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【383 希望の癒し】

「くっ、駄目だ!全く通用しない・・・」


エリン・スペンスは憎々し気に歯噛みをする。

弓兵による矢、黒魔法使いの風魔法、その全てがセシリア・シールズには通用しなかった。


ジョルジュに代わり指揮をとっているエリンは、遠くを見通せる魔道具、遠目の鏡で状況は理解していた。


セシリアを狙い、高台から飛び降りて森へと入って行ったジョルジュだが、セシリアとの戦闘中に乱入してきた深紅のローブの男、ジャミール・ディーロが立ちふさがり、セシリアに逃げられてしまった。


このジャミール・ディーロも相当な使い手だという事は、ジョルジュが黙ってセシリアを行かせた事で分かる。余裕があれば、ジョルジュはセシリアを攻撃していたはずだからだ。


そしてそのセシリアは現在、向かってくる無数の矢を軽々と斬り落とし、風魔法をその体から発している炎で防ぎ、悠々と余裕を見せながら、この高台に歩き近づいて来る。



「・・・くっ、私がやるしかない!」


エリンは腰から剣を抜き覚悟を決めた。

セシリアとの力の差は言われずとも理解している。一対一では万に一つも勝ち目は無いだろう。


だが、今回は後ろにジャニスがいる。

そして大勢の魔法使い達もついている。力を合わせればなんとか戦えるはずだ。


「総員!セシリアが来たら私が迎え撃つ!青魔法使いは結界での援護を頼む!黒魔法使いは上級魔法だ!もはや地形を気にかける余裕はないため全属性の使用を許可するが、できる限り竜氷縛とトルネードバーストを中心にする事!」


セシリアへの攻撃がまるで通用しない事から、気後れしていないか懸念したが、兵士達の高い返事から士気が落ちていない事に安堵する。




「・・・あら、私とやる気?いいわね・・・でも」


肉眼でエリンの姿を確認できる程近づいたところで、セシリアは嬉しそうに微笑んだ。

見れば分かる。高い所から自分を見下ろして剣を構える女は、実力的にはジョルジュやヤヨイより、一段も二段も劣る。


だが、自分に剣を向けるその表情、目からは全く恐怖も迷いもない、死をも覚悟した気迫が見えた。



「あなたも素敵よ」



エリンと視線が交わるとセシリアは足を止め、深紅の片手剣 血狂刃を握る手に力を込めた。

剣から発せられる炎が赤々と燃え上がる。






私と目が合ったセシリアは妖しく微笑んだ。位置的に高台に立つ私がセシリアを見下ろす形になる。

距離にして数メートル、セシリアならば軽く飛んで越えられる高さだろう。

だから、私はそこに狙いを付けた。

ここまで飛んで来た時、その着地の瞬間に渾身の一撃を振るう。

実力差を埋めるためにの奇襲だ。


いつでも来い!

眼下のセシリアを睨みつけ、剣をを構える腕に力を込め直したその時・・・


視界からセシリアが消えた。


一瞬、思考が途切れる。


なにが起きた?セシリアはどこだ?


そう思った時には、炎を宿すセシリアの片手剣の切っ先が目の前だった。


躱せた事は偶然、そして運が良かっただけだろう。


何も考えず、ただ自分の反射神経に身をゆだねた結果、紅い刃は左耳をかすめ、髪を焼き斬りながら通過していった。


次に同じ刺突を躱せるかと聞かれれば、おそらく不可能だ。



「くっ!」


一歩大きく後ろに飛び退く。

全身から汗が吹き出し思考を取り戻す。左耳からボタボタと血が流れている事を感じるが、ダメージを確認する余裕は全くない。


いつの間に飛んで来た?全く見えなかった。それほどのスピードだと言うのか?


目の前に立つセシリアから意識を逸らしたら、それで最後だろう。

一瞬でも目を離せば殺される。悔しいがそれほどの力の差だ・・・


「あら?今のよく躱したわね?私が思ってる以上に強いのかしら?じゃあ、もう少し本気出してもいいわよね?」


セシリアは地面に向けて剣を軽く振り、切っ先に付いた私の血を飛ばす。

体から発している炎が強さを増し、まるで重い空気と熱に体を押されるようなプレッシャーに、私は立っている事がやっとだった。


たったこれだけの攻防で、私はもう肩で息が上がっている。


だめだ・・・とても敵わない。いや、相手にさえならない・・・私では時間稼ぎにすらならない。




「撃て!」


心が折れかけたその時、背中に聞こえた号令と共に、私の後ろから撃ち放たれた数体の氷の竜が、セシリアに襲い掛かった。


氷の上級魔法 竜氷縛


「エリン様をお助けしろ!」

「黒魔法使いは撃ち続けろ!」

「セシリアに反撃の隙をあたえるな!」



「いいわね・・・みんな健気に頑張っちゃって・・・」


それぞれ3~4メートルはあるだろう氷の竜が、セシリアを喰らわんと大きく顎を開けた時、セシリアの体から発する炎が一層強く激しく燃え上がり、竜氷瀑を一瞬で溶かし蒸発させる。


「なにっ!?」


「うふふ・・・確かウィッカーも同じ魔法を使ってたけど、あなた達のはまるでお話しにならないわ。術者でこんなにも威力が違うなんて残酷よね」


セシリアの瞳に火が灯った瞬間、視線を合わせた魔法使い達が次々と苦しそうに喉や胸を押さえ、うめき声を上げて倒れていく。


「くっ!やめろセシリアッ!」


「あはははは!熱い?熱いでしょ!?」


私は声を上げたが、セシリアはもう私なんて眼中に入っていないかのように、笑いながら苦しむ魔法使い達を見ている。


おそらく一瞬で斬り殺されるだろう。

だが、意を決し、セシリアに斬りかかろうとしたその時・・・


「体の中から焼かれるなんてどんな気分・・・え!?」






「大丈夫。すぐに楽になるからね」


一本に結んだ明るい栗色の髪、白いパイピングの深い緑色のローブを着て、倒れている魔法使い達に手を当てているのはジャニス様だった。


不安も恐怖も、一瞬で消してしまうような優しさに満ちた声に、私は戦闘中にも関わらずセシリアから目を離してしまった。


致命的な隙だったが、しかしセシリアもまたジャニス様に目を奪われていた。

なぜなら、今まさにもがき苦しんでいた兵士達が、ほんの一瞬の間に次々と立ち上がっていくのだ。


信じられない程の癒しの力だ。



「あなた・・・なによそれ?もしかしてヒールなの?こんな一瞬で・・・」


表額の表情を浮かべ、ジャニス様を凝視するセシリアに対し、ジャニス様は立ち上がるとその瞳を真正面から見返して言葉を発した。



「私はジャニス!ジャニス・コルバート!カエストゥスは私が護る!」



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