言える騎士団で、ジュドーは使い走りのような扱いを受けていたが、それでも家族のためにと文句の一つもはかずに身を粉にして働いていた。


ジュドーが亡くなったのはそんなある日だった。

城の近隣の見回りは騎士団の仕事の一つである。

賊もそうはでないため、普段は何も問題が起きず、貴族達からすれば散歩がてらの気楽な仕事であった。


だが、その日は違った。

見回りには数人の貴族の騎士と、ジュドーも同行したが、帰って来た時にはジュドーだけがいなかったのだ。


帰って来た騎士の話しでは、ジュドーは足場の悪い道を通ったため転んでしまい、運悪く頭を岩に打ち付け亡くなったというのだ。


その後ジュドーの死体現場での検証もされ、正式に事故死という事で認定された。


しかし、マリア達遺族からすれば素直に納得できる話しではなかった。

転んで頭を打って死んだ。ありえない話しとまでは言わない。そういう事もあるだろう。

だが、妻だから、親だからこそ感じ取れる違和感があった。


ジュドーの死には裏があると・・・・・


しかし、再調査を頼んでも騎士団は全く取り合わず、そのままこの一件は片づけられる事となった。


マリアは悲しみに暮れ食事もとらなくなり、一時は衰弱で倒れてしまうのではと心配されたが、まだ幼いカチュアのためにと、両親にも助けてもらいながら精一杯に生きた。



だが悲運は続く。


カチュアが5歳になった頃、マリアが病気にかかってしまう。

これは病を治す白魔法のキュアでも治す事ができなかった。病は少しづつ体を蝕み、ゆっくりとマリアの命を奪っていった。


この病は、奇しくもシルヴィアが幼少期にかかった病と同じである。

シルヴィアの母は幼いシルヴィアを助けるために、命の石を作り自らの命を引き換えにシルヴィアを助けた。


そしてマリアは・・・・・


ある晩マリアは寝静まったカチュアの顔を見て、一つの事を決心する。


自分はもう助からない。


けれど幸いにもマリアの両親は健在だ。

自分が亡くなった後も、きっとカチュアに沢山の愛情を持って育ててくれるだろう。


子供の成長を見れない事は悲しくて辛い。

だけどカチュアが元気に生きてくれれば、それだけで十分だ。



でも、一つだけ気がかりな事がある。


それは今、自分がかかっているこの病が、将来カチュアにもかかってしまったら・・・・・



「・・・・・それで、マリアは命の石を作ったんだ・・・・・もし、お前が自分と同じ病にかかってしまったらと、それだけを心配してな。カチュア・・・マリアはな、母さんはお前を愛していたぞ。本当に心からな。覚えておらんだろうが、亡くなった時マリアは微笑んでいたよ。最後にお前に残せる物があって・・・」



そこでフリオさんは話しを区切った。


隣に座るカチュアは両手を顔にあて泣いていた。俺も涙が止まらなかった。


それほどの想いを込めた命の石を、俺のために使ってくれたという事実が重く心にのしかかる。

罪悪感すら感じていた。俺なんかのためにそんな大切な石を使わせてしまい、申し訳なさでフリオさんの顔を見る事もできず下を向く事しかできなかった。




「・・・アラタ君、顔を上げてくれ」


フリオさんに声をかけられて、俺は涙をぬぐいながらゆっくり顔を上げた。

何を話していいか分からない。ただ、自分のために使われた命の石の重みに胸が押しつぶされそうだった。



「アラタ君・・・ありがとう。マリアの想いを分かってくれてるんだね。だから、そんなに辛そうに泣いてるんだ・・・カチュアの言う通り、キミは人の痛みが分かる優しい人のようだ」


フリオさんの優しい声に、俺はまた涙が溢れて来た。

俺を責めるどころか気遣ってくれている。


「どうか、カチュアを幸せにしてください。ワシらはそれだけが願いです」


「・・・はい、ありがとうございます。絶対に幸せにします」



両手で涙を拭い、俺はフリオさんに頭を下げた。

となりに座るカチュアが俺の手をそっと握ってくれる。カチュアの方が辛いはずなのに・・・いつも俺の事を考えてくれている。


俺もカチュアの手を握り返した。


この温もりを大切にしよう・・・・・




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