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04 最初の朝

8/27 読み返したら見づらいと思いましたので、改行だけやり直しました。

内容に変更はありません。

「朝だぞー、いつまで寝てるんだい?今日から働くんだから、早く起きなよ」


体をゆすられ、少しづつ意識が覚醒していく。なにか夢を見ていた気もするが覚えていない。

自分で思っていたより疲れていたのだろう。深い眠りだったようだ。



上半身を起こして少し目をこすると、まどろんでいた意識もだんだんとハッキリしてくる。

窓から光が差し込んできて、その眩しさに目を細める。


朝か・・・

昨夜の恐怖が思い出されたけど、今はもうあの嫌な視線も何も感じない。

レイチェルはアレを闇の主と言っていたけれど、その言葉通りなら、陽が昇れば恐れる必要はないという事だろう。



レイチェルがカーテンを開けたので、外へ目を向けて見た。ここは住宅地から少し離れた場所のようだ。

窓の外には樹が生い茂っているが、少し遠くに目をやると、レンガ作りの洋風の家が建ち並び、人通りも多そうに見える。


「・・・マジなのか」


その景色を見て俺は、ここが少なくとも日本じゃない事を完全に理解した。

あんな建物は、テーマパークでもなければ日本ではそう見かける事は無いと思う。それが何軒も並んでいるんだ。印象としてはテレビやネットで見た、ヨーロッパの風景が一番近い。



「ん?何か言ったかい?起きたんなら顔洗ってきなよ。あ、洗面所は部屋出てすぐ隣だよ。それと昨日キミの着てた服を洗っておいたんだ。もう乾いたから着替えておいで、朝食はできてるからね」


レイチェルはテキパキと俺に指示を出してくる。手際が良いし、人の使い方にも慣れている様子だ。

朝の準備ができているようだし、きっと仕事ができる人なんだろうなと思った。


ベットから降りると、ふとレイチェルの服装に目がいった。

髪の色と似た感じの光沢のある赤の半袖Tシャツに、ハーフ丈の黒のカーゴパンツを穿いている。

異世界と言っても服の文化には、そう大きな違いは無さそうだ。



「あ、土の寝間着は洗面所のカゴにいれておいてね」


「・・・土の寝間着?」


「キミが今着てる寝間着の事だよ。クインズベリー国は大地の精霊の加護を受けてるんだ。だから地震や土砂の災害ってのがほとんどないんだよ。あっても小さいね。土の寝巻は少しだけど治癒効果もあるから、軽い風邪やスリ傷程度なら、それ着て一日寝てれば治るよ」


そうか。昨日レイチェルも着ていたけど、これは伝統衣装みたいな物か。俺は倒れていたようだから、治癒効果のある寝間着を着せてくれたんだな。


「まるで魔法だな・・・」


ぼそっと言葉が口をついて出た。

異世界、本当に俺は異世界に来てしまったのか?いや、昨夜のアレに、この景色・・・壮大なドッキリという事も・・・いや、無いな。俺にそんな事をする人物は思い当たらないし、する理由もないだろう。


もう受け入れるしかないようだ。



「・・・ありがとう。とりあえず、顔洗って来るよ」


「おいおい、朝から顔が曇ってるぞ?・・・まぁ、昨日の今日だからしかたないのかな。準備ができたらキッチンに来なよ」


そう言ってドアを開けると、レイチェルは広間を指差して部屋から出て行った。




異世界で迎える最初の朝。窓から差し込む陽の光は、日本となにも変わらないように感じる。


日本は夏だったが、この世界も四季があるのなら今は夏なのだろう。

カラっとした陽気を感じながら、俺は洗面所へ足を向けた。


そして顔を洗い着替えを終えてキッチンのある広間に行くと、レイチェルがテーブルに座って待っていた。


木製の食器棚と、木製のテーブル、ここはどれも木製がほとんどだが、シンク台は鉄を使っているようだ。水道は無いようで桶に水が張ってある。


俺に気づくと、自分の目の前の席を指さした。座れという事だろう。


イスを引いて腰を下ろした俺の目の前には、トーストと目玉焼き、ミルクが置いてあった。

茶碗や皿も木製だ。この世界の技術がどの程度か分からないが、綺麗な丸皿を見ると、加工の技術は優れているように感じる。



「・・・異世界って言っても、食べ物は同じようなものなんだな」


「アラタの世界もこんな食べ物なのかい?」


「そうだね。こういうのが多いよ。じゃ、食べていいかな?」


どうぞ、と言われたので、俺はいただきますと口にしてから、テーブル中央にあるバターらしき物を取り、トーストに塗ってみる。


「・・・うん。これはバターだ」

「キミは何を言ってるんだい?」

「いや、バターだなって。こっちもこれはバターでいいの?」

「バターだよ」

「そっか、うん。バターはバターなんだな。バターで安心したよ」

「キミは何を言ってるんだい?」



トーストも目玉焼きも、日本で食べたものと変わらないように感じた。

昨夜は焼き魚にご飯だったし、食の文化が同じならば食事は悩まなくてよさそうだ。


食器洗いもレイチェルがやってくれた。さすがに洗いものくらいはやろうとしたが、いいから座ってなよと言って、レイチェルがやってしまった。


考えてみれば、倒れていたところを助けて泊めてくれた上に、着替えやご飯まで出してくれた。

見ず知らずの男にこんなに親切にしてくれるなんて、普通ありえないだろう。




「ありがとう」


「ん?どうしたんだい?いきなり」


洗い物を終えたレイチェルが、飲み物をトレーに乗せて席に着いた。

グラスには透明の液体と輪切りのレモンが乗っている。


「うん・・・倒れてたとこ助けてくれたし、着替えとか、ご飯とかさ、見ず知らずの俺にこんなに親切にしてくれて・・・ありがとう」


「店の前で倒れてたんだもん。そりゃ助けるよ。あとは成り行きだよね。昨日話した感じでさ、なんとなくだけど悪い人じゃなさそうだったし、なんかほっとけなかったからさ。異世界人だっていうしね。まぁ、気にしないでよ。店でコキ使うからさ。働いてくれるんだろ?」


「あ、うん・・・俺でいいなら、働かせてほしい。こんなに親切にしてもらったんだから、恩返しをさせてほしい」


良かった、そう言ってレイチェルは歯を見せて笑うと、俺の前髪を摘まみ上げた。


「それはそうと、髪は切ろうか。ずっと気になってたんだよね。特に前髪長すぎない?なんか暗く見えるよ。接客なんだし少しは明るい感じにしようよ。それ飲んだら私が切ろう」


接客というのは、やはり見た目を色々言われるようだ。

村戸さんにも切ったほうがいいと言われたし、異世界でも同じなんだな。

グラスの液体はレモネードのような味がして、どこか懐かしさを感じた。



「なぁレイチェル」


「なんだい?」


「髪の色はなんでもいいの?」


「色?どういう事?」


「ほら、黒でないと駄目とかあるじゃん?長いのもあんまり良くないんでしょ?」


「黒でないと駄目?アラタの世界はそうなのかい?だってさ、色は変えられないんだから、どうしようもないでしょ?別に長くてもいいんだけど、アラタの場合はなんか暗そうだから」



朝食を終え、背もたれのない四つ足の丸イスに腰を下ろし、俺はレイチェルに髪を切ってもらっていた。


日本にいた頃はカット専門の格安チェーン店で、流れ作業で切ってもらっていたので店員との会話もなかったし、切り終わるまで目を閉じていただけだったから、切ってもらいながら話すのは新鮮だった。


「色は変えられない?えっと、こっちはカラーはないの?俺の元居た世界は髪色は変えられたよ。んで、基本的に接客は黒が多いね」


「へー、髪色変えられるなんて面白そうだね。考えた事も無かったよ。こっちは長いか短いかくらいでしか判断しないね。色なんて、赤でも青でも緑でもなんでも有りだよ。そういうものだしね」


話しながらレイチェルは慣れた手つきで俺の髪をカットしていく。

美容室のように正面に鏡がないから、どんな感じか途中確認ができないが、器用にカットしていく様子から仕上がりに期待をしてしまう。



「・・・よし!できたよ。どうだい?」


手鏡を渡され自分の顔を映してみると、目に入りそうなくらいまで伸びていた前髪は、眉の上までバッサリ切られて、サイドも耳が全部でて、襟足も刈り上げ手前くらいだった。


「・・・けっこう短くしたね。こんな短いのは久しぶりだな」


「キミはこのくらいのがいいよ。あとはこうして前髪上げちゃえばかっこいいんじゃない?」


そう言うと灰皿くらいの大きさの瓶からなにかを手に付け、俺の髪を上げていった。

ワックスみたいな物だろうか。上げられた前髪を触ってみると少しだけ粘り気があった。



「・・・よし!これでいいね。全然雰囲気変わったよ。キミって意外と男らしい顔だね」


ビニールのような質感の茶色のケープを外し、鏡に映る自分をあらためて見てみる。


男らしい顔か・・・そう言えば、弥生さんにもそんな風に言われた事があったな。




・・・・・新って性格が根暗っぽいのに、髪上げると意外に男らしい顔だよね?目もなんか力強いし、ちょっと彫りも深くない?ヤバイ、なんか笑えてきた・・・・・



そうだ・・・あの時、なんか大笑いされたんだった。

全くあの人は俺をからかうのが趣味なのか?ってくらいちょっかいを出してくる。

弥生さん・・・あの後どうなったんだろう。無事だといいが・・・・・



「さて、髪も切ったしそろそろお店行こうか」


「うん・・・そうだね。少し緊張するけど」


「大丈夫だよ、じゃあ靴を穿いて待ってて、髪を集めたらすぐ行くから」


本当に面倒見が良い人だ。レイチェルは髪を切るとすぐに帚を持ってきて掃除を始めた。

代わろうとするが、いいからいいからと手際よくやってしまう。ここまで面倒を見てもらっていいのかなと気持ちが顔に出たようだ。

レイチェルは、仕事でバリバリ返してもらうよ、と言ってイタズラっ子のように笑った。




「お待たせ、それじゃ行くよ。と言ってもすぐ隣なんだけどね」


掃除を終えたレイチェルが玄関に来た。

レイチェルの履物は、靴というかグラディエーターのような茶色のサンダルだった。


日本でも夏場に女の人が穿いているのを見た事がある。

レイチェルは俺のスニーカーを見ると、変わった靴だね?と一言もらした。


さすがにスニーカーは無さそうだ。


そして俺はレイチェルと連れ立って外に出た。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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