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403 店で過ごす夜 ①

12/23誤字を見つけたので訂正しました。内容に変更はありません。

「アラやん、これお前の分な」


ジャレットがアラタにナイロンのような素材で、少し重みがある収納袋を手渡した。

袋を開けると、圧縮された封筒型の寝袋が出て来た。


「・・・寝袋かぁ、なるほど・・・確かに店に泊まるんならこれが一番か」


当然の事だが店内には寝室は無い。

休憩室兼事務所は、テーブルを端に寄せれば一人二人は横になる事はできる。

だが今回のように大人数が泊る場合は、店内の廊下に適当に雑魚寝をする事になる。


「アラやん、寝袋は初めてか?」


早々と寝袋の中に入ったジャレットは、アラタの隣で両手を頭の後ろで組んでリラックスしている。


「はい。俺キャンプとかした事ないし、使う機会は無かったですね。へぇ~、結構暖かいんですね」


アラタもジャレットを真似て寝袋に入ると、頭の後ろで手を組み天井を見上げる。

不思議な気分だった。いつも働いている店の通路で、寝袋に入り横になっている。頭の後ろにはいつも手入れをしている鎧や兜が置いてあってそこで横になる。

営業中ではとても考えられない事だ。不思議でなんだかとても楽しい気持ちだった。


「キャンプ?アラやんの世界のキャンプはどんなんだ?」


ジャレットが興味をもったようにアラタに顔を向ける。



「・・・あ、そっか・・・こっちの世界じゃ夜は外出れないからですね。日本のキャンプは、簡単に言えば山とか川でテント張って飲み食いする感じですね。それで夜寝る時に寝袋を使うんです」


ジャレットはアラタの説明に、なるほど、と頷いた。


「アラやんの世界は夜出れるからいいよな。こっちは陽のあるうちに食事すませて、夜はテントの中で寝るだけだ。正直イマイチだぜ」


ジャレットはつまらなそうに息を吐いた。


「・・・それは、確かに物足りないですね」


なんとなく日本の事を思い出した。

俺はキャンプをした事はないが、村戸さんはアウトドアだから、夏は花火だBBQだと言ってキャンプもしていたっけな。




「よぉ、俺もここで寝させてもらうぜ」


アラタが薄暗い天井をじっと見つめていると、寝袋を持ったミゼルがアラタとジャレットの前に立った。



「アラタ、また何か考えてたのか?カチュアの言う通りだな」


そう言うとミゼルは、ジャレットを挟んでアラタの隣に寝袋を敷いた。


「あ、ミゼルさん・・・カチュアの言う通りってなんです?」


「お前はよく考え事をして、一人の世界に入る事があるって言ってたぜ。あんま寂しがらせんなよ?」


ミゼルは足だけ寝袋に入れると、そのまま上半身は後ろの棚にもたれさせた。


「・・・はい。よくカチュアに言われてます」


カチュアはもう慣れたと言っていたけど、だからと言って一緒にいる時に他の事に気を取られるのはあまりにカチュアに悪い。これからは気を付けよう。


「まぁそう気にすんな。別にカチュアは怒ってもいないし、ガッカリもしてなかったよ。雑談でちょっと口にしただけだ。それよりアラタ、さっきの話しでシンジョウ・ヤヨイも光の力を使ったらしいが・・・お前と同じ力だよな?」


ミゼルさんは俺には顔を向けなかった。

話しかけているけど独り言のような、そんな口ぶりだった。


「・・・弥生さんの光の力・・・」


北の街メディシングでの防衛戦で、弥生さんは光の力に目覚めた。

話しに聞いた限りでは俺の光と同じ力だと思う。


「・・・はい。多分俺の力と同じだと思います」



「・・・そうか、つまりお前とシンジョウ・ヤヨイ。そしてムラト・シュウイチのニホンから来た三人は、全員が光の力を使えるって事か。なぁジャレット、これってどういう事だ?」


ミゼルは視線だけアラタを越えてその隣のジャレットに向けた。


「・・・アラやんみたく異なる世界からこっちに来ると、この世界に順応しようとして特別な力を身に着けるんじゃねぇか?ニホンには魔法は無いらしいからな、それが魔法を使える世界に来た。それで体の中で何かが変わるんじゃねぇのか・・・って考えはどうだよ?」


ジャレットも上半身を起こし、自分の仮説を口にしてみた。

即席で出した言葉の割には、筋の通った考えにアラタもミゼルもなるほどと声を出した。



「けっこう有力な考えだと思うぜ」


「はい、俺も素直に言葉が入ってきました」


アラタも体を起こしジャレットに顔を向ける。

日本からこの世界に来て、なぜ自分はこんな力を身に着けたのかと謎だったが、自分だけでなく弥生も修一も同じ力を持っていた。

それはやはりこの転移が関係しているのだとは思っていた。そしてジャレットの言う、魔法が使えなかった世界から使える世界に来た事で、体がこの世界に順応しようとした結果。という考えは頷けるものだった。



そのまま三人で話していると、リカルドとジーンも寝袋を持ってやってきた。


「なんだ、お前達も来たのか?」


ジャレットが笑うと、ジーンが頭を掻いて少し困ったように話した。


「いや、僕は自分の青魔法コーナーで寝ようと思ったんだけど、ケイトが来てさ・・・隣で寝るだけだからって言うんけど、さすがにちょっと・・・」


「ほおー!さすがケイティーだな!いいじゃん、どうせ一緒に住んでんだし気にするなよ」


ジャレットがからかうように少し高い声を出すと、ジロリとジーンが睨む。


「おいおい、冗談だよ冗談!睨むなって。そんでリカルドはどうしたんだ?」


「あぁ、俺はなんか寝れねぇし暇だからよ。こっちでお前らの話し声が聞こえたから来たんだよ。食い物の話しなら俺もまぜろよ」


「いや、全然違うからな」


ジャレットが冷静にツッコミを入れると、リカルドは笑いながらジャレットの隣に腰を下ろし寝袋に入った。


「リカルドはブレないな」


ジーンもクスリと笑い、リカルドの隣に寝袋を敷くと、座ったまま背伸びをして体をほぐす。





「おー、これは男が勢揃いじゃないかい?」


談笑しているとレイチェルが棚の陰から顔を出し声をかけてきた。

白いパジャマ姿で、リラックスしているようだ。


「ん、レイチーじゃねぇか。どうしたんだ?女子はあっちで固まってんじゃないのか?」


ジャレットが反対側の白魔法コーナーの方を指差した。


「いや、ちょっとアラタと話したくてね。盛り上がってたとこ悪いけど、ちょっと借りていいかい?」


「え、俺?いいけど、なんかあったか?」


「なに、カチュアからキミを取ろうと、口説くわけじゃないから安心してくれ。ただ、少しあらたまった話しだから事務所に来てくれないか?」


そう言われると着いて行くしかたない。

アラタはジャレット達に、じゃあちょっと、と言ってレイチェルに着いて事務所へ入った。




「お待たせ、アラタも連れてきたよ」


事務所にはピンク色のパジャマに着替えたカチュアが一人、椅子に座って紅茶を飲んでいた。

レモンの甘い香りがほのかにただよう。


「あ!アラタ君」


カチュアはアラタの顔を見て、嬉しそうに声を上げる。


「あれ、カチュアもいたんだ。どうしたんだ?」


カチュアの隣に腰を下ろす。


「えっと、私もレイチェルに話しがあるって言われて待ってたの。アラタ君も呼んでくるって聞いてたけど・・・レイチェル、話しってなに?」



カチュアが正面に座るレイチェルに向き直ると、アラタもそれに倣ってレイチェルに体を向ける。


アラタとカチュアの顔を交互に見て、レイチェルは笑顔で口を開いた。



「うん。あのさ、キミ達は明日休みにするから、カチュアの家に行って結婚の許可もらってきなよ」



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