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404 店で過ごす夜 ②

「え、なんで急に?そりゃ有難いけど・・・」


俺が戸惑いがちに聞くと、レイチェルはテーブルに乗せた両手を重ねて、少し考える様に話し出した。


「うん、いやね、私もさっき思いついた事ではあるんだ。エリザの話しだと、近々行動を起こす事は間違いないと思うんだよ。偽国王と戦うって、つまり内乱だよね?それで私達が勝ったとしてだ、もちろん勝つつもりだけどね。落ち着くまでにどのくらいかかるだろうね?アンリエール様が行動に移されたら、しばらくはそういう話しはできないと思うんだ。なんだかんだ先延ばしになる。結婚式はさすがにこの件が済んでからにすべきだけど、アラタもそろそろカチュアの家に挨拶はしたいんじゃないかと思ってね。お墓参りもしたいだろ?」


そう言い終えると、レイチェルは気持ちを確認するように俺とカチュアを交互にじっと見つめた。


「アラタ、どうだい?まぁ、私が口を挟む事ではないとも思うが、もしキミ達がよければ急ではあるが明日行ってきなよ」


「レイチェル・・・ありがとう。俺達の事そんなに考えてくれてたなんて・・・本当にレイチェルには世話になりっぱなしだな」


レイチェルの気持ちが嬉しくて感謝の気持ちを伝えると、レイチェルは少しだけ笑って顔の前で手を振った。


「おいおい、よしてくれ。私はそんなにキミ達の事ばかり考えてるわけじゃないぞ。自分ですすめておいてなんだが、休んだ分は後日しっかりとコキ使わせてもらうから、覚悟するんだぞ?」


「レイチェル、うん!私頑張るからね!なんでも遠慮なく言ってね!」


カチュアはレイチェルの気持ちに感動して、レイチェルの手を握りしめた。


「あはは、今日はよく手を握られるな。分かったからそんなに強く握らないでくれ。うん、じゃあ二人とも明日行ってくるって事でいいかい?」


俺とカチュアは顔を見合わせて気持ちを確認すると、二人で、お願いしますと返事をした。




「うん、分かった。それじゃあ、明日は二人ともしっかり話してくるんだよ」


俺より年下だけど、なんだかレイチェルは姉のような保護者のような感じになってきた。

そんな事をふと思ったら、急に真面目な表情になってレイチェルは話を続けた。



「さて、実はアラタにはもう一つ話したい事があってさ。もう少し付き合ってもらうよ?」


「あぁ、それはいいけど何かな?」


「さっきのジャレットの話しで、シンジョウ・ヤヨイが開いたリサイクルショップの名前がレイジェスでしょ?なんでうちと同じ名前なんだろうね?」



「・・・それは、俺も気になってた」


そうだ。

それは俺も気になっていた事だ。あの場では言わなかったが、なぜ弥生さんが付けたレイジェスという名前がここでも使われているんだ?」

偶然だとはとても思えない。


「時間も遅いし、エリザは早朝ここを発つから後で話そうと思って、あの場では言わなかったが、私はこれが引っかかっていてな。ジャレットも、後でみんなの意見を聞いてくるだろうな」





「・・・あのね・・・多分なんだけど、私・・・店長が関係してる気がするの」


アラタとレイチェルが首をひねっていると、カチュアが少し悩むように、言葉を区切りながら話し出した。

外側に跳ねた少しクセのあるオレンジ色の髪を、指先でくるくる巻いている。


「え、どういう事だ?」


思いもよらぬカチュアの言葉に、レイチェルが身を乗り出してきた。



「う、うん・・・あのね、ずっと前に私店長に聞いた事があるの・・・レイジェスってどういう意味の言葉なんですか?って・・・」


アラタもレイチェルもカチュアの説明に言葉を挟まなかった。

一言一言を口にするカチュアに、ある種の緊張が見て取れたからである。まるで自分が口にしている言葉が禁句であるかのように・・・




【レイという言葉には王という意味があるんだよ。王のいる店という意味でレイジェスなんだ】


【王のいる・・・ですか?あの、レイは分かりましたけど、ジェスにも言葉の意味はあるんですか?】


【・・・ジェス、か・・・フッ・・・ははは、あぁ、いや悪い、何でもない。ただの思い出し笑いだ。ジェスは・・・そうだな、子供の遊び心だ】


【店長・・・?】


【はは・・・ごめんごめん、分かりづらいよな。でもそういう意味なんだよ】




「・・・あの時はね、なんだろう?って、よく分からなかったんだけど、ジャレットさんの話しを聞いた後だと分かる気がするの。ヤヨイさんが付けた名前レイジェス。レイはタジーム・ハメイドを指す王という言葉。ジェスは、スージーとチコリの発音で、です、がジェスって聞こえたから。うん、店長の言う通り、遊び心で付けたって感じだよね・・・・・あの時さ、店長・・・思い出し笑いって言ってたの。まるでそこにいたみたいだよね・・・」



「・・・それは・・・」


レイチェルは言葉に詰まり、それ以上何も言えなかった。

ケイトがセインソルボ山から帰ってきて、山での報告を受けた時からも感じていた事だった。


店長はカエストゥスの人間。姓以外はほとんど分からない。

そしてまるでそこで見て来たかのような言葉の数々・・・・・


辻褄の合う考えが一つ頭に浮かんだ。

だが、80年からせいぜい100年という人間の寿命を考えれば、あまりに非現実的でありえない事だと思い直し、レイチェルはその考えを言葉にはせずに自分の中に押し止めた。



・・・・・そう思いたかった。




「・・・思い出し笑いか・・・確かに、そこにいた人間が使う言葉だよな」


カチュアの言葉を飲み込んで、アラタは自分の考えを口にした。


「俺はこの店の店長と会った事はないから、あまり分かった事は言えないけど・・・聞いた感じだと、店長の言い回しは当事者のように聞こえるよ。でも、200年も前の話しだから、そんなの普通ありえないけどね」


それはたった今、レイチェルが飲み込んだ言葉だった。

奇しくもアラタも同じ考えに及んでいたが、店長バリオスと面識がないアラタは周りとの関係性にまで気が回らず、思った事をサラリと口にしていた。



「ん?レイチェルどうした?」


呆然とした様子でアラタを見つめるレイチェルに、アラタが言葉をかけると、レイチェルはハッと我に返ったように、少しだけ慌てた様子で言葉を返した。


「あ、いや・・・なんでもないんだ。気にしないでくれ。そうだ・・・200年だ・・・ありえるはずはない」


この時、アラタはレイチェルの様子の違いが気にはなったが、触れてほしくないように見えて、そのままこの話題は終わらせる事にした。



「カチュア、明日はおじいさん達の都合大丈夫かな?俺達勝手に決めちゃったけど」


「あ、うん。大丈夫だよ。二人とももう仕事はしてないから、だいたいいつも家にいるの。出かけてても近所の人とお茶飲みだから」


「そうなんだ。なんだかゆっくりしてる感じなのかな?」


「うーん、そうかも。おじいちゃん達と一緒にいると、私もついのんびりしちゃう事多いかな。全然怖くないから安心してね」



話題が変わりアラタとカチュアが明日の話しをし始めると、レイチェルは少しの間何かを考えるように黙っていたが、すぐに会話に加わった。




・・・・・気になるなら聞けばいい。


ただそれだけの事だが、それは簡単なようでとても難しかった。


レイチェルは頭の片隅に残るバリオスへの疑問に目を瞑った。


ありえるはずはない。しかしこの考えならこれまでの全てに説明が付く。


だがもし、もしも・・・自分の推測が当たっていたら・・・・・


どう受け止めていいか分からない・・・・・



以前ならばその場で徹底的に検証したはずだった。

だが、バリオスへの好意に気付いてしまった今、レイチェルはアラタが話しを変えた事を区切りとして、思い違いだと自分に言い聞かせた。



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